資産所得倍増と実質金利

米欧の金融不安を背景に世界の金融市場が動揺している。そんな折、政府は14日に資産所得倍増に向けた関連法案を国会に提出した。金融教育を推進する組織の創設などを盛り込んだが、果たして資産所得は倍増できるのか。家計の資産所得を増やすためには何が必要か。それには物価と金利を見る目が欠かせない。

名目金利が実質金利に予想物価上昇率(予想インフレ率)を加えたものだということだ。物価が上がった結果として名目金利が上がった場合、分子の予想1株利益も物価上昇に伴って増えると考えるため、理論株価は変わらない。分母の実質金利が上がってはじめて理論株価が下がる。逆に実質金利が下がれば株価は上がる。

日銀によると22年末の家計の株式・投資信託の保有残高は285兆円と過去10年間で約1.7倍に増えた。実質金利との相関係数(四半期ベース)を算出したところ、10〜22年の間でマイナス0.59だった。実質金利が下がると株式投資が増えるといった逆相関の関係が確認された。家計の場合、預金金利の目減りを回避しようと株式投資に向かう面も大きい。

金融不安がさらに広がり世界的に景気が失速すれば、実質金利の低下以上に企業収益が悪化し、株価を下押しする要因となる。金融不安が景気や企業収益にどの程度の影響を与えるかは見極めが必要だ。政府は資産所得倍増プランの実現に向け、金融教育のほかに、金融機関への顧客本位の徹底、少額投資非課税制度(NISA)の拡充などを進める。ただ投資成果は市場環境に左右される面が大きい。金融教育を進めるのはそのためだが、市場不安定化の際にも実質金利という指標は投資の重要な道標(みちしるべ)の一つになりうる。

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