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Arts of Communication

こんにちは。今日はコミュニケーションの技巧・スピーチについてです。

大人気授業Arts of Communication

ケネディスクールの学生が目指すリーダーは話すのが得意。ケネディスクールが名前をとった第35代米国大統領ジョン・F・ケネディも後世に語り継がれる数多くの名スピーチを生み出しました。ケネディスクールのモットー"Ask What You Can Do"は1961年のケネディ大統領の就任演説での名フレーズ

“Ask not what your country can do for you – ask what you can do for your country”

が元になっています。リンカーン、ケネディ、マーティン・ルーサー・キング・Jrとアメリカを導いてきたリーダーたちは皆スピーチの名手でした。自身の考えを決意を夢を言葉に乗せて民衆を鼓舞し、立ち上がらせる。そういうリーダーに憧れてケンブリッジに集まった学生たちなので、当然、スピーチの授業は大人気で、簡単には履修で気ないのですが(人気すぎて定員オーバーしてしまう授業を履修をするにはbiddingという世にも不思議なプロセスで勝ち残る必要があるのですが、その話はまた今度)、何とか1年目の冬学期に履修することができました。

スピーチの組立て

優れたスピーチは即興でなせるものではありません。メッセージを吟味し、用いる言葉を選び、話の流れを構築しなければ、聴衆はあなたのスピーチで説得されるどころか簡単に飽きてしまいます。そこで重要なのが次の3つ:Ethos, Logos, Pathosです。

Ethos

なぜあなたからこの話を聞かないといけないのか、あなたのクレデンシャル、立場、資格が問われます。話す内容の専門家である、国家の代表である、一般的に広く知られた有名人であるといった話者自身の資質がなければ説得力に欠けてしまいます。あなたがキング牧師出なくても、語ることについて経験を積んでいるというだけで多少の説得力は付きますからご安心を。

Logos

スピーチのロジック。論理的な文章の組み立てであるか、矛盾はないか、データ等を用いて論を展開できているかが重要です。

Pathos

スピーチの内容に対する話者の熱意ももちろん大切です。人の気持ちに訴えるには自分も戦略的に情を使わなければなりません。少しずつ観客の温度を上げながら、自分の温度も上げていくことでより聴衆とシンクロすることができます。個人的な体験、公にするには勇気のいることを吐露することでより皆の心を掴む場合もあります。

スピーチのデリバリー

スピーチの形式やTPOに合わせてデリバリーを工夫します。TEDトークなどでは砕けた雰囲気でジョークを交えながら、舞台を左右に行ったり来たり、時に観客に質問を投げかけたりしています。反対に、ポディアムに立ってつらつらと滑らかに何かを述べることが求められるフォーマルな場もあります。聴衆が誰であるかを常に意識して最も効果的な方法を考えます。

試すと良いデリバリーのポイントをいくつか挙げてみます。

①ステージを左右に移動する。

→特に広い会場の場合、真ん中一列目以外の聴衆に近づくことができます。

②間を置く。

→常に一定のペースで話すのはお経のようになってしまいます。問いかけ、感情の起伏、テーマの移り変わり等に合わせて一呼吸おいて聴衆に視線をやってみましょう。

③腕、足を使う。

→ダンスの振り付けさながらに体を使って表現をすることでポイントを強調したり、視覚的にも飽きさせない工夫ができます。腕を組む、意味もなくボックスステップを踏むだけにならないように。

④表情、声のトーンを変える

→嬉しい、悲しい、冗談まじり、真剣な話と表情や話し方にメリハリをつけます。突然外国語を交えてみる等、思わず聴衆を「えっ」と思わせたら勝ちです。

⑤小道具を使う

→原稿をみてしまうとその一点に集中してしまい、観客とのコミュニケーションが失われてしまうので手ぶらで行う方が望ましいですが、原稿ではなくスピーチに関連した小道具を用いることで関心を集めることができます。一方、あまり頼りすぎると肝心の言葉から注意が逸れてしまうのでバランスが大事です。

おまけ:スピーチを成功させるためのルーティーン

・スピーチ本番前に必ずする「何か」を決め、毎回実践する

・困った時に見つめる一点を決める(知人の顔、聴衆の後ろにある無機物など)

・緊張してきたらゆっくりはっきりを意識する

訓練方法としては、達人のスピーチをみる・聴く、実践をしてフィードバックをもらう、トピックについてさらに知識を深めるといった方法が挙げられます。

***

私が入学した当時の大統領バラク・オバマもスピーチの天才でした。どのスピーチも素晴らしいですが、お気に入りは広島訪問時のスピーチ。情景の浮かぶ言葉選び、場に適した発声、平和への洗練されたメッセージに震えます。

最後に、Ask What You Can Doが特に有名なJFKですが、個人的に特に好きなのは1962年、冷戦の最中、アメリカから月に人を送ると宣言したケネディ大統領のスピーチです。

"We choose to go to the moon. We choose to go to the moon in this decade and do the other things, not because they are easy, but because they are hard, because that goal will serve to organize and measure the best of our energies and skills, because that challenge is one that we are willing to accept, one we are unwilling to postpone, and one which we intend to win, and the others, too."

冷戦、ベトナム戦争、公民権運動と内政・外政共にピリピリしていたケネディ大統領の時代。政治的評価は様々でしょうが、このような時代に人々を励まし、希望と勇気を与える言葉を残しただけでも歴史に残る大統領だったと言えるのではないでしょうか。


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