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岩手県北の川の土手の上で酒を飲むホモガキ

風光明媚な東北の片田舎で生まれる癒しと酔いと極寒の思い出。

夜になると、どうも精神が病む。
ベッドで無理やり眠りに入ろうと苦慮するほどに失踪癖がじっくりと煮詰まっていくようで、終電に飛び乗ってどこかに逃亡したくなる。
どうやらここ数年の自分は家にいるとふさぎ込んでしまうようだ。

苦しい日は自分の財布を覗き込み、スマホで銀行口座の残高を確認する。
たくさんお金がある日は電車に飛び乗り、少しお金が余ってる日は宴が始まり、全くない日はTwitterと掲示板を巡回しながら夜を明かすのだ。

この日は少しお金がある真冬日。つまり宴の日である。
同居家族は母しかいないので、母が眠った頃合いを見計らって自室の窓からぴょいと飛び降りて外に出るのがいつものパターン。
玄関から出ると音でバレるから窓から出るのが安牌なのだ。

向かう先はまずコンビニ。
ド田舎なので、私が起きてる時間帯はたいていコンビニか牛丼屋しか開いてない。

>今日は明日が休みなんでコンビニで酒とつまみを買ってから滅多に人が来ない所なんで、 そこでしこたま酒を飲んでからやりはじめたんや。

この田舎で深夜営業や24時間営業の店なんぞコンビニと牛丼屋しかないのだ。しかもセブンイレブン不毛地帯の地域である。
今日選ぶべきコンビニは、ファミマかローソンかミニストップか。
行き先を考える段階から少しワクワクする。

とはいえ頻繁に深夜のコンビニでばかり買い物するのはお財布に優しくないんだよなぁ……
もし近場にローソン100やドンキがあったらどれだけ節約できたことか、とこの町から引っ越した後に時々考えることもあるのだった。

考えた末にこの日はファミマにした。
ワンチャンこの時間でもホットスナックとか売ってないかなーと淡い期待を寄せながらレジカウンターを見るがやっぱりない。悲しいなぁ……

昼夜逆転の民はね、いつもコンビニのホットスナックにありつけず、ATMの手数料が積み重なり、行きたい店は空いてなくて、やる事全部ががめちゃくちゃでなきゃいけないの。

『チェンソーマン』藤本タツキ著


暖かい食べ物は諦めて惣菜やお菓子を物色しつつお酒を選ぶ。
食欲と破滅衝動のままに体が冷えそうなものばかり買い物カゴに入れていくのだ。

かつて限界集落で軟禁生活を送っていた時期があったおかげで私は自由への喜びの感度が人の倍以上に高い。
そのおかげで「今いる場所は桃源郷だから自分の好きなように好きな行動を選べるのだ……」と喜びを噛み締めながら選ぶ酒とつまみは美味く感じるものだ。

ウキウキしながらコンビニで今日の晩酌デッキを構築する。

うーん……

今日のお酒はこれだ!

シードルと安いお酒に目が無いのです。

私、ニッカの青ラベルのシードルが大好きなんですよ。
たまにコンビニにニッカのシードルが置いてあっても、たいていピンクラベルの甘いやつしか置いてなくて悲しくなるんですよねw
なので好きな銘柄があるコンビニを覚えていって、路上飲みの回数を重ねるごとに自分好みの酒やつまみが置いてあるコンビニマップが脳内で洗練されていくのです。

今日の目的地は行き慣れた河川敷。
夜空が綺麗に見えて、草むらが風でそよそよ揺られていて、川のせせらぎが美しいのが好きで、いつもここの縁石に腰を置きながらちびちびと酒を飲んでいるのです。

宅飲みのパワーアップバージョンみたいなものですかね。
他人のことを気にせず一人で好きなように飲めるのが宅飲みで、この条件を満たしつつ更に全身で自然を感じられるのが河川敷飲みなのです。

売春で手に入れた金で酒に溺れるの気持ちええ〜!(最低)

自宅のベッドで寝ているとたくさんのつらい現実が脳裏を駆け巡っていくのですが、現実逃避の先の美しい自然の情景はいろんなことをかき消してくれます。

綺麗な月と星が私を歓迎してくれるような気がして、だらりんと腕と足を伸ばしながら河川敷に横たわるとじんわりとした多幸感と背徳感がやってくるのでそれと共に寝落ちするのがいつものパターン。

とても寒くて全身の肌が真っ赤になるけれど心は暖かくて、寒さで肌がジクジク痛みだすけど破滅衝動を目の前にするとそれすら快楽になってしまって。ただただ自由と逃避と自然に傾倒していくと心がシクシクと疼くような、疼きながら癒えていくような喜びに包まれながら縁石にずっと横たわるのです。

自然は現代人に癒しを与えてくれて、酒は幸せな鈍麻を与えてくれるので、この2つを組み合わせたら最強デッキ不可避ですね。

そして、星空を眺めながらたまにツイッターをいじっているといつの間にか睡魔がやってきます。

その時が来る前に、風にとばされないようにゴミが入ったビニール袋を手首にくくりつけるかリュックに入れておいて寝ている間にゴミが撒き散らされることがないように対策をしておきます。
それと飲み物は全部飲み切っておいて首や腰が痛くならないように体勢を整えたら眠る準備は完了!

体はちょっと痛いけど精神的にはすやすや眠れるのがなんとも肉体と精神の矛盾って感じがしますがまあそれは置いといてなんも考えずに寝ちゃいます。

そうして数時間くらい眠るとやってくるのが強烈な寒さ。

ウワー!
寒スギィ!体の震えが止まらないし皮膚が痛い!

春や秋の河川敷で寝ているとアラームは必要ありません。
朝になると強烈な寒さで叩き起こされます。
自然の強さにはなかなか打ち勝てず、寒さに耐えきれないので早朝にとぼとぼと家に帰るのです。

痛くなった腕を服の中や首に当てて温めながら震える体で自宅まで帰るのがいつものパターン。

また今日という日が始まるのか……。
でも自分へのご褒美にきれいな自然と好きなお酒と好きなおつまみを楽しめたのだから今日も家事頑張らなきゃね。

そんなことを思いながら東北の最果てに暮らしていた過去が私にもありました。
黒歴史でもありとてもワクワクした思い出です。
#ほろ酔い文学


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