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【絵本レビュー】 『ネコの住むまち』

作者/絵:イブ・スパング・オルセン
訳:ひだにれいこ
出版社:BL出版
発行日:1983年8月

『ネコの住むまち』のあらすじ:

ラウラとラッセの姉弟は、コペンハーゲンにある大きなマンションに引っ越してきた。窓から見えるのはネコがたくさんいる不思議な家と、古いまち並み。二人は遊びに出かけますが、途中でラッセがいなくなりました。弟を見つけようとラウラはまちを探検します。ところが、そこには想像を超える冒険が待っていました……。

『ネコの住むまち』を読んだ感想:

最近気に入っているイブ・スパング・オルセンさんの絵本です。彼の絵本だからということもありますが、「ネコの住むまち」と聞いて読まざるを得なかったというのも、手にした大きな理由です。

我が家には二度ネコが今日共同生活をしていた時期がありました。一度目は父が連れて来たネコで、二度目は私がスイミングクラブに迷い込んで来たのを連れて帰ったネコでした。

一匹目のネコはまだ片手に乗るほどの小さな子猫で遊び盛りだったため、家の家具は彼が引っ掻いてボロボロになってしまいました。最後に遊んでいた私の手首を引っ掻いたことで父が腹を立て、返してしまったようです。父は「病気になっていたから獣医のところにいる」と言っていましたけど、ネコはずっと戻って来ませんでした。ほんの一、二ヶ月の共同生活でした。

二匹目はどこかで書きましたが、一歳ほどの若いネコで、家と外を自由に行き来していました。交差点の向こう側の空き地がネコたちの溜まり場で、そこへ行き始めたのが災いとなり、ある日道を渡り損ね、車にはねられて死んでしまいました。うちに来てほんの一年ほどでした。

こんなことがあり、その後うちでは動物を飼わなくなりました。でも私はネコが欲しくて欲しくてたまりませんでした。買えないのはわかっていましたから、私はネコを探す散歩をよくするようになりました。東京の谷中というところにネコが多いと聞いて行ったこともあります。

大学の卒業祝いに母に中古のハーフサイズカメラを買ってもらいました。それをきっかけに週末はほぼ毎週ネコを探して方々を歩き回るようになりました。武田花さんの写真集を知り合いにプレゼントされ、フィルムは白黒。背景も古い町並みの方が様になると思い、毎週下町の駅を一つ選んで訪ねて行きました。

もちろん散歩の仕上げは地元の美味しいものを食べること。東京の下町には小さな個人商店がいっぱいあって、どれもこれも食べてみたくなります。何度も戻ったのは、谷中の愛玉子(オーギョーチー)です。大学の先輩に紹介してもらったのですが、台湾のデザートです。シンプルな甘酸っぱい感じのゼリー状のデザートなのですが、私はお店の雰囲気も含めて気に入り、そのあともよく一人で行きました。谷中のネコを撮りに行くのが目的たっだのか、オーギョーチーが目的だったのかは、微妙なところです。

大学卒業後にバイトで入った業界新聞社で仲良くなったカメラマンさんが、デジタル化して使わずに古くなってしまったフィルムを二箱ほどくれました。「撮りたいものにもう一歩踏み込んで、色々なアングルから撮ること」と教わって、私はひたすらネコを追いかけました。その多くは野良猫ですからなかなか大変です。撮って行くうちに、いつ逃げるか、どこまでなら近づけるかがわかって来ました。もし当時東京下町で、小さなカメラを持って地面に這いつくばって猫に話しかけている二十代の女の子を見かけたという方、あれは私でした。

マドリードもベルリンもマンションばかりで、ネコが道を歩いていることはとても稀です。時々地階に住んでいる人が家の窓を開けてネコを外に出すということはありますが、日本でネコたちがたむろっているとか、夜中にメスを巡って喧嘩しているなんていう声を聞くこともありません。ちょっと寂しい気がします。ヨーロッパの街のネコたちは一生家の中だけで暮らすのでしょう。ちょっと残念ですね。

私はいつかまたネコの住むまちに行ってみたいと思います。

『ネコの住むまち』の作者紹介:


イブ・スパング・オルセン(Ib Spang Olsen)
1921年、コペンハーゲンに生まれる。教職に就きながら、王立美術大学でグラフィック・アートを学ぶ。絵本のほか、TV番組制作、ポスターや陶器のデザインなど、活動の幅は広く、1972年度国際アンデルセン賞画家賞、1976年デンマーク優秀グラフィック・インダストリー賞など数々の賞を受賞している。2012年逝去。


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