潜水艦の最期(ショートショート)
それは実に呆気ない、しかし、致命的な3分間だった。
その潜水艦は沈没の過程にあった。
浮力を司る装置が故障したのだ。
彼女は職業的な勘をもって、自分が助からないことを悟った。
故障から水圧による大破までの3分間、彼女は夫と娘にボイスメッセージを残した。
「潜水艦が沈没していて、私は助かる見込みがないみたい。今まで私を愛してくれてありがとう。私もあなたたちのことを愛しているわ。昔からの夢だった潜水士になれて、大切な家族を持つことができて、私は幸せだった。ありがとう。さようなら。」
そのメッセージは確かに録音された。
しかし、誰にも届くことはなかった。夫も娘もそのメッセージを聴くことはなかった。
なぜなら、3分後に全ては破壊されたからだ。
水圧は容赦なく破壊した。
潜水艦も彼女も、彼女の想いも全てを。
深い深い海の底、闇へと呑み込まれた。
夫と娘は泣いた。
彼らの涙は彼女には届かない。
彼女の叫びも彼らには届かない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?