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生き延びた先に何がある?

 おいおい、そんなこと真顔で聞かないでくれよ。頭がおかしくなったのか?

 ……知ったこっちゃないね。ともかく、俺は勘定をしなくちゃならん。ガキを大学に入れるために、カミさんはぎゃあぎゃあ騒ぐんだ。子供には立派な教育を受けさせる「義務」があるとか、そのためのあんたの稼ぎが少ないとか、そのせいで俺は立ち食いそば屋のトッピング一つ付けられやしない。冗談じゃないぜ、あんた18時間ぶっ続けてトラックを運転したことがあるかい? いったい俺に何を求めてるってんだよ。

 幸せかって? 考えたこともない。あんたは家族はいないのか? いない方が良いだろうね。うるさくてかまいやしない。自分の時間なんてろくに取れやしないんだ。あいつらのために働いているのに、たまの休みでゴロゴロしてりゃゴミでも見るみたいな目で見てきやがる。たまったもんじゃないぜ。なぁ、俺はいったい何のために働いてんだよ。お前の服や紅や靴は誰のおかげで身につけていられるもんなんだよ。俺が子供の頃なんざ……まぁ、いい。つまるところやってられんということだ。何が悲しくて、毎日疲労困憊した身を引き摺って冷え切った家庭の門をノックしなけりゃならんのだ。おい、地獄だよ地獄……。

 は? お前に家庭がないことなんか知ったことじゃない。それはお前の問題であって俺の問題じゃない。そんなもん普通に生きてりゃ当然にできるもんだろ。……思い出? あるにはある。何もないわけはない。しかしそんなものはもう関係ないんだよ。問題のベクトルがまったく違うんだ。お前のようなオナニー野郎には一生わかりやしないさ。愛だの恋だの……いいさ、お前には人間的な魅力なんざ何もない。生憎だが、いくら金を積まれたってお前と一緒に生活したいなんざ思わんさ。この俺でもな。俺は……もっとまともな生活に戻りたい。まともな人間と、まともな会話がしたかったさ。しかし、結局のところ、これ俺の行き着いた先っていう話なんだろうな。腐った生活を送る俺と、腐った性根で生きるお前。

 ハハハ、怒るなよ。お前のことだろうが。だからダメなんだぜ? なぁ、そんなに顔を真っ赤にさせるくらいなら普通になれよ。ほら、さぁ、ワン、ツー、スリー……。考えすぎだって。誰もお前のことをジェームス・ボンドだなんて思っていないんだからさ。かっこつけんなよ。おい、クズ。ゴミ。お前みたいなのを人間のカスって言うんだ。覚えたか? だったら性懲りもなくまともぶった人間の振りなんてしてねぇで狂っちまえ。ほら……そのナイフ一本で全部仕舞いにできるんだぜ?

 ほら、刺して見ろよ。お前の苦しみがすべてなんだろ? いまの苦しみがよ? なんだ、怖いのか? あらあら結局お前を刺すんかい……。なんだよ、何が怖いんだ? 震える必要なんてねぇよ。泥沼みてぇな涙流しやがって……気持ち悪い。お前の行動すべてが終わってんな。

 もういい、俺は勘定を数えるので忙しいんだよ。

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