毎年子どもたちをアゲるディスコチューン・BlimE(ブリーメ)
æに導かれて
私はベルゲンに来てから、なぜか北ノルウェー出身の人に出会うことが多いのですが、彼らは自分のことを指す主語(英語ではIに当たる)に Æ(アー・アとエの中間、英語のaの発音)を使います。首都のオスロを中心とする南部ではJeg(ヤイ)、ここベルゲンではEg(エッグ / 早口だとエ)を使うことが多く、地域によって方言の違いが激しいと言われるノルウェーです。実際、主語を表す方言には他に少なくとも7種類あるらしい。😂
日本もイントネーションとか言葉そのものが違うこともあるし、ノルウェーに負けず劣らず激しい気もします。でもノルウェーの人たちは自分が引っ越したからと言って引っ越した土地の方言を使うよりは、自分の生まれ育ったところ・住み慣れた地域の方言を使う姿勢を貫くので、その点は少し日本と違うかな。
通常ノルウェー語を勉強するときはJegが一般的なので私もJegを使うことが多いのですが、私の周りにはÆを使う人が多いので私もだんだん聞き慣れてきたのと、そんな環境だから「あすかもそのうちÆって言い出すよね〜」なんて言われて、私のノルウェー生活は確実に”Æの人たち”に導かれている感たっぷりです。🤗
そんな状況を知る日本人の友達が「主語がÆで歌われてるから笑」と、今ノルウェーの子どもたちに人気の曲をシェアしてくれました!
それがこちら!
BlimE 2020 - Ser deg- Victor Sotberg(YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=cWUfgj9QkZY
教えてくれた友達は最近ノルウェーの保育園で働き始めたため、ノルウェーの保育園がどんな感じかとか、園児たちが何にハマっているかとか、いつもいろんな話を聞かせてもらってます。そんなノルウェーの保育園事情は追い追い。
やはりæがきっかけで知ったこの曲、実はノルウェーで毎年子ども向けにディスコチューンを発表するプロジェクトの一つと知って興味が湧き、ちょっと詳しく見てみることにしました。
BlimEの奥深さに感動
NRK(エヌアルコー・ノルウェーの国営放送)の子ども向けチャンネル・NRK super(エヌアルコー スーペル)が、毎年秋にみんなで歌い踊れる曲を発表するプロジェクトBlimE(ブリーメ)。ノルウェー語で”Bli med”という言葉が、Join! 一緒にやろう!というような意味ですが、まさにノルウェー全土で一緒に歌おう、踊ろう!というような企画です。
遡ってみたところ、BlimEプロジェクトは2011年に始まった模様。きっかけが何だったのかや企画の背景、制作側の意図までは知りませんが、2011年から現在に至るまでミュージックビデオを観てみることで、このプロジェクトがとってもよく考えられているなと感じるポイントが多々ありました。
ポイント1:
毎年秋というタイミングで今年の曲を発表する
まず、このBlimE、毎年9月下旬〜10月下旬に発表しているところがポイントの1つではないかと思います。
北欧の秋と言えば、日照時間がだんだん短くなり、だんだん寒くもなり、気づくと鬱々とした気分になりがちな季節。それはノルウェーで育つ子どもたちも同じ、というか外で過ごすことが多い子どもだからこそ自然の変化を大人以上に敏感に感じるかもしれません。なんか知らないけど、ムシャクシャする。なんでかわからないけど、寂しい気持ちになる。そんな気分になりやすいタイミングで、みんなで取り組めるダンス、室内でもエネルギーを発散できるこのプロジェクトがやってきます。学校や保育園の先生にとっても一緒に取り組む題材が提供されるのは、助かるかもしれません。そう、アゲてかないと。
ポイント2:
子どもたちに親しみやすい歌手やよく知られている人を起用する
私はノルウェーのポップミュージックにそこまで詳しくはありませんが、2016年〜2020年あたりは国内のトップヒットに入るような歌手やYouTuberを起用している印象です。プロジェクトが始まったと見られる2011年当初は、特に有名ではない複数の子どもが歌っているいわゆる”子ども向け”の曲調でしたが、年を追うごとに、よりダンスを重視するようになっていたり、ティーネージャーの歌手がボーカルになったり、ラップが入ったり。時代を反映する形で進化しています。
ポイント3:
「みんなで」の「みんな」が誰を指すのか、明確なメッセージがある
ミュージックビデオを見ると、2018年以降のビデオでは車椅子に乗った子どもたちも一緒に踊っています。2011年当初も、子どもたちが障害のある子どもたちを手伝いながら一緒に絵を描く様子も映っています。
ですが、最近になればなるほど、障害のある子どもたちや移民の子どもたち、手話を使う子どもたち、サーミ(北欧の北極圏に住む少数民族・ノルウェー、スウェーデン、フィンランドで弾圧されていた過去がある)の子どもたちなど、社会的少数派・弱者と言われる人たちを意図的に映しているのがわかります。しっかりスポットライトを当てることで、画面を通じてミュージックビデオを観る子どもたちに「みんな」がどんなみんなを指しているのかを、明確に伝えています。
また、今年のミュージックビデオには、手話だけのもの、サーミ語の歌詞のものも公式に発表されている他、他国を巻き込んで様々な国の言語で歌われる様子もアップされていました。なんと、日本もいい感じに巻き込まれて日本語も入っていたのにもびっくり。
また、各地域の代表の学校につないで子どもたちが踊る様子を全国中継する機会があったり、ダンスを録画した動画を募集したりする時期もあるようです。
ポイント4:
子どもから大人まで、つい真似したくなるダンス
0〜6歳のいる保育園でも流行ってしまうくらい、シンプルな動きのダンスが特徴。特にここ2年のダンスは跳ねる動作が誰にでも真似しやすく、跳ねるだけで簡単にダンスに参加できるし、気分も上がります。
実際保育園でも、3歳以下の子どもたちも曲がかかると跳ねてノリノリ♪ になり、もう少し大きい子たちは他の振り付けも覚えながら楽しんでいるそう。いや、もう想像しただけでかわいい...😍
子ども向けのチャンネルで発表されるものの、大人もしっかり巻き込まれており、YouTubeにはノルウェーの消防・警察・救急の人たちのダンスや、軍の人たちのダンスもアップされています。
制服着てのダンス、かっこいい!!😆 防護服や銃を持って跳ねるのきつそうだけど。軍のマーチングバンドだけは、リズム感ばっちりでダンスが揃う(笑)さすが✨
大人も一緒になって楽しめるメロディーやサウンドが最高です。
ポイント5:
歌詞にやさしいメッセージが込められている
歌って踊れるディスコチューンなので、私のようにノルウェー語の歌詞が理解できなくても楽しめるような曲調が毎年の基本なのですが、歌詞のメッセージ性も注目のポイントです。
曲のタイトルだけ見ても、
2018年まで:BlimE(一緒に)が多いが、Venn(友達)、Kom igjen’a(さぁ!)など
2019年:Mer enn god nok(あなたはあなたのままで・十分以上のなにものでもない)
2020年:Ser deg(ありのままのキミを見てるよ)
プロジェクトの主旨である“Bli med / BlimE”という言葉も、毎年必ず歌詞に含まれています。
その他、サビにはこんな歌詞もあります。どちらも私の勝手な意訳ですが、英語に変えてから見ているので、そう外れてはいないはずだ...!
「(誰かを無視したり、自分には関係ないと背を向けたりするのではなく)自分が友達でいることを選んで。今日も誰かがキミを友達として必要としてる。僕はキミのためにいる、キミも僕のためにいる。だから今日も必要な誰かの友達になって。」(2016年)
「あなたが失敗したと思ったとき、落ち込んじゃうと思ったとき、それでも立ち上がって。あなたは独りかもしれない。でも私はあなたと一緒に雨の中に立つよ。だから忘れないで、あなたはあなたでいて十分でしかないの。」(2018年)
なかなかに本質・真理を突いてくる。もはや子ども向けとは考えていない。😑
何というか、子どもたちに「そのままのキミでいいんだ、キミは(究極的には)独りだけど本当の友達はちゃんと一緒にいるんだよ」そんなメッセージを、意図的に歌いかけているように思います。
これはメンタルヘルス問題に真摯に取り組むノルウェーらしく、人が人として健全に生きるためにどんなメッセージが役に立つのか、意図的に考えられて発信されているなと感じるところです。
メディアによって考えられている、つくり込まれている
近年日本で『パプリカ』があらゆるところで歌われ踊られていた現象と似ている気はします。(あれはNHKが「2020年とその先の未来に向かって頑張っている全ての人を応援するプロジェクト」として始めたのだそうです。)
BlimEについて5つのポイントにまとめてみましたが、改めてどれを取っても秀逸だなと思いました。
メディアの発信が国民にどんな影響を与えるのか、その意義と責任が認識されていることが伺えます。NRKの番組を制作する側の人の頭の良さを感じました。
あくまで私がそう感じているに過ぎないのですが、曲をシェアしてくれた友達とも意見を交わし、一緒に感心したのが上記のポイントでした。
一方で、メディアの発信が人々に与える影響をメディアや政権を握るエリートがわかっているからこそ、国が人々をどういう方向に動かしていくか、ある意味でどう"洗脳"していくかに、シビアな見方をする考え方もあります。コロナや環境問題など、何が正解かわからないことが多い今だからこそ、そういう視点も持たないとあっという間に思考停止に陥ってしまう気もするので、納得です。
BlimEに関して言えば、基本的に人として自分と他人を尊重することを促しているように見えます。すべての子どもたちの安心感につながればいいなという、やさしい大人のあたたかい願いが込められている気がして、素敵だなと感じています。😊
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