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Withコロナ時代のアジアビジネス入門⑬「ベトナムで外資部門は<離れ小島>の存在」@ONLINE講座ベトナム編(2)

 中国からベトナムへのサプライチェーンの移転はどうなっているのか。日越関係に中国ファクターはどう影響しているのか。外資参入の実態はどうか。外資を受け入れる裾野産業の育成の課題とは何なのか。

 毎日アジアビジネス研究所はYouTube→)「Withコロナ時代のアジアビジネス入門ONLINE講座」を開設しました。中国編、インド編に続く、シリーズ第3弾「古田元夫のベトナム・ビジネス(2)「中国から生産拠点移転へ 外資参入と裾野産業の育成」を6月26日に開催しました。
日本とのパートナーシップは特別扱い
 冒頭、古田氏は日本企業のベトナムへの関心の拡大について「安価な労働力」から2010年以降は「中国プラス1」となり現在は米中貿易摩擦を懸念してサプライチェーンの変更が理由になっていると説明しました。日越関係に影響を与える中国ファクターとして2010年以降、中国の東シナ海、南シナ海の海洋進出で日越両国の戦略的利害関係が深化したことをあげています。実は2006年にベトナムは日本との間で中国よりも早く「戦略的パートナーシップをめざす合意」を締結しています。古田氏が「ベトナムは古い友人でもある中国に配慮し、日本とは戦略的パートナーシップ『をめざす』という表現にとどめました」と指摘するように、2008年に中国と戦略的パートナーシップを結び、翌2009年に日本と正式に戦略的パートナーシップを締結しています。ただし、ベトナムは同じ社会主義国で古い友人であるロシアや中国、そして米国をcomprehensive partnership(包括的な戦略パートナーシップ)としているのに対し、日本を安全保障も含めたextensive partnership(広範囲にわたる戦略パートナーシップ)として特別扱いしています。古田氏は「パートナーシップを締結することは逆に警戒感があることも意味する。中国は安全保障上で、米国は人権問題で警戒感があるのに対し、日本は警戒感の少ない国ということが言える」と語っています。
外資部門の投資効率の低さ
 次に、古田氏は「中国は社会主義市場経済を目指すと明確にしているのに対し、ベトナムは社会主義志向市場経済を標榜すると、社会主義と市場経済の間に『志向』を入れて若干ニュアンスが違っている」と述べたうえで、ベトナムの経済成長と外資参入について説明しました。
古田氏によると、ベトナムの国民一人あたりのGDPについて1998年の98ドルから2019年は2700ドルに増加したものの、ASEAN諸国との比較ではシンガポール、ブルネイ、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピンよりも低い水準です。GDPの産業別構成比では農林水産業14%、鉱工業34.5%、サービス業41.6%となっており、工業化が成熟する以前にサービス業が優位になっていると指摘しています。
 特に、GDPに占める2011年~15年の各経済セクターの比率は国家(国有企業)32.15%、民間 48.17%、外資19.68%となっており、各セクターの成長率は国家4.6%、民間 5 %、外資 10.41%と外資が高い伸び率を示しています。ところが、1996年~2015年の平均の資効率は国家2.44 %、民間5.54 %、外資2.4 %と外資は投資効果が低い数値になっています。
中国からのサプライチェーン移転 裾野産業に遅れ
 サプライチェーンの再編について、日本企業の調達先の変更(JETRO調査)は、中国からベトナムへは22.4%となり、次いで中国からタイへは8.2%で続いています。しかし、受け入れるベトナムの裾野産業の形成が遅れ、日系進出企業のベトナムにおける現地調達率は32.1%で、中国64.1%、タイ55.5%、インドネシア40.5%(以上、JETRO2015年)に比べて低くなっています。
 古田氏はベトナムへの代表的な外資の進出企業として韓国のサムスン電子ベトナムが最新鋭機種のスマホ生産を集中し、約16万人を雇用していることなどを言及しました。一方で、中進国の罠として、国民経済から遊離した外資部門などの課題を指摘しています。最後に、ベトナム政府が力を入れるハノイ西部のホアラク・ハイテクパークを例にあげて交通手段の整備の遅れなど建設遅延の原因とともに、ベトナムの最大手不動産デベロッパーVin Group(ビン・グループ)が大型投資を決定するなど明るい兆しもあると話しました。

■第2回ベトナム・ビジネス講座では参加者から次の質問がありました。
 ――国有企業の民営化が停滞している理由は何でしょうか。今後、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に米国も参加した場合、TPP交渉に影響はでないのでしょうか。
 「国有企業の民営化はベトナム政府の計画からみても遅れている。官庁や幹部の利権が絡む分野なのでなかなか進まないようです。TPPなど国際的な交渉で障害にならないようにしなければいけないとの意見もある。しかし、ベトナム共産党が国有企業が(産業構成の)要であると位置づけ、党内の一部から批判も出ているが、理論的に踏ん切りがついていない」
外資は<離れ小島>の存在 土地使用などで余計な出費も
 ――外資部門の投資効率が低い要因は何でしょうか。
「外資が入っている部門が国民生活とインテグレート(統合)されていないように思えます。ベトナムという土地にはあるが、<離れ小島>のような存在として展開されているので無駄が多いのではないかと。ですから、じゅうぶんな投資効果があげられていない。しかも、ベトナムへの期待の高さから次々の外資が参入してくる。それが投資効率で分析してみるとあまり高くないということではないでしょうか」
 ――外資の効率の低さはベトナム側が優遇措置で税収が目減りするためなのか、それとも単に外資側の努力が足りないためなのか、補足説明をお願いします。
 「ベトナムでまともに税金を払っているのは外国人と外資企業ではないかと言われることがあります。余計な出費を迫られることが投資効率の低さにつながっている面もある。ベトナムの土地は全人民所有で実質的に国が所有し、個人や企業は地上権が使えることになっている。しかし、この全人民所有がくせもので、ある土地をめぐり中央政府、地方政府の各レベルが管轄権の根拠を示し、あらゆるレベルに(個人や企業が)支払いをしなければ使用できないことがたびたびある。これらが投資効果の低さにつながっている可能性があります」
 ――中国からベトナムへのサプライチェーンの移転はどのような分野が特徴的ですか。具体的にどのような企業ですか。
 「一般的には付加価値のあまり高くない汎用品の生産拠点としての移転が特徴です。しかし、任天堂が家庭用ゲーム機の生産拠点を移し、京セラが対米向けのコピー機、ユニクロがアパレル製品をそれぞれ移転させています。まさに、アパレルから電子製品まで、高付加価値な製品にもサプライチェーンの変化が出ています」

【アジアビジネス入門シリーズ3「古田元夫のベトナム・ビジネス」】 
▽第3回 7月3日(金)19:00~20:30
「ベトナムの高度人材とは?アジア屈指の人材育成目指す日越大学」

https://viet-biz3.peatix.com/view

■講師 古田元夫(ふるた・もとお)
 日越大学(ハノイ)学長、東京大名誉教授、毎日アジアビジネス研究所シニアフェロー

 東京大学でベトナム現代史を研究し、95年に東大教養学部教授。2001-03年総合文化研究科長・教養学部長、2004-05年副学長、2009年東京大学附属図書館長。2015年定年退職、東大名誉教授。16年にハノイで設立された日越大学初代学長に就任する。日本ベトナム友好協会会長。著書は「増補新装版 ベトナムの世界史: 中華世界から東南アジア世界へ 」(UPコレクション、東京大学出版会)など多数。

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