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【絵本レビュー】 『スマイルショップ』

作者/絵:きたむらさとし
出版社:岩波書店
発行日:2020年10月

『スマイルショップ』のあらすじ:

ああ、わくわくする。ぼくのはじめてのかいもの! なにをかおうかなあ――にぎやかな音や、あざやかな色、おいしそうなにおいのあふれる店先で、男の子は目をかがやかせます。ところが、とつぜんハプニングがおきて……。お金がなければ、なにもできない? いいえ、お金ではぜったいに買えない、すばらしいものがありますよ!

『スマイルショップ』を読んだ感想:

初めて自分のお金を持って買い物をしたのはいつだったでしょう。
しばし記憶の中を回遊してみました。

小学校を卒業するまで、私はお小遣いをもらったことがありませんでした。クラスではもらっている子もいましたが、私は買いたいものがあればその都度もらっていたので、月極めでお金をもらうことはありませんでした。ただ、一人で電車やバスに乗って学校に行っていたので、万が一の時用の数百円はランドセルの中にいつも入っていました。

だから自分のお金で何かを買うという経験は、お年玉が初めてかもしれません。小学生になるとお年玉が自分の手に入ってくるようになり、その一部は貯金、残りは好きなものに遣ってもいいということになりました。何を買ったのかは全く記憶にありませんが、お菓子やジュース以外のすごいものが自分で買える、という考えに心がドキドキして、ちょっと怖いような気さえしたことは覚えています。なんだか自分でコントロールしきれないすごい力が備わったような、そんな気持ちでした。

普段は、欲しいものがあるときに頼めばその金額をもらえたのですが、父はまず「どうしてそれが欲しいのか」を聞いてきました。あるとき私はキティちゃんの筆箱が欲しいと頼みました。父になぜそれが欲しいのか聞かれ、私は、
「クラスの子みんなが持ってるから」と応えました。
すると父は、
「じゃあ、ダメだ」と言うではないですか。
いくら私がみんなと同じものを持つことがいかに大切か話しても、父の返事は変わりませんでした。
「みんなと同じにしたいから、は理由じゃない」
というのが父の言い分でした。それで、
「じゃあ、私が欲しい」
と言ったけれど、「もう遅い」と跳ね返されてしまい、結局私はキティちゃんの筆箱は買ってもらえませんでした。まあ実際のところ、キティちゃんが好きだったわけではないんですけどね。

その代わり、私自身がどこかで見て欲しいと思うものがあれば、一緒にとことん探してくれたし、かなり高くてもお金を出してくれました。そのおかげで今もあまり他の人のしていることや、特に持っているものが気にならなくなっているので、ある意味ありがたいなと思っています。

そう言うふうに考えると、父は私にお金では買えない価値をくれたのかなあと、何十年も経った今気づいたのでした。

『スマイルショップ』の作者紹介:

きたむらさとし
1956年 東京生まれ。1982年にイギリスで絵本作家としてデビューし、以来、イギリスを拠点に世界的に活躍を続ける。約10年前に帰国し、現在は神戸市に在住。絵本作家、イラストレーターとして活躍。デビュー作「ぼくはおこった」(評論社)でイギリスの新人絵本画家に与えられるマザーグース賞を受賞。「ぼく ネコになる」、「おんちのイゴール」などの著書の他、「ふつうに学校にいくふつうの日」(小峰書店)では絵本日本賞翻訳絵本賞を受賞。 その他「ぞうのエルマー」シリーズの翻訳者としてもおなじみ。


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