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【絵本レビュー】 『アナベルとふしぎなけいと』

作者:マック・バーネット
絵:ジョン・クラッセン
訳:なかがわちひろ
出版社:あすなろ書房
発行日:2012年9月

『アナベルとふしぎなけいと』のあらすじ:

アナベルのけいとは、ふしぎなけいと。編んでも編んでもなくならない。
自分の服を編んでも、クラスみんなの服を編んでも、町中の動物たちの服を編んでもなくならなかった。そこで…。


『アナベルとふしぎなけいと』を読んだ感想:

編んでも編んでもなくならない毛糸があったらどうしますか。

毛糸でなくてもいいですね。使っても使ってもなくならない何かがあったら、どうしましょう。私もアナベルと同じように、まずは自分の欲しいものやしたいことを全部すると思います。それが全部満たされたら?プレゼントし始めますか、それともそれを売って商売を始めるでしょうか。

「お金で幸せは買えるのか」
これは永遠のテーマのような気がします。お金持ちになれば幸せになれるのか。これは少し前の我が家のテーマでもありました。

私は自分の仕事を安く売ってしまう傾向があります。高い値をつけて買ってもらえないかもしれないという恐怖があることも理由の一つですが、私の作品が好きだと言ってくれる人の多くに作品が届いて欲しいと思うのも事実です。

「アートは買える人が買えばいい」という人もいるかもしれません。アートを買えるお金がないなら、部屋は既製のポスターでいいだろうと言うかもしれません。私にはそうとも言い切れないのです。高値のものが買える人は買えばいいし、そうでない人にも手が届くようなアートがあってもいいと思うのです。でもそう思って値をつけると、私は大抵叱られます。「チャリティーじゃないんだぞ」って。

「お金持ちになったら幸せになれる」と私は思いません。今現在大きな家が欲しいとか旅行に行きたいとか、お金があれば今すぐできることはあります。でも、それが幸せに直結するようには思えないのです。大きい家に引っ越したいのに高いから引っ越せないことに不満を感じることは否めませんが、不満と不幸は同じではないと思います。欲求が満たされないことは、お金があっても生じますよね。

もう一つは、アナベルはいったいいつまでセーターをプレゼントし続けることができるでしょうか、ということです。もし毛糸が延々と出て来なかったら、アナベルは無駄遣いしないようにしたのでしょうか。

コーチングを始めた今年の初め、私はまだ練習中という気持ちもあって、無料でセッションをしていました。最初は私も慣れていなく、セッションしながらもどこか不安でしたし、私自身の勉強にもなっていました。それが一人、二人と会っていくうちに、私は私の時間を無料で提供しているのだな、という気持ちになりました。セッションの時間だけではありません。その前に準備をして、その後にもセッションを見直す時間が必要です。クライアントさんたちも前進していっているし、何よりもとても喜んでくれています。それは私もとても嬉しいのですが、何かが欠けていたのです。

ちょっと母親業にも似ていますね。私の持っている全ての時間を費やして子供や家族をサポートします。家族の嬉しそうな顔や、向上していく様子を見ると達成感もあります。時々「ありがとう」なんて言ってもらえると、気持ちも弾みます。でもこれも無償の提供なのです。

ベビーシッターさんを三時間頼んで三十ユーロ払いますが、今日私は八時間子供の面倒を見て八十ユーロはもらえませんでした。「母親なんだから当然でしょ」と言われるかもしれませんが、他の子供の面倒を見たらもらえますよね。

仕事で忙しい友人の子供を好意で預かってあげることもあるかもしれません。友達も喜んでくれたし、気持ちもいいですよね。でもそれがしょっちゅうになって、あなたが預かって欲しい時にその友達が預かってくれなかったらどうでしょう。もしかしたら、その友人の子供を預かることも前ほど楽しくないかもしれません。助け合いや寛大であることは大切だと思います。しかし、どこまで寛大になれるのでしょうか。自分のものを提供し続けることは、幸せに繋がるのでしょうか。

使っても使ってもなくならない時間やエネルギーがあったら、考え方も変わるのかもしれませんけどね。


『アナベルとふしぎなけいと』の作者紹介:


マック・バーネット(Mac Barnett)
1982年、アメリカ、カリフォルニア州生まれ。
“Billy Twitters and his Blue Whale Problem”など、絵本のテキストを何作も手がける。本書で、2012年ボストングローブ・ホーンブック賞を受賞。アメリカ、サンフランシスコ在住。


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