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Withコロナ時代のアジアビジネス入門⑮「ベトナムの若者層失業と人材活用」@ONLINE講座ベトナム編(3)

  ベトナムの高度人材とはどういうものなのか。大学教育の現状と課題はどうなのか。日越両国政府の協力事業として開設された日越大学は何を目指しているのか。

 毎日アジアビジネス研究所は(YouTube→)「Withコロナ時代のアジアビジネス入門ONLINE講座」を開設しました。中国編、インド編に続く、シリーズ第3弾「古田元夫のベトナム・ビジネス(3)「ベトナムの高度人材とは?アジア屈指津の人材育成を目指す日越大学」を7月3日に開催しました。
大学卒業者の失業率の高さ
 古田氏は「中進国の罠」からの離脱に不可欠な高度人材としてベトナム政府が掲げる①専門教育、高等教育を受けた勤労者の割合を70%にする②国際水準の職業訓練校を10校③国際水準の一流大学を4校――の人材育成戦略(2011~2020年)を説明しました。ベトナムの高等教育(大学、短期大学を含む)進学率は2000年の10%から急上昇し、現在は30%前後になっています。その理由について賃金が大学卒と高卒で1・5倍、大学卒と中卒で2倍の格差があり、社会的上昇手段として日本よりも学歴が重視されることをあげています。
 一方で、古田氏は若年層の失業が深刻化していることを指摘しています。全体の失業率は2%程度ですが、20代前半は失業者が30万人(7%)と多く、大学卒業者が20万人前後と特に多くなっています。この背景について、かつてのソ連型高等教育の伝統により狭い専門性重視の単科大学が多く、それが市場経済に移行する中で専攻と就職先がマッチしないなど機能不全に陥ったことや海外への出稼ぎをあげています。
大手企業FPTやVINグループの私立大学が出現
 ベトナムの大学教育の課題として、古田氏は代表的な国家大学ハノイ校でさえアジアで124位と地位が低く、かつての教育と研究を分離していた後遺症が影響していると説明しています。また、最近、大手情報企業のFPTグループ、不動産などのVINグループといった企業をバックにした資金力のある私立大学が出現したことに言及しました。
 古田氏が学長を務める日越大学については、日越両国の友好議連が2013年に両政府に対して日越国交樹立40周年記念事業として大学創設を提言、2014年に両政府間協力事業となり、2016年9月に国家大学ハノイ校の公立大学として修士課程6プログラム(現8プログラム)でスタート、今年9月には学部(日本学プログラム)を開設する経緯をたどっています。現在がJICAが技術協力で支援しています。
「アジアのハーバード」目指す日越大学
第1期生60人(博士進学11人、就職43人=うち日系企業12人)、第2期生82人(博士8人、就職55人=日系12人)、第3期生はミャンマー、ナイジェリア各1人の留学生を含む80人、第4期生は8カ国からの留学生13人を含む87人になっています。日越大学は創設に深く関わった武部勤・元日越友好議連会長(現・特別顧問)は「アジアのハーバード大学を目指す」と目標を掲げ、サスティナビリティ分野の研究大学であるとともに、リベラルアーツを重視して将来のベトナム、アジアのリーダー人材の育成に力を入れています。
■第3回ベトナム・ビジネス講座では参加者から次の質問がありました。
 ――ベトナムの若者で海外に留学する割合はどの程度いるのでしょうか。海外に留学してベトナムに帰国する数は多いのでしょうか。
 「海外留学する若者の数は18万人程度います。そのうち、日本への留学は日本語学校も含みますので約8万人いますので日本は吸引力のある国といえます。日本以外では米国、オーストラリア、そして韓国もかなりの数にのぼります。全体の傾向としては日本など海外に留学しても数年後にベトナムに戻る比率は高いといわれています。一方的な頭脳流出ではないといえるでしょう」
 ――ベトナムでは社会的上昇手段として英語力(TOEICなど)など語学に対する資格の有無はどうなのでしょうか。
「大学院の入学や就職にも大きく影響します。TOFELなど国際認定試験のスコアがある程度ないと入れない仕組みになっています。英語力の平均水準は若い人ほど高く、日本よりも語学の資格には熱心だと思います」
 ――ベトナムの大手企業体であるFPTグループやVINグループが支援する私立大学は次世代のリーダー育成のほかにどのような意味があるのでしょうか。
 「大手情報企業であるFPTグループの大学は同グループに就職もできます。ベトナムの情報産業を牽引する同グループの発展はベトナムの情報インフラ基盤の整備にもつながります。同グループのモデルは大学と企業が実戦的に密着していますが、今後、企業などの資金力をバックにした私立大学でもいろいろは形がでてくると思います」

ベトナム人管理職登用で「孤島」から現地化へ
 ――日越大学はリベラルアーツを標榜しているということですが、ベトナムの社会ではそのコンセプトは理解されているのでしょうか。
 「日本と同じようにベトナムでリベラルアーツを重視すべきとの議論であって、例えば、東京大学の教養学部のような仕組みをつくろうと言う動きはあった。しかし、リベラルアーツをベトナム語で訳すると『大項目主義』となり、マルクス・レーニン主義とかホーチミン思想というイメージがつきまとい必ずしも印象は良くはなかった。21世紀に入ってから、『開放』、英知を開くという意味で使われるようになり、リベラルアーツは理解される流れになっています」
 ――日系企業がベトナム人を管理職に使う傾向もみられるということですが、これまではとかく秘書とかアシスタントとか権限を与えない立場に置いていたのに、変化がでてきたということでしょうか。
 「日本の進出企業がベトナムの市場でビジネスをどう位置づけるかによって変わってくると思います。ベトナム人が嗜好する商品を現地の市場で売り込もうという場合はアシスタントにしておくだけでは限界があり、(管理職として)責任を持ってもらうことが必要です。日系企業がベトナム社会の中で『孤島』である立ち位置から、現地に溶け込むようにしたいものです。日越大学はそこにも関与できるように努力して参ります」

■講師 古田元夫(ふるた・もとお)
 日越大学(ハノイ)学長、東京大名誉教授、毎日アジアビジネス研究所シニアフェロー

 東京大学でベトナム現代史を研究し、95年に東大教養学部教授。2001-03年総合文化研究科長・教養学部長、2004-05年副学長、2009年東京大学附属図書館長。2015年定年退職、東大名誉教授。16年にハノイで設立された日越大学初代学長に就任する。日本ベトナム友好協会会長。著書は「増補新装版 ベトナムの世界史: 中華世界から東南アジア世界へ 」(UPコレクション、東京大学出版会)、「ベトナムの基礎知識」(めこん)など多数。


■毎日アジアビジネス入門ONLINE講座シリーズ4
「陳言と及川正也の対論『米中関係とビジネス』」
▽第1回 7月10日(金)19:00~20:30(日本時間)
 
「米大統領選挙と米中関係」
https://peatix.com/event/1534702/view
▽第2回 7月17日(金)19:00~20:30(日本時間)
「グローバルサプライチェーンと米中関係」

https://peatix.com/event/1534737/view
▽第3回 7月31日(金)19:00~20:30(日本時間)
「日本と米中関係」

https://peatix.com/event/1534764/view

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