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【絵本レビュー】 『1つぶのおこめ』

作者/絵:デミ
訳:さくまゆみこ
出版社:光村教育図書
発行日:2009年10月

『1つぶのおこめ』のあらすじ:

けちな王様をこらしめよう! 算数のひらめきで村を救った女の子のお話。
1つぶ、2つぶ、4つぶ、8つぶ……。30日目には、何つぶ? 


『1つぶのおこめ』を読んだ感想:

機転が効くというのは、人生において色々役立つなと感じた絵本でした。

意地悪な人や嫌な人はどこにでもいて、避けられるものではないし、ましてやそんな人たちを直すことなんてできません。人は変えられないけれど、自分次第で嫌な状況や難しい状況を乗り切ることはできますね。

私の父は自分の機転の良さを自慢していました。といっても私が目撃したのは、一度だけです。

ある日私と父は都内中心地の美術館へ出かけました。どこへ行くにも車の父には珍しく、その日はバスと電車を乗り継いで行くことにしました。おそらく駐車場を見つけるのが大変と考えたのでしょう。当時私たちの家は、二つのバス停の真ん中くらいにありました。一つの方が少し近かったので、通常はそちらから乗っていたのですが、父と家を出て道を渡っている時、私たちのバス停の一つ前くらいにバスがいるのが見えました。この調子でいけば、このバスは見逃すことになりそうです。すると突然父が言ったんです、
「おい、走るぞ!」
そして父はひょこひょこ飛ぶようにして一つ先のバス停を目指して走り始めたではありませんか。

その時私は中学生。小学校では六年間リレーの選手を務め、走ることにはまあまあ自信がありました。六十近かった父に負けるわけはないという自負がありました。おまけに父はまるでふざけてもいるかのように、跳ねるような走り方をしています。それなのになぜか父との距離は縮まりません。それでも遅れるわけにはいかないと、私は必死に走りました。

もうちょっとでバス停というところで、後ろから来たバスに追い越されましたが、私たちが着いた時にはまだ乗客が乗り降りしていました。私たちはバスに飛び乗り、後ろの座席に座りました。
「みたか?」
「へ?」
「向こうにバスが見えたから、パパはすぐ次のバス停に行こうって走っただろ?」
「だね」
「ああいうのをな、機転が効くっていうんだ。」
「ああ、そう。」
「あそこで、どうしよう、なんて考えてたらダメなんだ。ああいう状況で、さっと考えられるのがいいんだ。」
「そうだね。」

父はこの日のことをそのあと十年以上も話していました。
「なあ、覚えてるか? 遠くに来てるバスを見てパパが走ったのを?」

このエピソードを持って父を機転の効く人と分類できるかどうかはわかりませんが、六十近くにしての走りっぷりと、機転が効くことは大切ということには同意します。

機転を利かせて助かったことは確かに多いですが、その中でも特に利かせて良かったと思うのは、今の旦那と付き合い始めた頃です。当時旦那はノマドのように生きたいという野望を抱いていました。IT関係の仕事なので、どの国に行ってもビザを取りやすいし、リモートでも働けるからです。彼は日本や中国に数年住んで、そのあとはインドの寺院へ行って数年寺を掃除しながら瞑想して暮らすという夢を話していました。

それに対して私はすでに大海を数回渡り、少し動き回るのはごめんだと思っていた時でした。私たちは付き合い始めでこんなに長続きするとは考えていなかったし、私としてもまあ少し楽しめればいいかなという気持ちがありました。でも彼は放浪の旅に隙あらば出たいわけですから、留まりたいという私とはうまくいかないと考えたのでしょう。「うちらはうまくいかないよ」と言って来ました。

その時私が見ていた彼との関係は一、二年だったと思います。資金面も含めて、彼が放浪の旅に出るまでにはそのくらいかかるだろうと読んだのです。それで、
「じゃあさ、関係を契約制にすれば?」
「え?」
「一年ごとにうちらの関係を見返して、もう一年続けたいか決めるの。」

彼は目を丸くして私を見ていました。おしゃべりな彼が黙った数少ない瞬間でした。

彼を引き止めたくて機転を利かせたわけではありません。せっかく知り合ったのだから、彼がいなくなるまで楽しめたらいいなと思ったのです。でもどうやら別な方向に働いたようですね。今私たちは家族になりました。

機転がいつも願っているように働くわけではないかもしれませんが、悪いようにはならないと思います。



『1つぶのおこめ』の作者紹介:

デミ(Demi)
1942年アメリカ、マサチューセッツ州生まれ。中国人の夫が語る昔話や、さまざまなアジアの物語を中心に、130冊以上もの子どもの本を出版している人気作家。緻密で力強いタッチの絵が特徴。ワシントン州在住。


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デミさんの本がもっと翻訳されるのが楽しみです。

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