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【絵本レビュー】 『おやすみなさいフランシス』

作者:ラッセル・ホーバン
絵:ガース・ウイリアムズ
訳:まつおかきょうこ
出版社:福音館書店
発行日:1966年7月

『おやすみなさいフランシス』のあらすじ:

時計が夜の7時をしらせると、フランシスの寝る時間です。まずミルクを飲み、お休みのキスをして、ベッドに入ります。ところが、ちっとも眠くなりません。そのうちに、部屋の中にトラがいるような気がして心配になり、おとうさんとおかあさんのところへ。もう一度キスをしてもらいふとんに入りますが、今度は部屋に大男がいる気がしてねむることができません。さてさて、フランシスはぶじに眠りにつくことができるのでしょうか?

『おやすみなさいフランシス』を読んだ感想:

「ねえ、もう寝た?」
旦那につっつかれて寝入りを起こされます。うちではよくあることです。なかなか寝付けない体質の旦那に対して、私は寝付くまでの所要時間2分以内。時には枕に頭を置いてため息ひとつつく時間がやっとという日もあります。寝れずにあっちを向いたりこっちを向いたりしている旦那にとっては、なんとも腹立たしいことらしいです。だから時々起こされます。

そんな私でも年に一回か二回くらいなかなか寝付けない夜があります。学生の時の方が多かった気がします。息子が生まれてからはいつも疲れているので、公園で遊ぶのを見ている間だって寝てしまいそうです。

フランシスはあいうえおの歌を歌っていましたが、私が子供の時よくしたのは、九九を唱えること。一から九の段まで言うのですが、もし間違えたら最初からやり直しというルールを作りました。九九八十一までいったら今度は後ろから言います。大抵は面倒臭くなって間違えやすくなり、何度も最初からやり直しているうちに寝ているということが多かったです。

大学生の時には『ソフィーの世界』にお世話になりました。二十歳を過ぎても九九をしていたのですが、子供の時ほど間違えなくなり、寝付く前に退屈していました。そんな時であったのが『ソフィーの世界』でした。大学の哲学の時間が大嫌いで、さっぱり理解できなかったので購入したのですが、なんとまあ読み始めると寝てしまうのです。第一章を読み終えるのに数ヶ月かかってしまいました。それから数年間、家を出るまでこの本は私の枕元にあったのですが、結局読み切ることはできなかった本です。でも眠れない夜には大変役に立ちました。

寝付かれなかったわけではないのですが、眠れないフランシスが両親の寝室に行くシーンを見ていて思い出したことがありました。大学のクラブの飲み会で酔って帰ってきた時のことです。飲み会が始まったのはクラブ後の夜八時過ぎでした。昼食以来何も食べていなくてお腹はペコペコ。何か先に食べてからと思うのですが、学生ですから居酒屋のお通しでさっさと乾杯してしまいます。私は乾杯の時にグラスの半分ほどのビールを飲みました。そのあとは出てきたつまみをひらすら食べていたのですが、空きっ腹に染み入ったビールは既に私の血管に届いていました。頭の後ろに心臓が上がってきたみたいにドクドクしています。これ以上は飲まない方がいいと感じた私は、ビール半分残ったグラスを握りしめて飲み会を乗り切りました。

みんなと一緒に新宿駅まで来て、そこで別れました。「付き添おうか」と言ってくれた友達もいましたが、私は静かに自分の世界に浸りたい気分だったので断り、一人で自分の電車の方へ向かいました。家に着いたのは夜中の一時過ぎ。顔と歯だけ磨いてベッドにコロリと寝転び、それと同時に軽く寝入ったようでした。でもすぐに変な感覚が身体に感じられ目を覚ましたました。目を覚ました時、私はその夜飲んだことを忘れていました。私はどうして気分が悪いのかわからず、ベッドの上でその理由を考えていました。なんの理由も思い浮かびません。「私、何か大変な病気になったんだ」そう思った私は勢いよく起き上がると、一階へ行って水を飲んでみることにしました。少しは落ち着くかもしれないと思ったのです。

暗い台所で水を飲みながらリビングルームを見渡し、「私、死ぬんだ。よく見ておかなくちゃ」と考えると涙が出て来ました。水を飲み終わると二階に上がり、両親の部屋の引き戸を開けました。最後のお別れをしようと思ったのですが、なんとまあ、両親は二人して高いびき。急に怒りが湧いて来ました。「一人娘が死ぬかもしれないっていうのに!」戸を思いっきり閉めてやろうかという衝動にかられましたがなんとか抑えて、私はまた一人ベッドに戻りました。

短かった自分の人生を思うと、目尻から涙が流れ落ちました。仲良しの友達やお世話になった人にお別れを言っている間に眠ってしまったようです。気が付いたら目覚まし時計が「んも〜、いっしょ〜ねてろ」と言っていました。私は頭をぐるりと巡らせ、自分のいる場所を確認しました。自分の部屋です。ああ、そうか電車で帰って来たんだっけ。

そして私は大学の一限目に出席すべき家を出ました。いつものように教室に入ると、おはようという友達の顔がやけにニヤニヤしています。私は彼女たちの横に座りました。ニヤニヤは止みません。
「なんでそんな顔してるの?」
「昨日、結構酔って帰ってったよ。付き添う酔って言ったのに、大丈夫って言って一人で帰っちゃったけど。ちゃんと着いたんだね。」

「そんなに酔ってなかったよ」という私に友達は大爆笑。どうやら私は乾杯の後すでに別なレベルに行ってしまい、一人でグラスを握って座ったままニコニコしていたのだそうです。みんなが何を聞いてもニコニコで、会話はなかったそうです。「お開きだよ」という声にも笑顔で対応し、立ち上がるとみんなと一緒に駅へ向かったのだとか。「大丈夫」と心配する友達や先輩にも笑顔で答え人混みに消えたのだと話してくれました。

やれやれなんという失態。でも酔って説教したりだらしなくなったりしなくてよかったとここの中で胸をなでおろしました。でもその日一日中友達は私をみるたびにクスクス笑うのでかないませんでしたけどね。



『おやすみなさいフランシス』の作者紹介:


ラッセル・ホーバン(Russell Hoban)
1925年、アメリカ ペンシルバニア州生まれ。大学を中退し、フィラデルフィアの美術学校で学ぶ。雑誌、テレビのアートディレクター等の仕事の傍ら、創作活動を行い、’67年以降作家業に専念。愛らしいアナグマの少女フランシスを主人公とする絵本のシリーズ「おやすみなさいフランシス」(’60年)、「ジャムつきパンとフランシス」等、子供の心理を生き生きと描き、多くの子供たちの共感を呼ぶ。又空想物語「親子ネズミの冒険」(’67年)は、児童文学の古典の一つとさえいわれるファンタジー。作品のさし絵の多くは、妻リリアンが描いている。’69年英国移住後は、大人向けの小説も手がけ、SF作品「ボアズ・ヤキンのライオン」(’73年)、「リドリー・ウォーカー」等を発表。2011年逝去。


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