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Withコロナ時代のアジアビジネス入門⑧「インドでスズキが成功しトヨタが失敗した理由」@ONLINE講座インド編(2)

 中国一辺倒の投資をもう一つのアジアの巨大市場インドにシフトすべきなのか。そのリスク分散のメリットとは何なのか。昔から伝わるインド・ビジネスの心構え、<5つの「あ」>とはどういうことか。

 毎日アジアビジネス研究所は「Withコロナ時代のアジアビジネス入門ONLINE講座」を開設しました。中国編に続く、シリーズ第2弾「荒木英仁のインド・ビジネス<デリーからの最新報告>(2)巨大市場に挑め!インド進出は今でしょ?」を6月5日に開催しました。
 中間所得層の台頭 R&D(研究開発)拠点
 冒頭、荒木氏は「インドは13億7千万市場で(購買意欲のある)中間所得層が台頭していることが最大の魅力」と指摘。世帯所得分布の変化として、中間所得数(年収25万円~100万円)が2000年の4%から2018年には53・5%へと50㌽も増加していると説明しました。中間所得層は概ね7億人にのぼります。インド進出のメリットとして、外資企業が参入しやすい法整備や法人設立プロセスのオンラインによる簡素化をあげています。
 さらに、荒木氏はGoogle、Microsoft、Adobe、IBM、NOKIAなど世界の名だたるIT企業のCEOがインド出身者で占め、ITに強いグローバル戦略にたけた人材が多く、インド以西の中東からアフリカにかけて強力なインドネットワーク(印僑)があると言及。同時に、インドIT業界は20兆円規模で、ITエンジニアの数は212万人にのぼり、世界の並みいるトップ企業がグローバル戦略商品開発のR&D(研究開発)拠点をインドに置いていると指摘しています。
 成功例のスズキ、ホンダ、ユニ・チャーム
日本からスズキ、キャノン、パナソニック、ソニー、NEC、楽天などがインドに進出し、人件費と工場用土地取得費用・電気代が安いなどのメリットをあげています。ただ、2018年度末時点で、インド進出の日系企業は1441社で中国に比べてまだ少ないのが現状です。
 荒木氏によると、インドのGDPの24%を製造業が占め、このうち50%が自動車関連です。スズキ、トヨタ、ホンダなど日系企業の高い品質、コスト効率に応えるべく、インドの製造業の多くは「改善」「ジャスト・イン・タイム」といった日本式の工場運営法を取り入れ改善されてきました。日系企業の成功例として、スズキ、ホンダ、ユニ・チャームを、注目企業として良品計画(MUJI)、ユニクロ、壱番屋(カレー)をあげています。
 インド進出の心構えとして「当初は現地企業との合弁が望ましい」と指摘。カントリーマネージャ(インド現地法人責任者)は欧米市場(英語圏)の海外経験者を推奨し最低5年のコミットメントが必要であると述べました。
 最後に、昔から伝わるインド・ビジネスの心構え、<5つの「あ」>について「あせらない、あわてない、あてにしない、あきらめない、あなどらない!」と語りました。
 日本ブラントが通用しない市場 トヨタの失敗
 ONLINE講座で、参加者から次の質問がありました。
――なぜ、世界のIT企業のトップにインド出身者が多いのでしょうか?
 「日本人と比べて、インド人には移民文化の歴史がある。英語が公用語ということも大きい。最近、インド工科大学(IIT)は米マサチューセッツ工科大学(MIT)よりもレベルが高いと言われます。そうした学生が世界に進出して活躍しているといえるかもしれません」
 ――なぜ、インド市場でスズキは成功し、トヨタは失敗したのでしょうか?
 「スズキはシェア5割のナショナルブランドです。鈴木修会長が社長当時に独断でインド進出を決め、1980年代初めにインド政府と合弁でスタートし、40年にわたって現地のニーズに応えて成長してきた。ディラー数が圧倒的に多く、これは販売ルートのみならず、壊れた時に直すことができるアフターケアの強みにもなり、そのままシェア格差になっています。トヨタは商品戦略に失敗している。ミニバンのイノーバ以外は出す車、出す車があたっていない。マーケティングに基づいているとは思うが、インド人のニーズや値段設定をきちんととらえていないのではないか」
 ――インドは参入障壁が高そうですが、一度越せば、現地化はスムーズにいくのでしょうか?
 「インドはアジアの一部ではないと見た方がいいです。インドは、中国や東南アジアのように、日本を見ていないし、日本へのあこがれも少ない。特にインドの若者は日本ブランドやJポップに興味はない。そう考えて進出を考えた方がいい。しかし、インド人はつきあうとウェットだったりする。最初は入りにくいが、コミュニケーションをとれれば、浪花節的に組みやすいところもある」
 セブン・イレブンの進出 モダン・リテールの可能性
 ――インドの小売市場は旧態依然とした家族経営の小売店が多いといわれます。セブン・イレブンがインドに進出するということですが、流通に変革をもたらし、成功する可能性はありますか?
「(インド西部)マハーラーシュトラ州の州都ムンバイに進出するようです。地元のリテール企業と組んでのスタートです。コンビニはここ数年広がっており、インドでもきれいに陳列するのは好まれます。モダン・リテールの展開は可能性があると思います」

◇  ◇  ◇ 
ONLINE講座シリーズ2「荒木英仁のインド・ビジネス<デリーからの最新報告>」は引き続き開催します。
(3)6月12日(金)19:00~20:30
「インドのEコマース――もうひとつの魅力ある巨大市場」

もし、インド・ビジネスにご関心があれば、お申し込みください。

■荒木英仁(あらき・ひでひと)毎日アジアビジネス研究所シニアフェロー/インドビジネス・コンサルタント
 長年、大手広告代理店「アサツー・ディ・ケイ」の海外事業に従事し、2005年から9年間、同社インド法人社長。2014年春ニューデリー郊外の新興都市グルガオンにて「Casa Blanka Consulting」社を設立、日本企業との提携を求めるインド企業を支援。 また、同年監査法人「Udyen Jain & Associates」と業務提携し、日本企業のインド進出や現地でのコンプライアンスを支援。インド最大手私銀「ICICI Bank」のアドバイザーや、JETROの「中小企業海外展開現地支援プラットフォーム」コーディネーターも務める在印15年強のインド通。

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