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[取扱説明書]本当のビートルズ入門

皆さんは2018年のFIFAワールドカップロシア大会のグループHの初戦、日本対コロンビアの試合を覚えているだろうか?そう、大迫半端ないというサッカーファンの間でしか通用しなかったスラングが全国にバレてしまい、以来サッカーファンがこの言葉を使うと少し鼻で笑われるようになってしまったあの試合のことである。

FIFランキングや過去の対戦成績などを見たうえではコロンビアが有利だと思われていた試合だが、開始早々に山田哲人にそっくりなセンターバックがペナでハンドしたせいで退場したことが勝負の分かれ目となったように思える。正しい試合の入り方が出来た日本と、誤った試合の入り方をしてしまい一瞬の隙を突かれてしまったコロンビアといった具合だ。

このように人は最初の選択が正しいか否かでその後の物事の進み具合が大きく変わってくるわけで、だからこそ多くの人々が何かを始める際に{入門}という鉄板のセオリーにすがるわけなんです。しかしそんな{入門}もいつの時代も普遍というわけでもないし、なにせ各々で適性というものもあるので難しい所でもあります。今回の記事は今一番新しい観点から{入門}を再定義しなきゃいけない分野について語りたいと思います。そう、ビートルズです。

ビートルズに感じるモヤモヤの正体

今回の記事は若い世代と範囲を狭めるのではなく、そもそもビートルズにあまり親しく触れてこなかった全ての人々にビートルズの魅力を知ってもらおうという趣旨の記事であることだけは触れておきたい。

そこでまずこの記事で片付けたいこととして、現状のビートルズを聴くうえで取り巻く環境についてのモヤモヤっとした部分をしっかりと向き合いたいと思う。その一つがビートルズ、めちゃくちゃハードル挙がってる説なわけだ。

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というのも今若い世代の人々がビートルズを知るきっかけって音源じゃなくて、学校の教科書の方が先に来ると思うんですよね。しかもそれは音楽の教科書に限らず、英語の教科書に歌詞が載ってたり、はたまた道徳の教科書でジョンレノンが想像してごらん~と説教じみたことを言ってたりすることで初めてビートルズを認知する人が多いと思うんですよ。

音源よりも教科書の方が先?そんなわけないだろうと思っているかもしれないが、実はこれほんとにある話でビートルズって皆さんが思っている以上に楽曲の認知度めちゃくちゃ低いんですよ。これって日本のタイアップ文化みたいなとこが関係してて、CMとかでビートルズの楽曲使いたい時にビートルズって著作権にめちゃくちゃ厳しいのも相まってカバー曲で代用することが多いんですよね。だから実はビートルズの楽曲なのに違う人が歌ってるせいで、ビートルズと認知されてないケースが実は結構多くて、逆に日本でも人気の高いクイーンなんかはここら辺の使用料が安いことも相まって、そのまんまの音源で使われていることで認知度が高いという実情はあります。

少し脱線してしまいましたが、このように若い人たちにとってのビートルズって立ち位置的にはクイーンやマイケルジャクソンという洋楽人気アーティストで並べるというよりは、エジソンやリンカーン、坂本龍馬なんかみたいな歴史上の偉人としてのポジションといった色合いが強いんはずなんですよね。しかもそれに拍車がかかるように楽曲を知らないから何やら凄い得体のしれない音楽集団だと思う人はいっぱいいます。そんなビートルズに対して何やら興味を持ったあなたたちの背後から怪しげな影が...

シュバッ!

???「ビートルズは教養だから聴け!」

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あっ!野生のビートルズおじさんだ!
ビートルズおじさんはビートルズこそ全ての音楽の根源であり、神だと信じてやまないから、ビートルズは聴いてて当たり前でしょって感じで圧をかけてくるぞ!これが俗に言うビートルズハラスメントってやつだね!

さぁここまでくると逃げ場はありませんね。

そんなにビートルズって凄いのか!

せやっ、とりあえずベスト盤から聴いたろ!

一体どんな凄い音楽がやってくるんだ...!?


。。。ん?

?????????

これのどこが凄いんだ????????????


こういった感じで無残にも散っていった人たち多いんじゃないでしょうか?

ここで浮かび上がってきた問題をいくつかおさらいすると、

・ビートルズの権威化

教科書なんかで取り上げられるようになったせいで、ビートルズが教養的な色を帯びるようになり、彼らのことをあまりよく知らないリスナーからアカデミックな印象を抱いてしまい、普通のアーティストと比べて距離感が生まれつつある事象。

・曲の認知度

クイーンやマイケルジャクソン、カーペンターズなんかと比べてもメディアでの使用例の少ないため曲とアーティストが一致している点では劣っている印象。

・ビートルズおじさん

過度にビートルズを神聖視してしまい、自分より若い世代に押し付けてしまう問題。これに関してはおじさんたちにそう思わせてしまうぐらい凄いビートルズが逆に悪いまであるし、おじさんはただ話し相手が欲しいだけなんだ、温かい目で見ようや。

(余談だが実は僕もビートルズおじさんなるものに遭遇したことがあって、ポールの来日公演の時にサージェントペパーズのコスプレしたおじさん3人組に絡まれ、君若いのによく来たねぇで始まり、あの時の武道館公演はなぁみたいな話を聞きたくもないのにされたことがある。まぁ、温かい目で見ようや笑)

・初見殺しのLove Me Do

偉大過ぎるロックバンドのデビュー曲とは思えないあの間の抜けた感じが、初めて聴いたリスナーからは拍子抜けする印象があるのは否めない。みんながみんな勝手にシンドバットみたいな凄い曲でデビューできるわけじゃないということを肝に銘じるべし。

そしてこれがおそらく一番の肝で

・ビートルズ、流石に古すぎる

そもそも日本のメジャーな音楽番組なんか見てても、懐メロとして紹介される限界値って80年代前半とかそこまでぐらいの時期だと思うんですよね。その時期のビートルズって何してるかっていうと、既に解散してから10年経っているだけでなく、ジョンレノンはもうこの世にすらいないという。そう考えると若いリスナーが普段触れる音楽の耐久度はとっくに越していますし、そもそもデジタル音楽に慣れ親しんでしまった体にビートルズどう?って言われてもまぁ難しいんじゃないかなと思ってしまうんですよね。そもそも来年(2022年)でデビュー60周年を迎えるわけですから、自分のじいちゃんばあちゃんなんかよりも年上の音楽って考えると相当古い印象は抱いてしまいますよね。


とはいえこれだけ悲観的な話はしているものの、僕自身はしっかりと要点を抑えたうえでビートルズを理解すれば全然ビートルズは今の時代でも十分に聴ける、むしろ今の時代でも燦然と輝く素晴らしい音楽として楽しむことが出来ます。

ドラゴン桜でも言ってたろ?

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阿部寛「ビートルズを楽しむうえで必要なのはテクニックだ。お前らぁ、ビートルズを聴け!」

というわけで皆さんも長澤まさみにでもなったつもりでビートルズを聴くうえでの要点を抑えていきましょう。



ビートルズ履修に関して(前置き編)

はいじゃあそんなわけで皆さんにしっかりとビートルズにハマってもらいたいので、ビートルズの最大限の魅力が伝わるようなモデルコースを用意しました。

1章 洋楽ロック入門としてのビートルズを扱うこと

2章 当時の状況で比較するビートルズの凄さ

3章 メンバーについて知る

4章 ではいざアルバムを聴こう

そんないちいち聴く順番指定したり、わざわざ段階踏んだりと色々指図すんじゃねぇぞって思う人大多数だと思うんですけど、まぁこれからする説明だけでも大分めんどくさいハードルが一杯あるんですよねこのバンド。ここら辺の認識がいまいちアップデートされてないところがあるため、ビートルズを好きになる機会を逃したり、彼らの凄さを正確に理解できてないといった事情があります。

実際日本の音楽雑誌とか音楽番組でビートルズについて取り扱うってなると、出てくる人たちも固定化されてるのも事実で(例:奥田民生、リリーフランキー、湯川れい子etc...)。そんなわけでサブスクの普及などもあってより音楽が身近になりつつある今だからこそ、新しいビートルズにスタンダードを定義する必要があるなと思った次第なわけです。


1章 洋楽ロック入門としてのビートルズを扱うこと

この際だから断言しよう。

洋楽ロック入門としてビートルズを薦めるのは非常に危険であるということ。

これに関しては先ほども触れた通り流石に今の肌感覚で聴くと古さを感じてしまうという点に加えて、そもそもビートルズ以上に洋楽ロック入門として最適なアーテイストが一杯いるだろうということも混みでの話だ。

例えば洋楽ロック入門の三種の神器として名高いRed Hot Chili Peppers、Green Day、Oasisなどは鉄板中の鉄板、特にビートルズからの影響を強く受けているOasisなんかの方が今の人たちの肌感覚にはフィットしやすいだろう。それ以外にも現役で活躍しているThe 1975やTwenty One Pilots、ロックではないが洋楽全般の入門として視覚的な面白さもあるマイケルジャクソン、そして日本と異常なほど親和性の高いQueenもいる。

Q1.果たしてこの面々を差し置いてまで入門としてビートルズが強い請求力を発揮できるのでしょうか?

A1.やり方と聴く順番次第ではより強い請求力を発揮できるとは思います

これが自分の見解であり、いくつか段階を踏まえなきゃいけないという点で他のバンド群と比べて多少厄介なところがあるため、洋楽ロック入門としては不向きと断りを入れたのである。

Q2.とりあえずビートルズの最高傑作から聴くやり方はどうなんですか?

A2.ビートルズの最高傑作なんて選べるわけねぇだろ

そうなんです、ビートルズの良くないとこはこの手の入門編となるような一枚が無いんですよね。まずオリジナルアルバム単位で見てくと最高傑作を選ぶことが非常に難しいです。なぜかというとアルバムごとにカラーがガラッと変わるタイプのバンドなので、人によっては評価がかなりぶれるし、加えてその時々の音楽シーンの影響などで再評価されたりされなかったりをしょっちゅう繰り返すんですよね。

一例としてアメリカの音楽雑誌ローリングストーン誌が選ぶオールタイムベストアルバム500なんかだと2003年時点では「Sgt. Pepper's Lonley Hearts Club Band」が一位でトップ10に4枚ランクインしているのだが、これが2020年に出た改訂版だと「Abbey Road」の5位が最高順位でトップ10はその一枚のみといった風に変化していたりするんですよね。とはいえこの改訂版自体がっつり改変しちゃったりしててアレなんですけど、彼らの出身のイギリスの音楽雑誌NMEのオールタイムベストアルバムだと2位の「Revolver」が最高順位といった風に、最高傑作とも言える一枚を巡る見解がかなりバラけているのは実情です。

もちろんベストアルバムも存在はするのだが、そのどれもが弱点があるのも事実。恐らく現時点で入門アルバムとして定番化している「1」はあくまでシングル曲だけの収録なためアルバムでしか聴けない重要な曲が聴けないだけでなく、「Strawberry Fields Forever」や「Please Please Me」といったシングルのなかでも重要な曲がなぜか収録されていないという点も致命的である。それに一曲目が「Love Me Do」という初見殺しからスタートすること、シングルで時系列を追う構図なのでその異常な進化スピードについていけない人もいると思います。

そしてもう一つのベスト盤が赤盤と青盤と呼ばれる1973年に出した作品なのだが、どちらも2枚組で合計で54曲収録というかなりのボリュームなので、そこまで来たらアルバム全部聴いちゃった方がいいよって感じはありますね。あとこの作品の選曲にはジョージが携わっているせいか、青盤の方は結構マニアックな曲が収録されていたりするのでいきなりインドっぽい曲とかリンゴの「Octopus's Garden」を聴かせんのは危険かなと笑。

というわけなんでビートルズって洋楽ロック入門として聴くには少々ややこしいハードルが多いことが分かったと思う。後の章で聴く順番についてはじっくり紹介したいと思うのでしばし待たれよ。


2章 当時の状況で比較するビートルズの凄さ

ここではじゃあビートルズってどんな風に凄かったのって話をするわけでが、一般的に語られるビートルズの功績をつらつらと述べたところで大体はWikipedia見れば事足りるし、載せたところでだから?って感じになるのは目に見えてるので、一応軽く載せて終わりにしたいです。

・作詞作曲を自分たちで行った
・スタジアムで初めてライブを行った
・ミュージックビデオをの元祖
・レコーディング技術の改革
・コンセプトアルバムを作った
・マッシュルームカット
・全米チャートのトップ5独占
etc...

はい、ぱっと思い浮かぶやつだけでこんな感じなんですけど、要はビートルズは今では当たり前のことを初めてやったパイオニア的なとこが評価されてることが理解できるはずだ。しかしパイオニアには悲しい性があって、今の時代の尺度で見てしまうと当たり前として浸透してしてしまったがゆえに凄さが見えづらいんですよね。今の時代にペレのスーパープレー集を見せられても、何がすごいん?メッシのプレー集でええやんってなるようなアレです。でもこれだけ功績があったりするとビートルズおじさんの人たちが、ビートルズは教養として聴くべし!みたいな感じで言いたくなる気持ちも分かります。

というわけでこういった部分以外にも、もっと根本的かつ普遍的な凄さといった部分をわかりやすく説明したいと思います。

凄さその1 並べてわかる異常なまでに美しいバンドアンサンブル

「ビートルズは今でも通用する音楽だ」という言説は昔から唱えられている理由の一因として、圧倒的に聴きやすいことが挙げられます。というか同時期の洋楽なんかと比べると各楽器の鳴りの良さや、コーラスワークの秀逸さみたいなところで、時代の古さが醸し出す粗みたいな部分がビートルズは圧倒的に少ないんですよね。

比較するために1965年にリリースされた名曲たちを並べてみました。どの曲も後世のロック、ポップスに大きな影響を与えた楽曲ですが、流石に録音技術の問題かまだまだ粗い部分が目立ちますね。

で一方のビートルズが同じく1965年にリリースした「Help!」なんですけど、古さこそは感じられるかもしれませんが上の4曲と比べると非常にきれいにまとまった印象がありますね。特にボーカルの部分に関してはかなりクリアに聴こえるのも印象に拍車をかけているんですが、こういった部分がビートルズが聴きやすい、もしくは現代でも通じると言われる要因の一つだと思っています。


凄さその2 バンドという概念を確立した

これ物凄い功績なはずなのになぜかあまり語られないんですよね。そもそもビートルズ出現以前のバンドって、基本的に売れているもので言えばメインを張っているフロントマンの後ろで演奏するいわゆるバックバンドとしての見方が強かった。(いわゆるビッグバンドと呼ばれるスタイルで、ジャズなんかでよくみられる演奏形態ですね)

現在のバンドのフォーマットの最初の形を作ったのは彼らが影響を受けたバディホリーって人なんですけど、彼自身は事故で早すぎる死を迎えてしまい、それに付随する形でアメリカのロックンロール人気も下火になってしまいます。とはいえこのバディホリーのバンドもあくまでも名義は「バディホリー&クリケッツ」なので、均等なパワーバランスを持ったバンドとして初めて成功したのはビートルズ(もしくはファミリーバンドとしての側面が強かったビーチボーイズ)という認識で間違いないでしょう。

逆になぜビートルズがビックバンドにならなかったのか?その答えは簡単でビートルズは全員がボーカルを取れる上に、4人中3人が活動初期の時点で作詞作曲が出来るDIY精神に溢れるバンドだったこと、そしてなんと言ってもジョンレノンとポールマッカートニーという強烈な二枚看板が存在したためビッグバンドとして誰かひとりを主役に据えるようなやり方がしなかった、むしろ出来なかったというのが正解です。結果としてこれがバンドというフォーマットの基盤を作ったわけなんですね。(ちなみ現役時代にアメリカで最も人気のあったメンバーはリンゴスターだったらしい)


凄さその3 ロックというアングラ音楽を大衆音楽として根付かせた

ビートルズの最大の凄さはこれに尽きると思います。

当時のロックンロールっていわば当時ジャズとかポップスが主流だったアメリカの音楽シーンにおいて突発的に起こった音楽で、それこそ不良の音楽として旧来の大衆音楽を好む層からは煙たがられていた背景があるわけで、しかも一回は当時最前線を張っていたアーティストの相次ぐ離脱(エルヴィスプレスリーの兵役とか先述のバディホリーの早逝など)によってオワコン認定されかけていた音楽なんですよ。

そこへビートルズがやってきて、大量のヒット曲を作り出したことでロックを一気に一般層にも受け入れられる音楽にしていったわけなんですよね。しかも彼らは約8年間の活動期間常にシーンのトップを走り続けたことで牽引役として機能し続けたこと、イギリスのバンドがアメリカで売れる土壌を築き上げたこと、リーゼントに革ジャンといういかついイメージからマッシュルームカットにスーツや長髪にサイケファッションなどのカジュアルなイメージをも与えたこと、そして流行りの音楽だったロックに芸術性を落とし込んだことなどあらゆる面で画期的だったわけなんですね。

今の日本の音楽シーンで分かりやすく言えば要は米津玄師みたいなもんです。ニコニコ動画というオタクカルチャーの枠組みにあったアングラ色の強い音楽ジャンル出身で、ボーカロイドの性急観を残しつつも人の声に重きを置いて活動するようになり、YOASOBIやうっせえわみたいなボーカロイド感のある楽曲がメインストリームで売れる土壌を作り、なおかつ自身もシーンの中心人物として揺るぎない地位を確立してるという意味では、同じパイオニア的意味合いで近いのでなんとなく説明が付きやすいでしょう。この米津玄師の規模感をワールドクラスにしたのが当時のビートルズといった具合ですね。(余談ですがビートルズオタクは「第二のビートルズ」や「現代のビートルズ」といった類いの、要は凄さを説明するために雑にビートルズを引き合いに出されることを非常に嫌います。特にワンダイレクションやBTSなどのボーイズグループがこの手の引き合いに出されるケースが多いので、使用する際は細心の注意を払いましょう笑)


3章 メンバーについて知る

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ビートルズというバンドはロック界においてもよくこんな濃いメンツが同じ街にいたなってぐらい凄くて、一人ずつどんな性質を持ったキャラクターなのかということを把握していくと今後曲を聴くうえで役に立つと思うので軽く紹介したいと思います。


ジョンレノン(ボーカル、ギター)

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ビートルズを知るうえで避けて通れない最重要人物であり、20世紀のポピュラー音楽史における2人のカリスマのうち一人だ。

日本だと愛と平和を歌う長髪髭眼鏡の謎の男というイメージで通ることが多いが、よく知られているセンター分けの長髪に髭ボーボーのヒッピーファッションだった時期は以外にも1969年の一時期しかやってない。

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そうそうこのビジュアルね。話に戻るがこの愛と平和の人のイメージが強すぎてなぜ死後40年たった今も多くのフォロワーが生まれるのか疑問に思う人も多いだろう。まぁ日本人の場合だとやっぱ嫁のオノヨーコがこの手の愛と平和のイメージが強いってのと、それこそジョンを心酔する人の多くがこのセンター分けの長髪に眼鏡かけたルックス(僕はこういう人をみうらじゅん〇号機と呼んでいる)になるパターンが多いのも影響かなと思っている。しかしそのイメージはあくまでもほんの一部分でしかなく、実態は非常に鋭い感性を備えながらも生涯にわたって愛を渇望し続けたロックンローラーであることが最大の魅力だ。

説得力溢れる力強いハスキーボイスが持ち味のボーカリストであり、どこか内省的な陰りのある楽曲を多く書きビートルズにおけるロックの要素を一手に担った。またフレディマーキュリーもびっくりなくらい濃密すぎる人生、世界中を震撼させるような毒舌をも平気で放つウィットに富んだワードセンス、美術学校出身ということからも窺えるアートへの造詣の深さ、そして何より世界中のロックミュージシャンならびに個性の塊のような他のビートルズメンバーですら魅了した強烈なカリスマ性が多くのフォロワーを生み出すこととなった。

ジョンの魅力を全部語りつくすだけで本が10冊ぐらい書けそうだが、どれだけビートルズにおいて重要な人物であったかを示すデータの一つとして紹介したいのが、ビートルズのオリジナルアルバム13枚のうち9枚がジョンがボーカル及び作曲した曲で終わっている。これが意図したものでないのかそうでないかは定かではないにしろ、いずれにしろ「Tomorrow Never Knows」や「A Day In The Life」といった重要な楽曲を手掛けたことは間違いない。


ポールマッカートニー(ボーカル、ベース)

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ビートルズを知るうえで避けて通れない最重要人物であり、20世紀のポピュラー音楽史における2人のカリスマのうち一人だ。ってあれ?さっきと同じこと言ってね?と思ったあなたは察しがいいですね。そうなんです、ビートルズというバンドは一人だけでも十分チートな音楽家が二人もいたことが凄いと言われる一因なわけで、メッシとロナウドがチームメイト、新垣結衣と長澤まさみのW主演のドラマ、とんねるずとダウンタウンがMCの番組、任天堂とソニーが一緒にゲーム機開発といったんなもんありえねぇだろうってことが平然と起こっていたモンスターバンドなわけなんですよね。あ?新垣結衣と長澤まさみはドラゴン桜?主演って言ってんだろぶっ飛ばすぞ。

ジョンがビートルズのロックの要素を担っているのに対し、ポールはビートルズのポップの要素を担っており、非常に親しみやすくキャッチーなメロディが特徴の楽曲を多く生み出した。「Let It Be」、「Yesterday」、「Hey Jude」、「Hello Goodbye」などのビートルズの中でも知名度の高い曲は彼が作ったものであることが多く、ポールの曲でビートルズに興味を持ちそして核であるジョンの凄みを知るといった流れはあるある。

七色の声とも称される幅広い声域を持ち、はつらつとした柔らかい歌唱からシャウトなどを駆使したロックな歌唱まで多彩なボーカルを見せる。元々はギタリストであったため非常にメロディアスなベースを弾き、ギターボーカル以上に難易度の高いベースボーカルを颯爽とこなす。また上述でも触れた通りギタリストであったためギターの腕前は申し分なく、「Taxman」での革新的なギターソロや「Black Bird」での繊細なアルペジオなど多くの名演を残している。またリンゴ不在の曲ではドラムを叩くこともあり、ビートルズ解散後のソロやウイングスの作品ではアルバム一枚丸々ドラムを叩くということもざらである。

ここまでの記述を見てわかる通り音楽家として必要な要素を非常に高いレベルで有しており、この異常なステータスの高さから最強のメロディメイカーの座をほしいままにしている。そのため多彩さが武器のポールと圧倒的なカリスマ性を持つジョンのどちらが最強かという論争はもはや風物詩と化している。また既にこの世から去ってしまい伝説となってしまったジョンに対し、79歳となった今もアルバム制作やスタジアムクラスのワールドツアーに繰り出し、生涯現役の生きる伝説である点も両者のスタンスの違いが如実に表れている面白いとこである。


ジョージハリスン(ギター、ボーカル)

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静かなビートルという愛称で知られており、活動後期になるとジョンレノンとポールマッカートニーの2大巨頭にも劣らない名曲を作り上げるまでに成長したメンバーだ。

とはいえざっくりとビートルズを知らない人からすれば一番影の薄いメンバーであることは否めないのも事実で、まず全体通して見てもそこまでボーカル曲が多くないにも関わらずジョンと若干似通った声質をしているため、初見だと彼の声を認識できるのは難しい(そもそもジョンはエフェクトで声を加工するし、ポールは先述の通り七色の声なので、最初のうちは誰がどの曲を歌っているか判別するのは難しいバンドではある)。しかもギタープレイ自体も派手なギターソロをかますようなタイプではないので、酷い時はあれポールの方が実はギター上手いんじゃね?と言われることもしばしば。

しかしながらジョージがビートルズのサウンドにおいて果たした貢献というのは実はめちゃくちゃ大きくて、そこを理解してしまった一部のビートルズファンが「ビートルズで一番凄いのはジョージ」とマウントを取り始める罠でもあるのだ。その曲ごとに求められる最適なギタープレイやアレンジを施すサウンドコンポーザーとしての能力は非常に高く、一度聴いたら耳から離れないプレイを多く残した。

またそうしたサウンドコンポーザーとしての彼の魅力を語るうえで欠かせないのが、それまでのロックでは使われなかった楽器の導入という点だろう。初期に導入した12弦ギターを始め、シタールなどの楽器を取り入れたことでインド音楽とロックの融合を図り、当時はまだまだ知名度の低かったシンセサイザーも彼が導入している。加えてコーラスでも難しいパートを歌ったりすることがあり、ビートルズの美しいハーモニーを構成するうえで必要な人材であったことは間違いない。ソングライティングの方では程よい渋みとレイドバックした曲調の物が多く、「Something」や「Here Comes The Sun」などの多くの名曲を書いた。解散後にメンバーの中で初めてヒット作を出したのもジョージで、ポールほどではないにしろ安定してヒット作をリリースし続けた。(ちなみにジョンは過激という理由で発売禁止にされた作品が多く、意外と売れてないというデータは見たことがある。とはいえ死ぬまで名曲製造機ではあったが)


リンゴスター(ドラム、ボーカル)

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ビートルズで最も加入が遅かったメンバーでありながらも、最年長で穏やかな人柄で個性派ぞろいのビートルズの緩衝材的な役割を担った永遠のマスコットキャラクターみたいな人。解散後に出したソロ作品には不仲だったメンバーがそれぞれ参加したり、バンド外でも人格者ぶりを発揮した結果めちゃくちゃ豪華なバックバンドを結成したりとなにかと凄い人である。

とはいえこの人もジョージ同様ジョンとポールの陰に隠れてしまって凄さがわかりづらいところはある。確かに一部のビートルズファンの中にはリンゴがボーカルの曲は絶対飛ばすといった輩は一定数いるし、俺も気分次第ではリンゴがボーカルの曲を飛ばすことはたまにある。

しかしビートルズのサウンドで最も重要な鍵を握っているのがリンゴのドラミングというのは紛れもない事実で、先ほど初見殺しと記したデビュー曲の「Love Me Do」では彼がドラムを叩いてないことでビートルズ特有のグルーヴが感じられないことも初見殺しの一因である。前がかりで強烈な8ビートでロックンロールの持つ攻撃性を演出し、「Ticket To Ride」や「Rain」など聴ける唯一無二のグルーヴを聴かせる(余談だが前者のドラムパターンはMr.Childrenの名曲「名もなき詩」に大きな影響を与えた)。

そもそもこれだけ音楽性の変化が激しいバンドでありながら、常にビートルズという芯がぶれなかったのはリンゴのドラムが土台として支えているからに他ならない。ジョージ同様楽曲にいかに最適なアプローチを施せるかということに念頭に置き、ストーンズのチャーリーワッツやフリートウッドマックのミックフリートウッドらと同様に動かないドラマーとして確固たる地位を築いた。ちなみに彼の息子のザックスターキーもドラマーとしてオアシスやThe Whoといった名バンドで叩いているのだが、彼が影響を受けたのは父リンゴではなく、正反対の動きまくるドラマーの代表格であるキースムーンであるのはなかなか変な話である。


4章 ではいざアルバムを聴こう

というわけでここからはいざ実践編ということで、実際にアルバムを一枚ずつ咀嚼しながらビートルズの凄みを段階的に知っていきましょう。

Q3.じゃあ、そのままサブスクで指定されたアルバムを聴いていけばいいんだね!

A3.ちょっと待ってくれそんな危険なことをしたら...

Q3.うわあああああああああああああああああああああ!
耳がムズムズするよおおおおおおおおおおおおおおお!
耳があああああああああああああああああああああ!

そう、これが今ビートルズを洋楽ロック入門としておすすめするのを僕がためらう最大の理由で、今のイヤホンで音楽を聴くこと前提としたリスニング環境にビートルズは不向きなんですよね。

というのもビートルズがデビューしたばかりの頃というのは、モノラルと呼ばれる左右に音が分かれてない録音形態で音楽を聴くことが主流とされており、現在のように左右のチャンネルにバランスよく振り分けてサウンドに立体感を出すステレオは一般的じゃなかったわけだ。

そのためステレオのレコードが一般化し始めた69年以前の曲を聴くと、びっくりするほど定位が定まっておらず非常に耳がこしょばいんですよね。特に初期の作品はプロデューサーのジョージマーティンがステレオ音源に懐疑的だったことや、ライブバンドとしての疾走感を演出したこともあるため、モノラルで聴くとより彼らが志向した音像が見えてくると感じます。

一例としてこの曲を特に何もいじらずイヤホンで聴いてほしいんですけど、ミックスではセンターにジョンのボーカルとポールとジョージのコーラス、左耳からはギターとベースとドラム、そして右耳からは間奏のギターソロとリンゴがポコポコなんかを叩いてる音が延々と続くといった不自然すぎるミックスがなされていますね。

ステレオでビートルズを聴くと各楽器でどんな風に音が鳴らされてるかわかるのでそれはそれで面白いんですけど、やはりモノラルで聴いた方が心地よく聴けるかなとは思うので、今すぐスマホの設定のとこからモノラルオーディオに変えて聴いてみてください。

さてやっと本題に入りたいと思います。

まず皆さんに最初に聴いていただきたいアルバムはこちら!

①まずはこの一枚から

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はい!9作目の「Magical Mystery Tour」ですね。

この作品を一番最初に持ってきた理由はシンプルで、ビートルズ作品の中でも最もポップかつ知名度の高い楽曲が多く収録されていることと、サイケ期の作品なので音が洗練されあまり古臭さを感じないということ。

CMでも使われて知名度の高い「All You Need Is Love」や「Hello Goodbye」といったポップな曲や、ロック史に残る最強の両A面シングル「Strawberry Fields Forever」と「Penny Rain」も収録されており初心者でも触れやすいキャッチーな曲が多いです。

また元々は自分たちが出演するテレビ映画のサントラということもあり、前半部分は実験的かつサイケな曲が並んでおり、ビートルズがただのポップスで終わらない程よい狂気性を持ったバンドであることが窺えます。

またこの時期までくるとそれぞれの作家性がはっきり見えてくるのも印象的です。「Hello Goodbye」や「The Fool On The Hill」で見られるようにシンプルかつストレートなポップソングを作るポール、「Blue Jay Way」での非常にディープでスピリチュアルな世界観を見せるジョージ、「All You Need Is Love」でのピースフルなポップスターとしての顔と「I Am The walrus」でシニカルなロックスターとしての一面も見せるジョン。こうした各メンバーの個性がわかりやすく見えてくるのも、この作品を最初の一手に置いた理由です。


②名曲率の高さとその異常な進化スピード

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まさかのここでベスト盤なんですけど、ここで「1」を2枚目としておいた理由はいくつかあります。

まずは「Magical Mystery Tour」というビートルズのキャリアのなかでも中間ぐらいの位置にある作品を聴いたことで、漠然ではあるもののビートルズの全体像を認識できるようになったこと。次にこれからオリジナルアルバムを聴くうえで、アルバム未収録のシングルの取りこぼしを防ぐ点が挙げられます。

そしてここが重要で「Magical Mystery Tour」でワンクッション挟んだことである程度全体像が認識できた状態でこの「1」を聴くため、ビートルズがどれだけ安定して名曲を作り続けたかということと、その進化のスピードの異常性に気付かされる構造となっています。

ビートルズの活動期間って約7年ぐらいなんですけど、これを今の基準で当てはめると大体2014年にデビューしたアーティストと比較してみましょうか。さっき2014年にメジャーデビューした人たちの名簿調べてみたんですけど、ジャニーズWESTとかゲスの極み乙女、ファンキー加藤なんかが当たるみたいですね。え?サンプルが参考にならねぇって?とはいえこう見ると7年という数字で曲が洗練され続けることの難しさってわかるんじゃないですかね。

これが

こうなるまでが普通によく見る7年の変化ですね。そうはいってもIndigo La Endもかなり垢ぬけたし、川谷絵音ってやっぱ天才だと思いますよ。

じゃ一方ビートルズなんですけど

これが

こうなりました。

ちょ、誰ですか????????

「From Me To You」の野暮ったい感じが完全に消え失せて、もはや神々しさすら出てきてるじゃありませんか。

あとこの作品を聴いていると、あれ?この曲どこかで聴いたことあるぞってなると思います。そう皆さんの知らないところでビートルズの楽曲はいろんなところで流れており、最早生活の一部として溶け込んでいることがこの作品を通じて知ることが出来るわけなんですよね。それだけ多くの名曲を作り続けた偉大なバンドだということを、このフェーズで理解してもらえたらオールオッケーです。


③あふれ出るクリエイティビティ!中期の作品を知る

ビートルズの活動は大きく3つの時期に分けることが出来ます。

まずは1962年から1964年までの初期、「1」の収録曲で当てはめると「Love Me Do」から「Eight Days A Week」までの時期です(こういう時に「1」を経由することで楽曲ごとに時期が把握できるようになります)。この時期はビートルズが社会現象レベルのスターへと駆け上がるまでの時期で、ポップかつキャッチーな楽曲が多く制作された時期でした。

次が1965年から1967年までの中期、「1」の収録曲で当てはめると「Help」から「Hello Goodbye」までの時期です。阿鼻叫喚の状態でまともに演奏ができないことライブに対する熱意を失ったビートルズは、スタジオワークを通じてロックの可能性を切り開きアーティストとしての性質を強めたました。ジョンはサイケの派手な音像と内省的な楽曲、ポールはクラシックやソウルの導入を通じたポップな楽曲、ジョージはインド音楽への系統によるスピリチュアルな楽曲、リンゴはマスコットキャラクターとそれぞれの音楽性に乖離が見え始めたのもこの時期の特徴。

最後が1968年から解散までの後期で、「1」の収録曲で当てはめると「Lady Madonna」から「The Long And Winding Road」までの時期ですね。ポールを主導に空中分解しつつあったバンドを一つにしようとしたため、原点回帰的な意味合いも込めてシンプルな楽曲が増えるのがこの時期の特徴です。

そんな中でも「1」の次に聴いてほしいのがこれらの作品。

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中期に該当する「Help!」、「Rubber Soul」、「Revolver」の3枚です。なぜこの3枚をチョイスしたかというと、まず現時点で「Magical Mystery Tour」と「1」を聴いてはいるもののまだ表層的な部分しかビートルズを理解できてないということ。そしてこの3枚はビートルズの音楽性が飛躍的に進化を遂げた時期の作品であり、サウンド面においてもよりビートルズの深い部分を理解することが出来ると思います。


まずは「Help!」、これ四人はアイドルって邦題が付いていることから、ビートルズファンの間では中期ではなく初期の作品としてカウントされるのが定説とされてきたんですけど、この記事ではあくまでも中期のスタートを切った作品としてカウントしたいと思います。

というのも当時の忙殺されるような状況下に置かれていたビートルズが、若者に人気にスターという立ち位置からより社会への強い請求性を持った存在であることを自覚し始めたのがこの作品だと思うんですよね。野球スタジアムでのライブやMVを作ったなどのいわゆるビートルズが成し遂げた快挙というのはこの時期の話ですし、またそれまで軍人などに授与されることの多かったMBE勲章(日本でいう国民栄誉賞)をアーティストとして初めて受賞(一説には政治利用された説もある)したことで賛否両論を起こしたりもしています。(ちなみにこの時ジョンが「人を殺して勲章をもらった奴らより、音楽で人を喜ばせた俺らの方がもらう資格がある」と言ってさらに油を注いだのは有名な話)

そして前年に公民権運動に関わっていたフォーク界の貴公子ボブディランと出会ったことで、より音楽性の深化を図るようになったのも大きいです。特にディランの影響を受けたのがジョンで、軽快なメロディとは裏腹に忙殺されるような日々を皮肉った「Help!」や、「You've Got To Hide Your Love Away」での前作から延長線とも言えるディラン流のアプローチなど、内省的で陰影のあるロックナンバーという一つのフォーマットが完成します。

一方ジョンが深化をしたのならば、ポールは今作で進化を遂げた。今までジョンが主導だったバンドにおいて、ポールは今作のハイライトに「Yesterday」というポピュラー音楽史の金字塔を作り上げた。弾き語りに減額四重奏という非常に簡素な構成ながら、うっとりするほど美しいメロディが際立つこのバラードによって、世界最強のメロディメイカーとしての地位を確立したのであった。

つまり今作からポール主導で制作される「Magical Mystery Tour」までの作品というのは、ジョンとポールという二大巨頭のパワーバランスが限りなく対等であった時期であるため、一つ一つの作品の充実度が物凄く高い時期でもあるのだ。


一般的にビートルズがアーティストとしての側面を強めるようになったと言われるのがこの「Rubber Soul」という作品です。サイケなロゴが印象的なジャケ写や、紛れもののソウルという独特のタイトルも含めて確かにアーティスティックな風格が前面に出てくるようになりました。

それまでのロックンロール特有の荒っぽいサウンドから、一気にマッドで乾いた感じのサウンドに変貌しています。特にリンゴのドラミングなんかはかなり大人しくなったというか、いわゆるビートルズのグルーヴみたいなものが確立された印象があります。

ジョンの内省的な部分はより炸裂し始め、「Norwegian Wood」や「Girl」などで見られるメランコリックなラブソングでソングライティング面での成熟した様子を見せつけます。そして個人的にジョンの楽曲で一番好きな「Nowhere Man」も収録されており、その皮肉めいた詞世界やジャングリーなギターサウンドは同時期にThe Byrdsの「Mr. Tambourine Man」などともに元祖ドリームポップと言っても過言では無いでしょう。

一方ポールの躍進も凄まじく冒頭の「Drive My Car」での軽快なメロディとドスの利いたボーカリゼーションに始まり、「MIchelle」での湿ったフレンチポップな感じなど、小気味良い楽曲を多く連ねさせます。また「Norwegian Wood」でのシタールの導入など、ジョージのインド音楽への傾倒もこの頃からでジョンポールだけでないジョージの魅力も開花し始めた作品でもあります。


そしてこのゾーンのラストを飾るのが大傑作「Revolver」ですね。最近だとビートルズの最高傑作はこのアルバムなのではと言われるほど評価を確立した感があるように、とにかく収録曲の強さ、そしてサウンドのかっこよさという点では群を抜いている一枚だと感じます。

なんといってもアルバムのオープニングを飾るのがジョージ作曲の「Taxman」で始まるというイレギュラーさ。そしてこの「Taxman」を筆頭にビートルズ作品の中でもギターの音が目立ち、「Doctor Robert」や「And Your Bird Can Sing」など全体的にロックな曲が多く収録されています。

そしてポールのシンプルだけど強いメロディを持ったポップス製造機としての能力は今作で完成します。弦楽八重奏をバックに孤独な老女の一生を歌ったもの悲しいナンバー「Eleanor Rigby」、ブライアンウィルソンからインスパイアされたこれぞポールの美メロの真骨頂「Here, There And Everywhere」などハンカチ必須の美しい楽曲たちです。

個人的に言及したい一曲がありまして、それが「For No One」です。メロディの美しさはもちろんのこと、クラヴィコードとフレンチホルンを導入したフレンチポップ調のビートルズにしては珍しい構成、そして煮え切らない関係を歌った大名曲だと思うんですけど、イマイチ埋もれてる感が否めない一曲なんですよね。僕はよくビートルズおじさんが通ぶるために「ほんとに凄いのはAll My Loving」って言うことがあるんですけど、この曲か「Nowhere Man」あたりを凄いって言った方がよっぽど通ぶれるんじゃないかなと密かに思っています。まぁわざわざこういうマウントに持ち込む時点で野暮な話なんですけど。

一方ジョンなんですけど、今作のジョンは終始気怠そうというかはっきり言っちゃうとキマッています。サイケデリックカルチャーの申し子というだけあって、彼の手掛けた楽曲はポールのシンプルイズベストとは真逆に様々なトリックが施されています。「I'm Only Sleeping」のフィードバックや「She Said She Said」の変拍子など、どこか掴みどころの無い曲が続くかと思えば「And Your Bird Can Sing」などの強いロックも聴かせてきます。

そして極めつけはラストを飾る「Tomorrow Never Knows」だろう。ダライラマが山の上から説法してるようなアレンジという謎の注文をジョンが付けたことで、当時のレコーディング技術で出来る最大限の実験を行いまくった結果、今の時代にも通用する強烈な楽曲が完成した。今のポピュラー音楽シーンにおいてもここまで強い音像を持った楽曲って中々無いと思うし、なんならこのアルバムで最初に録音された曲がこの曲なんだから、当時のビートルズの創作意欲の異常性を伺うことが出来るのではないだろうか。


③生粋のロックバンドとしてのビートルズの魅力を知る

続いてのフェーズではビートルズの持つロックンローラーとしての資質について知ってもらいたいと思います。よく一部のクラシックロックファンに「ビートルズはロックじゃなくてポップスだ」という人がいるんですけど、確かにこの世代のバンドの中でも飛びぬけてキャッチーな曲が多いし、ビジュアル面も非常に文化系な印象があるので、ロック=不良の音楽と思っている層からはそのように思われてもおかしくないでしょう。

ですがデビュー前の写真とか見るとぱっと見はヤンキーですし、荒くれ物揃いのリヴァプールやハンブルグでしのぎを削ってきた生粋のロックバンドなのは間違いないんですよね。野音でライムスターやブッダブランドとしのぎを削ってきたZEEBRAさんと同じ理論です。メンバーの中で最もヤンキー気質なジョンがアートスクール出身で芸術方面への造詣があったことが、ビートルズがアーティスティックな方面へとシフトできた要因ですし、実際ビートルズはメンバーのほとんどが高卒(リンゴに至っては中卒だったはず)で、逆に不良っぽいライバルのストーンズがロンドン大学のミックジャガーを筆頭にインテリ揃いなのもなんだかおもしろい話です。

そんなわけでこのフェーズで聴いてもらいたい作品はこの3枚

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「Please Please Me」、「With The Beatles」、「Let It Be...Naked」の3枚です。

前2枚はビートルズの最初期の作品ですけど、「Let It Be」は最後にリリースされた作品なわけで一見共通項がなさそうに見えるんですけど、まぁとりあえず聴いていきましょう笑。

まずはデビューアルバムの「Please Please Me」、実はここで皆さんのやってもらいたいことがあるんですけど一曲目の「I Saw Her Standing There」をイヤホンのステレオとモノラルの両方で聴き比べてみて欲しいんですよね。冒頭でモノラルに設定して聴いてくれと言った理由がなんとなくわかってもらえると思うんですけど、モノラルの方がチャンネルの分離が行われないためバンドアンサンブルの迫力がよく伝わると思います。

これこそジョージマーティンが追求したライブバンドとしてのビートルズの音の再現であって、またほとんどの楽曲が一発録りで取られたもので、当時の彼らのライブのレパートリーとして演奏していたカバー曲が半数を占めているため、限りなくスタジオライブという形式に近い作品として捉えることが出来ます。そう考えるとこの程よいドライブ感のある演奏、この時点で全員が歌える(特に「Twist And Shout」のジョンの絶唱は圧巻)というボーカルグループとしての一面などを鑑みても、彼らのライブバンドとしての実力を伺うことが出来るはずです。

あとこの作品の特徴って凄く磯臭さがあるというか、港町の情景が浮かぶようなサーフロックライクなサウンドがいいですよね。雨の日に海沿いの道のカーステレオでこの作品か。大瀧詠一の「A LONG VACATION」なんかを聴くと非常に沁みるのでオススメです。


続いて2作目の「With The Beatles」なんですけど、こちらも一発録り形式の作品ではありますが前作と比べて初期のビートルズとしてのフォーマットが定まったような印象があります。

というのも前作で感じられたサーフロック感やロカビリー色が薄れ、「Please Mr. Postman」や「You Really Got A Hold On Me」などのカバーに見られるモータウン系列のソウルミュージックへの傾倒が挙げられます。このようなソウルへの傾倒が楽曲全体をブラッシュアップし、より垢抜けた印象を与えています。

リンゴがボーカルの「I Wanna Be Your Man」やジョージ作曲の「Don't Bother Me」など、レノン=マッカートニーだけでなくバンド全体の総合力をアピールした作品とも言えるだろう。


そして「Let It Be...Naked」、小室〇「好きな言葉はレッイッビー」でお馴染みの「Let It Be」です。「Let It Be」という作品はお蔵入りされた「Get Back」という作品を解散後ジョンがフィルスペクターにプロデュースを依頼してリリースしたということもあり、一部楽曲の大幅なストリングスアレンジなど楽曲間のコンセプトの乖離が激しかったこともあり終始締まりがなく、「Let It Be」という名アンセムを収録しながらもそこまで評価が高くないという面を持った作品だ。

ではなぜ初期の2作品と並べてこのアルバムも聴いてもらおうと思ったのかというと、このアルバムはお蔵入り前の「Get Back」というタイトルからもある通り原点回帰的な意味合いが強く、なおかつ3年ぶりの公式ライブとなったアップル本社ビルでのゲリラライブに向けて制作された楽曲があるからだ。


そりゃ「Let It Be」や「The Long And Winding Road」、「Across The Universe」みたいなぐうの音も出ない美しい楽曲に目が生きがちですけど、このアルバムの本質は「Get Back」や「One After 909」などのオーバーダビングを排したシンプルな楽曲にあると思うんですよね。3年近いブランクがある中で重い腰を上げライブを行おうとしたわけで、じゃなきゃあんだけ創意工夫に富んでいたビートルズが今更デビュー前に作られていた「One After 909」を引っ張り出そうとはしません。

つまるところこの作品にシングル「Get Back」のB面「Don't Let Me Down」が収録されていれば、もうちょいアルバム全体にタイトな感触は残せたかなと思うんですよね。そうした意図を上手く再構築したのがこの「Let It Be...Naked」という作品で、後年フィルスペクターのミックスに不満を抱いていたポールがアビーロードスタジオのエンジニアにリミックスを依頼し、「Don't Let Me Down」を追加したりなどの修正を行ったのがこの作品なんですよね。つまり本来彼らが目指してた「Get Back」プロジェクトに限りなく近い形であり、彼らのロックバンドとしての武骨さを再確認できるのがこの作品の魅力なんですよ。


④天才ボーカリスト ジョンレノンの凄さを知る

続いてのフェーズではジョンレノン単体にフォーカスして見ていこうと思います。

というのもこのジョンレノンという人、先述のメンバー紹介のところでも触れた通り愛と平和の人というイメージでまかり通っていたり、ポールのように曲のキャッチーさや演奏技術の高さといったわかりやすい凄さが突出しているタイプのアーティストでは無いんですよね。

僕どちらかと言えばジョンかポールかで言えばポールの方が好きなんですけど、はっきりと断言してしまいますがビートルズはジョンのバンドで間違いありません。後期になるとジョンの才能は枯れたなんてとんでもないこと言う人がいますけど、それはジョンがビートルズに対してモチベが下がったことと元々のアート志向がオノヨーコと出会ったことで分かりにくいベクトルに傾いたことが要因だと思われます。

まぁ前のところでも逐一ジョンの凄さみたいなとこは伝えたと思うんですけど、ここでジョンの凄さがわかりやすく伝わる2枚を聴いてほしいと思います。

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「A Hard Days Night」と「Beatles For Sale」ですね。どちらも1964年リリース、ビートルズがアメリカ進出に成功し世界的スターとしての地位を確立した年にリリースしたこの2枚、その中心にいたのは言うまでもなくジョンでした。

まずは「A Hard Days Night」、「ビートルズがやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!」という邦題史に残る激ダサ邦題でお馴染みの作品です。前半の曲はビートルズ初の主演映画のサントラとしての側面があり、アルバム全体を通してこれぞ初期ビートルズと言わんばかりのストレートに強度のある楽曲が多く収録されています。

特筆すべきは初の全曲オリジナルというだけでなく13曲中10曲はジョンが作った、もしくは制作に携わっているという働きぶり。「A Hard Days Night」や「If I Fell」、「I'll Be Back」などで見せるポールとのコンビネーションは圧巻、加えて自分で作った曲でありながらジョージにボーカルを譲るという余裕っぷりも見せており、いかに当時のジョンがビートルズを牽引していたかが窺えるのが今作の魅力です。


そして「Beatles For Sale」、この作品は当時多忙なスケジュールの合間を縫って制作されたこともあり、再びカバー曲が増えたことやまとまりに欠ける内容が相まってあまり評価が高くない作品です。

でも個人的には結構好きなアルバムでもあって、なぜかというとこの当時ボブディランからの影響でフォークのアプローチを取り入れ始めた最初の作品であり、その中でもジョンの奥底に眠るアーティスティックな性格が最初に現れた作品でもあるんですよね。


特に前半の「No Reply」や自虐的な「I'm A Loser」などのフォーキーなナンバーにおいて、楽曲の持つ荒涼とした感じとジョンのざらついた力強い声質が抜群にマッチしています。「Mr.Moonlight」のシャウトなんかは誰が聴いてもその迫力にノックアウトしてしまうことでしょう。このように初期ではパフォーマンスやソングライティングの部分でバンドを牽引し、中期以降にポールやジョージが成長して以降は独自のカラーを打ち出していったことで、ビートルズというバンドに更なる深みを持たせていったことがジョンレノンの凄みとも言えるわけなんですね。


⑤取扱注意の名盤たち

仮にビートルズをちゃんと聴いて人たちはここまで来た段階できっと不思議がっていることでしょう。なぜあの名盤たちを紹介してないのか?

そんな人たちの期待に応えるかの如く、このフェーズで聴いてもらう作品はこちら。

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「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」と「The Beatles」でございます。

この2作品はビートルズ屈指の名盤として多くの人からフェイバリットとして挙げられることが多いんですけど、いかんせん一癖も二癖もある作品なのでここまで取っておくことにしました。

ロック史に残る金字塔「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」ですね。当時っライブ活動を停止し、架空のバンドのショーというコンセプトで制作された。オーケストラの本格的な導入や4トラックレコーダーの2台同期などのビートルズの実験精神のピーク時に達した作品であり、なおかつ架空のバンドのショーというコンセプトを持ったことから、世界初のコンセプトアルバムとしてロックの芸術的側面を一気に引き出したと同時に、当時のサイケデリックカルチャーを代表するアルバムとして広く受け入れられた。

しかしながらこのアルバムには弱点があって、それが曲単位で見るとビートルズの作品の中で一番弱いというところだ。というのもオーケストラの本格導入によって、あまりロック感の強い曲が少ないといった点が要因だと思うんではあります。あと純粋に最後の隠しトラックが怖いのも、あまり最初の方にオススメしない理由の一つです

代わりにこの手のポップスに関してはポールの得意分野ということもあり、ポールの手掛けた楽曲は「She's Leaving Home」や「Lovely Rita」などどれも高クオリティなポップスが多く収録されています。元々のコンセプトを立ち上げたのもポールなんで、ここら辺からジョンに変わってポールがビートルズを牽引する姿勢が見え始めます。ジョージは相も変わらずインド趣味が爆発しているんでそこはお察しなんですけど笑。

一方ジョンはこの時期から本人の心境が切り替わったこともあり、LSDをタイトルに隠語として入れた「Lucy In The Sky With Diamonds」やおがくずみたいな匂いのする音を再現しろという名采配を見せた「Being For The Benefit Of Mr. Kite!」などサイケな曲を手掛けています。一番見てくれだけならヒッピーぽいところがあるメンバーなだけに、サイケカルチャーにうまく適応できたのもジョンの存在ありきといったところはあります。

そしてこのアルバムがここまで神格化されてるのは、ラストに「A Day In The Life」があるからでしょう。全身全霊目指してくうぇーいwwwってラップする奴ではありません、あれは嵐の「A Day In Our Life」です。ジョンとポールによる共作曲で、ジョンが新聞に載っていた交通事故の記事からインスパイアされた曲を、そしてポールは少年時代の朝の様子を曲にといった風に、とある一日というテーマで二人の作家性が如実に現れた作品です。特にジョンのパートはその美しいメロディと血気迫るオーケストラアレンジも相まって、非常にシリアスで胸に来る物があります。


そしてバンド名をタイトルに冠した「The Beatles」、通称「White Album」とも呼ばれる2枚組30曲の特大ボリュームなアルバムです。このアルバムは先述の「Sgt.~」と打って変わりコンセプトは特に無く曲の強度は段違いに高いんですけど、やはり初っ端から30曲聴かせるのは酷だと思ったんで後半まで取っておきました。

2枚組30曲というボリュームはメンバーそれぞれの創作意欲がもはや収集が付かなくなったがゆえに、力業としてこのような形態でリリースされたという経緯があります。途中リンゴが活動に嫌気がさして離脱したことが象徴するように、別々のスタジオに入って同時並行で各自の曲を制作したりなどと、バンドとしてのまとまりは機薄であるもののそれがアルバムに多彩をもたらした。

元祖ヘヴィメタルこと「Helter Skelter」、スカに触発された「Ob-La-Di, Ob-La-Da」、エリッククラプトンの名ギターソロが堪能できるジョージ作の「While My Guitar Gently Weeps」、当時イギリスで起こっていたブルースムーブメントを皮肉ったブルースナンバー「Yer Blues」、前衛的なサウンドコラージュ「Revoluton 9」、子守歌の「Good Night」など多種多様な楽曲が揃い、どんな人もこの中に一曲は好きな曲があると言わしめるほどの充実した内容となっています。

またそのバラエティに富んだ内容から、現代の大衆音楽の教科書とも評され、特にいくつかの楽曲ではその先進的な姿勢が未だに多くのアーティストに影響を与え、早すぎるオルタナティブロックのアルバムでもあるのかなと思います。


⑥最後のステップに行く前に

ここでビートルズ単体としてはもう残すところあと一枚聴いてくれれば終わりなんですけど、ここで一端遠回りとしてジョン、ポール、ジョージのソロ作品に触れて欲しいと思っています。

なぜかというとビートルズファンの中でもメンバーのソロまで行き着く人って実は少なくて、ジョンはアルバムの数が少ないこともあってなんとかカバーできる人はいるんですけど、今もバリバリ現役で60年近く最前線でやってるポールや、最初のソロデビュー作が2枚組の初見殺しでなおかつ趣味性の強いジョージなんかはやはりちゃんと網羅出来てる人って極少数になってきちゃうんですよね。ちなみにリンゴのソロ作は僕も全く知りません。

ですがジョン、ポール、ジョージはソロになってからも素晴らしい作品を残し続けたので、これを機に聴いてほしいということでその中から3枚ピックアップしました。

まずジョンはベスト盤の「Power To The People - The Hits」から。いきなりベスト盤かよって思うかもしれませんが、この三人の中だったら比較的容易にキャリアを網羅できるということと、「Happy Christmas」や「Power To The People」など抜群の知名度を誇りながらアルバム未収録曲のものも多いためこのベスト盤である程度把握してもらおうという魂胆に落ち着きました。(あと一部のオリジナルアルバムにはオノヨーコの曲っていうハッピーセットが付いてたりするので...)

聴いてもらえればわかるんですけど、どの曲もどこかで聴いたような有名な曲ばかりで、実質6年ぐらいの短いキャリアでありながらその異常な名曲製造機っぷりを発揮していることが窺えます。


続いてジョージですがこちらは1987年にリリースした「Cloud Nine」をチョイスしました。当時セミリタイア状態だったジョージが5年ぶりぐらいにリリースした一枚で、エレクトリックライトオーケストラのジェフリンがプロデュースを担当しています。ジェフリンはビートルズよりもビートルズらしい曲を作ると評されるアーティストであり、後々のアンソロジープロジェクトや90年代のポール作品にも携わったりする重要人物でもあります。

80年代の作品ということもありデジタルなサウンドが耳に馴染みやすいということや、久しぶりのヒットとなった「Got My Mind Set On You」などキャッチーで聴きやすい曲も多いのでジョージのソロ入門としては打ってつけの一枚です。


ポールに関しては迷いましたね。というのもキャリアがめちゃくちゃ長いので選択肢が多すぎるということ、入門としてうまく機能しそうなベスト盤があまりないこと、あと筆者がポールに関してかなり歪んだ愛情で接しているから一枚だけ選べと言われるとそんな酷な話きついっすわぁってなるんですよ。というわけで今回は一番無難そうな1982年リリースの「Tug Of War」をチョイスしました。

日本でうっかり逮捕、自身のバンドであるウイングス解散、そして盟友ジョンの死ととにかくツイてなかったポールがジョージマーティンと再びタッグを組んで挑んだ傑作で、スティービーワンダーと共演した「Ebony And Ivory」など非常にソフトかつアーバンな音像で奏でるポップな楽曲が魅力の一枚。

(一応参考に...)



⑦ビートルズのあまりにも完璧すぎる最後を体感する

というわけで⑤と⑥の段階でなんとなく理解できたかなと思うんですけど、ジョンとポールの目指す音楽の方向性って1968年の時点で一つの組織の中では収めることがもう不可能な状態まで来ていて、それに加えてジョージもインドに凝っていた時期を乗り越えて独自の音楽性が確立されたため、3人のソングライターの共存はかなり難しい状況に陥ったわけです。

そこにオノヨーコと出会ってジョンがビートルズへのモチベをなくしたり、ポールが空回りしたり、せっかくドキュメンタリー作品作ろうとしたらガチ喧嘩してお蔵入りになったり、ポールが空回りしたり、立ち上げたレーベルがヒッピーのたまり場と化したり、ポールが空回りしたり、著作権を巡って悪徳マネージャーが登場したり、ポールが空回りしすぎて農場に引き篭もりベジタリアンと化したりするグダグダ具合がロック史に残る泥沼劇として記録されるわけなんですね。(時系列ぐちゃぐちゃじゃねーかって突っ込みは無しね)

とはいえ69年初頭に行われた「Get Back」セッション(後の「Let It Be」です)のグダグダ具合もさすがにマズいと思ったらしく、みんなモチベが低いなりに最後の大仕事だ的なノリで作られたのが今回聴いてもらうこの作品です。

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ビートルズ最後の大仕事こと「Abbey Road」です。

ビートルズの最高傑作とも呼び声の高い一枚ですが、その意見は納得でして曲の良さはもちろんのこと、曲の強度としての強弱の付け方や起伏といった構成力がやはりずば抜けてる作品なんですよね。


また当時レッドツェッペリンやキングクリムゾンなどの若手の台頭やレイドバックの流行、さらにはウッドストックフェスティバルなどのロックという音楽が一つの成熟を迎えているタイミングで、それまで時代の一歩先を走り続けたビートルズが時代と歩調を合わせたことでその強さを再確認させた作品という所も今作の魅力でありカッコいいとこなんですよね。


今作のオープニングを飾るのはジョン作の「Come Together」、冷たい質感がめちゃくちゃかっこいいブルースロックでアルバムにいい意味での緊張感を与えます。この時点で一番ビートルズにモチベが無いジョンですが、手掛けた曲は少ないけれどどの曲も非常に緊迫感があり、アルバムにメリハリをつけるためのアクセントとして機能しています。

そして2曲目にビートルズ最高のバラードとも称される「Something」が来るんですが、これがまさかのジョンでもポールでもなくジョージ作なんですからそりゃソロで独り立ちしたくなるわなってなります。これ以外にもロッキンの帰りのBGMでお馴染み「Here Comes The Sun」も彼が作っておりソングライターとしての成長、ソロになってから武器になるスライドギターやシンセサイザーの導入などコンポーザーとしての才覚も光らせます。

あと何気に凄いのがリンゴが作曲した「Octopus Garden」がしっかりアルバムの空気感を崩さずに、アルバムを構成するピースとして機能してるんですよね。リンゴの作曲自体は「White Album」でもあるんですけど、コンセプトとかそんなもの存在しない「White Album」とは違って全体に流れが存在する「Abbey Road」において浮かないのは凄いですよ。

そして今作は何と言ってもポール、この人の独壇場と言っても過言ではないでしょう。俗に言われるポールメドレーと呼ばれる「You Never Give Me Your Money」以降の8曲の完成度はすさまじく、今でもポール本人がライブの終盤で「Golden Slumbers」以降の3曲を披露するくらい重宝しており、ほんとこのメドレーだけで白米3杯は余裕で行けます。細かい視点で言っちゃうと止まらんくなりそうなので、ぜひぜひみなさんの耳でしっかり聴いてみてください。

最後に君の受け取った愛は
君の捧げた愛と同等になるのさ

かっけぇ、、、


まとめ

いかがだったろうか。これが僕の思うビートルズを履修するガイドラインなのだが、ぶっちゃけそんなとやかく指示されながら聴くの嫌だなって人もいると思うし、そもそもビートルズを今聴く意味なんてあるのかと思う人もいると思う。まぁ所詮は音楽、されど音楽なんでわざわざ教養として聴くことは無くとも、聴いといて損することは無いと思うんで軽い気持ちで聴いてみてください。もしこれを機にハマったら、いつかどこかであったら楽しくビートルズの話でもしましょう。

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