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「英文解釈(演習室)」の魅力

「英文解釈演習室」とは

大修館書店『英語教育』誌の偶数号には、筒井正明先生ご担当の「英文解釈演習室」というコーナーがある。筒井先生による「お題」が出され、その全訳を提出すると、次次号(次の偶数号)で番付表に乗せてもらえるというもの。最優秀と思しき投稿訳は、「お手本」として冒頭に載せていただくという栄誉に浴することとなる。なお、「デビュー間もない者が初のA+を取った」場合には、それが優先的に「お手本」扱いになるという意見もあり、必ずしも「お手本」が「横綱」ではないのかもしれない。事実、小生も「お手本」の名誉を授かった際は、「嬉しさ半分、意外さ半分」といったなんとも面映ゆい心持ちであった。

さて、Z氏は、この「演習室」を「F1レース」に譬えておられるが、蓋し至言である。モータースポーツに明るくないため、まったく的外れなことを言ってしまっているかもしれないが、(自分が多少は知っている)「ミニ四駆」や「ラジコン」と同じようなものだと勝手に捉えれば、シャーシの肉抜きをし、モーター(エンジン)やタイヤをグレードアップし、フルベアリング化などをして、「限界ぎりぎりまでのチューンナップ」をしてレースに臨むその姿は、最後の最後まで訳文を磨き込み、「A+」「お手本」という栄光を目指して最後まで切磋琢磨を続ける「哀戦士」たちの生きざまと完全に一致する。

参考映像資料①

井上大輔「哀 戦士」

そして、限界ぎりぎりのチューンナップ、そしてコーナーを百分の一秒でも速く駆け抜けるための「強気の攻め」のドライビングは、コースアウトやクラッシュにもつながりかねない。これは英文解釈でもまったく同じことである。解釈の方向性をいったん誤ってしまうと、「誤訳」という大事故に見舞われてしまうことも日常茶飯事なのだ。しかし、そんな危険を顧みず、レギュレーションすれすれのところまで、マシンのチューンナップを日々続けているドライバーたち。私はそんな彼らを誇らしく思う。

参考映像資料②

『よろしくメカドック』第一話

私にとっての「英文解釈」

英文解釈は、単なる「英文和訳」では決してない。そうではないのだ。「英文の内容を完全に理解した上で、『理解していること』を和訳によって示す」ことが第一目的である。それも、ただ漫然と訳すのではない。訳文を読んで、「日本語として不自然な箇所」があってはならないのだ。「英文和訳」ならそれも許されよう。しかし、「英文解釈」の世界では、それは許されない。英語と日本語は所詮「別の言語」であるから、英語を日本語に訳した際には、どうしても中間言語っぽいフレーバーになってしまうのは事実ではある。それでもなお、「できるだけ自然な日本語」を目指すのが、冥府魔道の英文解釈である。

参考映像資料③

「ててご橋」(『子連れ狼』主題歌)

ところで、今を去ること数十年前、高校時代の小生は、「いつかはアメリカ人になりたい」と思って、FEN(今のAFN)を聞いたり、タイム誌を購読したりして、松本道弘先生の「英語道」を愚直に歩んでいた。大学院生の時だったか、一人旅で出かけた京都で、現地で知り合った陽気で助平なアメリカ人と意気投合して、日系人のふりをして日本人観光客をナンパしたりしたこともあるが、これは松本道弘先生の「日系人のふりをして、銀座のデパートの店員に話しかけていた」というエピソードに触発されたからである(が、とんでもない黒歴史だな、これ…)。それほどまでに「実用英語」に魅了され、予備校に通う代わりに、普通の英会話学校に通わせてもらい、一番上のクラスに在籍していた高校時代であった。

だがしかし、である。小生は、所謂「受験英語」が大好きであった。というより、「英文解釈」が大好物であった。当時は、まだぎりぎり「古き良き時代の英語教育」が残されていた。高校では、江川泰一郎の『NEW APPROACH』を使った「英文法」の授業と、原仙作『20世紀英文名文選』を用いる「英文解釈」の授業を受けることができた。これは本当にありがたいことだった。

高校時代、ある英語教師が、英文解釈のことを「国語力を使って、英語をギチギチ日本語に訳していく、知的格闘である」と定義していたことを、今でも覚えている。まさにその通りだと思う。また、ある国語教師は、「英語かぶれ」の自分を諭すべく、こんなことを言ってくれた。

「国語ができないのに英語ができるなんて奴は、俺は認めないよ」

国語教師Sによる警句

当時は「何を言ってやがるこの老害が」とでも思ったのかもしれないが、今にしてみれば、至極ご尤もな話であると言わざるを得ない。

英文解釈とは「スリリングな知的格闘」であり、書き手が「何を言いたいのか」を必死に読み解き、英文の構造を正確に捉えた上で、自らの国語力をフル活用し、「ちゃんと読める訳文」、いや「読ませる訳文」にまで磨き込む作業である。英文解釈は、人生をかけて取り組む価値がある「道」である。英文解釈とは「人生」そのもの。そしてハイウェイを滑走するようなスリルを味わえるのが英文解釈である。

英文解釈 is a highway. I wanna ride it all night long.

参考映像資料④

Tom Cochrane - Life Is A Highway (Official Video)

(英語編集部OM)

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