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【絵本レビュー】 『どんなにきみがすきだかあててごらん』

作者:サム・マクブラットニィ
絵:アニタ・ジェラーム
:小川仁央
出版社:評論社
発行日:1995年10月

『どんなにきみがすきだかあててごらん』のあらすじ:

チビウサギとデカウサギは大の仲良し。「ぼくはきみのことこーんなに好きだよ」二匹は腕を広げたり、背伸びしたり、飛び上がったり、どんなに相手を好きか言い合うのです。絵もお話の進行も終わり方もほのぼのした本。

『どんなにきみがすきだかあててごらん』を読んだ感想:

誰かのことがすきな時、どうやってどのくらい好きかを表現しますか。
美味しさを表現するのもそうですが、自分が感じていることを言葉で説明するのって、とても難しいですよね。

本を読んだ後、子供達に聞いてみました。「ママのことどれくらい好き?」
そうしたら一斉にみんな手を広げ始めました。ちょっと大きな子は「宇宙に行かれるくらい!」なんて言って、みんなできる限り、知っている限り大きなものを表現しようとしています。その横でやっぱり手を広げて子供達をどれくらい好きか見せようとしているママたちの姿も見えましたが、どの顔もとても優しそうな笑顔になっているのが印象的でした。

普段思っているのに言わないことや言えないことってたくさんあります。「なんで言わないの」と聞かれると、確かになんででしょう、と首を傾げてしまいます。

ある年、私はオーストラリア人のハウスメイトと一緒に帰国しました。彼女は大の日本好きで、「日本人の彼ができちゃうかも」なんていう淡い想いも抱いて私の帰国について来ました。滞在中に私の同級生たちと呑みに行くことになって、彼女はさらに大興奮。少し習った日本語を使えるチャンスと準備も万端でした。

いよいよ当日の夜。英語が苦手という同級生たちも英語と日本語を混ぜての会話で、なんとなく通じ合っています。そんな中、会話が「奥さんについて」になりました。何人かの男性が結婚しているのに全く奥さんの話をしないことに、私の友人が疑問に思ったことが始まりでした。

友人:「なんで奥さんのこと話さないの?」
同級生たち:「別に話すほどのことでもないでしょ」
友人:「奥さんのこと愛してる?」
同級生たち:「。。。」
友人:「奥さんたちに「愛してる」って言う?」
同級生たち:(もごもごもご)「言わないよなあ」(お互いを見合う)
友人:「え〜、なんで〜。じゃあ家に帰って来た時キスはするの?」
同級生たち:「え〜、しないよそんなこと」
友人:「じゃあ、何するの?」
同級生たち:「カバン渡す。で、風呂沸いてるって聞く」(クスクス笑う)
友人:(怪訝な顔)「じゃあどうやって愛してるって表現するの?」
同級生たち:「そんなこと言わなくてもわかるでしょ」
友人:「どうして?」
同級生たち:「好きじゃなきゃ結婚してないでしょ」(最もという顔でうなずき合う)
友人:「え〜、何よそれ!」

その夜、彼女の「日本人旦那探し」の夢は打ち砕かれました。

高校、大学時代の私は意味のない正義感に燃えていて、家に帰って来ては道中目にしたことに腹を立てていました。うちの母はお気楽さんなのでそれにも腹が立って、よく「ママのばか」を連発。それに対して母は、
「いや〜ん、そんなにバカバカ言ったら本当にバカになっちゃう〜」
それにはさすがに笑うしかなかったのですが、他の状況ならわかります。日本だとあまり家族のいい話ってしませんよね。私はそれがずっと気になっていたんです。自慢をする必要もないけど、わざわざ自分の家族を「愚息」とか「愚妻」なんて言わなくてもいいのではないでしょうか。今自分が家庭を持つようになって、旦那が他の人の前で私のできないことばかり話していると、なんとなく自分がそういう人間のように思えてくるんです。いかん、いかん、私だっていいところがあるはずです。

ある時あまりにも気になったので聞いたんです。そうしたら、
「僕の国では奥さんのことあんまり良く言うと、奥さんを売ろうとしてるって言われるんだ」と言う返事が返って来ました。

なるほどね。でも聞いている身としては、いい気分ではないのです。大切に思っている気持ちを表現することは恥ずかしいです。でも時には言ってみることも大切なのではないでしょうか。「言わなくてもわかるはず」でしょうが、言って失うものはなんですか。得るものの方が多い気がします。「ありがとう」って言われなくても感謝している様子でわかりますが、やっぱり言葉で返されると嬉しいですよね。愛する気持ちも同じなのではないかな、と昨日のお母さんたちの顔を見て思いました。

『どんなにきみがすきだかあててごらん』の作者紹介:

サム・マクブラットニィ(Sam McBratney)
1943年、北アイルランドに生まれる。アイルランドのトリニティ大学で歴史学と政治学を学ぶ。教師をしていた30代のころから子どもの本を書きはじめる。代表作『どんなにきみがすきだかあててごらん』(評論社)は、世界各国で翻訳され、大ベストセラーとなっている。2020年逝去。


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