見出し画像

旅から遠く離れて - 2020年、5か月間で昭和の日本映画80作品以上を視聴した話

※2020年12月に書いた文章です。書き終えると公開する気が無くなってそのままほったらかしだったのですが、3年の時を経てようやく日の目を見ることになりました(笑)

海外旅行に出かけられなくなってからというもの、しばらくはYouTubeで旅動画を見る日々を過ごしていたのだが、夏の訪れとともにその興味を全く失った。

何かこれといったきっかけがあったわけではなく、コロナ騒動終息への道筋が見えない状況で旅に対する諦めの境地に至ったのか、あるいは単にその手の動画に飽きただけなのか、正直自分でもよくわからない。

そう遠くない何時か、ふいと、再び関心が湧いてくる確信はあるのだが、今はとにかくそんな気がさらさら起きないのだから仕方がない。そうかといって動画の類から完全に距離を置いたわけではなく、むしろその反動なのか、最近はこれもなぜだか古い邦画ばかりを好んで見るようになった。

動画配信サービスで洋画メインのNetflixを解約し、代わりにU-NEXTを契約。Amazonプライムで松竹やら東宝やら角川やらのチャンネルも登録した。

そうして、就寝前、早朝、移動中、外出先といった具合に、時間も場所もお構いなしに動画アプリを開いていた結果、数えてみると視聴した作品は5か月間で80を超えていた。

単純計算すれば週に3~4本は何かしらの邦画を見ていたことになるわけで、映画に対してこんなにもまとまった時間を割くのは学生の時以来だ。

特に、酷暑とコロナの感染ピークで家に篭りきりだった8月は松竹映画ばかりを続けざまに視聴。オープニングで登場する雪を被った富士山(ある日は白黒、ある日はカラー)を連日のように目にしていたため、そろそろ夢に出てきてもおかしくないんじゃないかという気さえした。

80数本のうち、これまで未見だった作品はおそらく30本程度。年と共に記憶が不鮮明になっているせいか、初めてだと思っていた作品が途中で「ああ、これは前に見たやつだ」というパターンもあれば、2度目だと思っていたものがエンドロールまで見終えても全く覚えが無かったというパターンもあって、結局、実際のところ何本が初見だったのか正確なところはわからない。情けない話だが・・・。

まあ初見であろうとなかろうと、いずれにしても細かなところは不確かだし、新たな発見もそこかしこにあったりで、作品が優れている限り毎度楽しい時間を過ごすことができる。また、以前見た古い作品がデジタルリマスターされているとずいぶん印象も異なって、これもまた一興だった。

画像2
東京暮色(1957)より 有馬稲子

例えば、小津安二郎の「東京暮色」では原節子らがマスク姿で登場する。また、溝口健二の「赤線地帯」では、『今ねえ、質の良くない風邪が流行ってんだって。気を付けなくちゃダメだよ』なんていうセリフも。いずれも、撮影当時「アジアかぜ」が世界的に大流行していたことによるものだが、今と同じような状況に親近感が湧いた。

こんな風に、今まではさして気にも留めなかったシーンが急に特別な意味を持ってくることだってある。

また記憶が薄らいでいくといけないので、備忘録も兼ねて7月以降に見た作品のタイトルと視聴時点での個人的評価を載せておく。★は1点、☆は0.5点、5つ星が満点。公開年順。

突貫小僧(1929) ★★★
東京の宿(1935) ★★★☆
按摩と女(1938) ★★★☆
父ありき(1942) ★★★★
七つの顔(1946)  ★★★★
長屋紳士録(1947)  ★★★★
野良犬(1949) ★★★★☆
晩春(1949) ★★★★☆
麦秋(1951) ★★★★☆
稲妻(1952) ★★★★☆
雨月物語(1953) ★★★★
あに・いもうと(1953) ★★★★
祇園囃子(1953) ★★★★☆
伊豆の踊子(1954) ★★★☆
銀座二十四帖(1955) ★★★★
早春(1956) ★★★★
赤線地帯(1956) ★★★★☆
洲崎パラダイス赤信号(1956) ★★★★☆ 
東京暮色(1957) ★★★★☆
青空娘(1957) ★★★☆
顔(1957) ★★★☆
幕末太陽傳(1957) ★★★★
張込み(1958) ★★★★☆
点と線(1958) ★★★★
眼の壁(1958) ★★★★
浮草(1959) ★★★★
野獣死すべし(1959) ★★★
黒線地帯(1960) ★★★★
女経(1960)  ★★★☆
大いなる驀進(1960) ★★★★
黒い画集 あるサラリーマンの証言(1960) ★★★★
用心棒(1961) ★★★★☆
霧と影(1961) ★★★
かげろう侍(1961)  ★★★★
ゼロの焦点(1961) ★★★★
釈迦(1961) ★★★★
妻は告白する(1961) ★★☆
切腹(1962)  ★★★★★
嫉妬(1962) ★★★
誇り高き挑戦(1962) ★★★☆
宿無し犬(1964) ★★★☆
昨日消えた男(1964) ★★★☆ 
乾いた花(1964) ★★★
乱れる(1964) ★★★★
御金蔵破り(1964) ★★★
飢餓海峡(1965) ★★★★
霧の旗(1965) ★★★★
悦楽(1965) ★★☆
眠狂四郎 無頼剣(1966) ★★★
喜劇急行列車(1967) ★★★
ある殺し屋(1967) ★★★
家族(1970) ★★★☆
影の車(1970) ★★★
内海の輪(1971) ★★
遊び(1971) ★★★
黒の奔流(1972) ★★☆
木枯し紋次郎(1972) ★★★☆
旅の重さ(1972) ★★★☆
日本沈没(1973) ★★★
必殺仕掛人 梅安蟻地獄(1973) ★★★
津軽じょんがら節(1973) ★★★★
野獣狩り(1973) ★★
砂の器(1974) ★★★★☆
実録三億円事件 時効成立(1975) ★★★
犬神家の一族(1976) ★★★★
獄門島(1977) ★★★☆
悪魔の手毬唄(1977) ★★★☆
幸福の黄色いハンカチ(1977) ★★★☆
事件(1978) ★★★★
女王蜂(1978) ★★★
皇帝のいない八月(1978) ★★☆
白昼の死角(1979) ★★☆
配達されない三通の手紙(1979) ★★★ 
病院坂の首縊りの家(1979) ★★★
復讐するは我にあり(1979) ★★★★☆
蘇える金狼(1979) ★★★☆
野獣死すべし(1980) ★★★
この子の七つのお祝いに(1982) ★★☆
疑惑(1982) ★★★★☆
天城越え(1983) ★★★
さびしんぼう(1985) ★★★

この中では「切腹」、「祇園囃子」、「張込み」、「用心棒」、「東京暮色」が個人的ベスト5。ただ、いずれもこれまでに何度か見たことがある作品で、初見(おそらく)ということに限定すれば、「霧の旗」、「大いなる驀進」、「津軽じょんがら節」、「七つの顔」あたりが見ごたえがあった。

そろそろ年も暮れようとしているのに自由に海外に行ける日はまだ先になりそうだ。しばらくの間は、昭和日本映画の深い沼の中にどっぷりと浸って長い夜を過ごすしかない。

それにも飽きたころ、「コロナ終息」の嬉しいニュースが飛び込んでくれば、今度こそはきっと旅動画の出番だろうなとぼんやり考えている。

画像2
乾いた花(1964)より 加賀まりこ


この記事が参加している募集

おすすめ名作映画

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?