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【絵本レビュー】 『しあわせなふくろう』

作者:ホイテーマ
絵:チェレスチーノ・ピヤッチ
訳:おおつかゆうぞう
出版社:福音館書店
発行日:1998年1月

『しあわせなふくろう』のあらすじ:

ニワトリやガチョウ、クジャクやアヒルたち農家の鳥は、食べたり、飲んだりする以外、することといったらけんかばかり。ある日、近くに住みついている、仲のよいフクロウの夫婦を見て、ふと不思議に思いました。あの2人は、なぜ仲よく幸せに暮らしているのだろう?


『しあわせなふくろう』を読んだ感想:

をりふしの 移り変はるこそ ものごとにあはれなれ

徒然草の一節を思い出しました。

季節が次第に変わっていく様子は、何ごとにつけても趣を感じる。

という意味なのですが、このふくろうの生き方がまさにそれですね。


「しあわせってどんな意味?」

子供達に聞いている私の頭の中は忙しくその意味を探していました。

「すごくすごくうれしいこと」

男の子が一人手を上げて答えてくれました。ポンっとコルクの蓋が取れたような音が頭の中に響きました。そうか、幸せってシンプルなことなんだ。そう考えると、ふと「ありがとう」の語源を思い出しました。

ありがとうを漢字で書くと「有り難う」ですね。「難しい」という漢字が入っているのはただ音が合うからではないのだそうです。起こりうることが難しい、つまり「滅多に起こらない貴重なこと」という意味なのです。

「滅多に起こらないこと」と考えるとなんだかものすごい出来事を想像してしまいそうですが、諸行無常の観点から考えれば、今見たことは二度と起こらないので、とても貴重な瞬間なんですよね。日々チェックリストをいかに多くクリアできるかに集中して過ごしがちな私にとっては、背筋を伸ばし直すような、そんな新鮮な気持ちになります。

この絵本を読み終わった時、子供達にふくろうと他の鳥たちとどちらのようになりたいか聞きました。ほぼ全員が「ふくろう」と答え、他の鳥たちのように喧嘩をして過ごしたいと思う子たちはいませんでした。本の深い意味はわからないかもしれないけれど、子供達は「しあわせ」に生きる方法を知っています。その意味だって、私たちよりずっと良く理解しています。どこかに向かう途中息子があちこちに気を取られて目的地になかなかんつけないことを、私はもどかしく思っていました。私はAからBまでの道のりが全く空っぽみたいに過ごしていて、途中で立ち止まることは無駄とさえ思っていたようです。やれやれ、これでは幸せの意味だってすんなり出てこないはずです。

今日は、窓の外でおしゃべりに余念がない小鳥たちの声を楽しめるような気がします。曇り空の合間から差し込む陽の光が木の葉に当たる様子をじっと見つめられるような気がします。だから今日はこの辺で終わりにしたいと思います。


『しあわせなふくろう』の作者紹介:


ホイテーマ(Theo van Hoijtema)
1863年オランダのハーグ生まれ。オランダのリトグラファー、イラストレーター、グラフィックデザイナー。彼の鳥のイラストは特に有名で、本の表紙やカレンダーに使われた。1917年逝去。


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他に日本語訳されている絵本はないようです。もしご存知の方がいたら教えてください。

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