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【絵本レビュー】 『おうさまのたからもの』

作者/絵:糟屋奈美
出版社:至光社
発行日:2017年9月

『おうさまのたからもの』のあらすじ:

ほんとうにたいせつな宝物って なんでしょう?おうさまは、すてきな箱に入れる宝物を探しにお城の外へでかけます。
でも、宝物はなかなか見つかりません。泣いているおうさまを森のどうぶつたちがなぐさめていると、どこからか別の泣き声が聞こえてきて……。


『おうさまのたからもの』を読んだ感想:

お久しぶりです。元気にしていますか。レビューを書く時間が取りづらいこの頃ですが、私は日々絵本を読んで元気にしています。

この絵本を読んだのはかなり前になりますが、読んですぐ蘇ってきたのは小学校の卒業記念にもらったオルゴール箱でした。ワインレッド色の木でできたオルゴール箱を開けると、校歌が流れてきます。校歌なんだとちょっとがっかりすると同時に、苦笑いが浮かんできました。卒業後、私はみんなと違う中学校に進むことになっていて、もうこの歌を歌うことはないんだなと、ほっとした記憶があります。

小学校時代はそれなりに楽しかったし、成績も悪い方ではなかったけれど、いつもどこか緊張していたように思います。学校生活でよくある「二人組」がとても苦手で、誰かに誘ってもらえるようにいつも私は声がかかるのを待っていたのだと思います。私たちのクラスに女子は11人。一人余ってしまうのは必然で、そうすると男子21人の余った子とペアになるわけですが、「別にいいじゃん」と開き直ることができず二人組が恐怖にさえなっていました。

また、小学校高学年になってニキビに悩まされる様になり、心無い男子からよくからかわれてしまったことも自信を持てなくなった理由の一つだったかもしれません。そういえば、この頃から写真を撮られるのも嫌いになりました。ニキビだらけの自分の顔を見たくなかったんです。

原因はともあれ、いまならわかります。自己肯定感が低くなっていたんですね。そしてニキビ顔への自己嫌悪。二人組の相手を待っていた私の目は、きっと拾ってくれる人を探している捨て犬のそれと同じだったに違いありません。

だから、小学校の卒業そして中学入学は私にとってとてもいい転機でした。過去6年を知る人のいないところで新しい自分になれる。生き苦しかった小学校から縁を切れる、あのオルゴールはその象徴だった様に思います。

だから、オルゴールは家に帰ったらさっさと捨てようと思っていました。なのに私はそれを大学生になっても持ち続けていたのです。箱を開けると小さな宝石箱になっていて、そこに赤ちゃんの時つけていたブレスレッドや旅行先で買ってもらった綺麗な石の指輪、海で拾った貝殻をしまっていました。「宝」という感覚はなかったけれど、「貴い」ものと感じていたことを覚えています。そして何よりもそんな貴重なものを入れておける特別な箱があるということが、私にとって大事でした。

そのオルゴールは引っ越しの際に割れてしまい、捨ててしまいました。それ以来私は宝箱を持ったことがありません。そういえば、宝石箱すらありません。きっとそれは、宝の形が変わったからなのではないでしょうか。形あるものから、ないものへと。

絵本を通じて自分探しをする旅ももう2年以上続いていて、この半年ちょっとくらいはとても深い話をするようになりました。辛い思い、悲しい思いをした心は防衛力が強く、防御を下げようと思ってもなかなかできません。心の奥にある自分自身を他者と共有するというのは、弱い部分を見せることになるので、そう簡単にできません。ここは安心と思っていただくのに2年かかったのかもしれないし、何か安心と思えるきっかけがあったのかもしれません。でも傷ついた心が安全と思える場所を作ることができた、ということは私の最近の宝であるなあ、と感じています。

そして失敗ばかりしているダメ母ちゃんを慕ってきてくれるうちの6歳児との日々も、やはり箱にしまっておくことはできません。だからダメ母ちゃんでもダメなりに、そんな宝を大切に保管しておく心の宝箱を大切にしたいなと思う今日この頃なのです。

あなたは、どんな宝をどんな箱にしまいたいですか。


『おうさまのたからもの』の作者紹介:

糟屋奈美
東京都生まれ。海辺の街、葉山育ち。現在、東京都在住。 2001年 絵本作家デビュー 最近の著書 「おうさまのたからもの」(至光社) 「わたし うみに いったのよ」(月刊「こどものせかい」至光社) 油彩・水彩・切り絵など、いろいろな技法で表現。 海で泳いだり、野原で野うさぎと走りまわり豊かな自然の中で過ごし、家族と物語を創るなど創造的で自由な気風の中に育った糟谷奈美さん。 「子どもの時に、絵本作家さん数人と話した際、大人になっても子どもと同じ感受性の豊かな人がいる事に感動し、それをきっかけに絵本作家を目指しました」 感じる心の豊かな、幼ごころを持つ大人になることを志し、 いつも「子どもの時 ふっと感じた風を表現したい」と絵本をつくっています。


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