コラム:陳言の中国「創新経済」 中関村ではスタートアップ企業はファンドで保証されている

筆者の経済、経営に関する知識から言って、現在までの世界発展史上、今日の中国のように熱気にあふれたスタートアップ(創業)、イノベーション(創新)のブームが起きたことはないと思う。「大衆創業、万衆創新」のスローガンは2014年から叫ばれ始めたが、それ以後、ほぼ毎日1万社の企業が中国で立ち上げられている。中国では年間新雇用1000万人を目標としているが、2017、18年の状況をちょっと見ると、10月にはこの目標に達している。この2年の経済成長は確かに下降したが、スタートアップ、イノベーションの足並みはともにまだ停滞せず、加速度的に増大しているとさえ言える。

多くの場合、淘宝網(ダオバオサイト)に店舗を1軒出したり、あるいは1台の電気自動車(EV)を買ったり、数軒のレストランに料理を届ける小さい会社を開業したりすることは、1人でできるし、何の技術的な蓄積も必要ないことだと思われている。しかし、実際にやるとなると、おそらく、状況はそれほど簡単ではなく、大量の企業が雨後の筍のように出現した後、スタートアップ企業が今日の中国で急速に発展する新しいチャンスが待っている。

スタートアップ企業の資金はどこから?

資金不足、特に起業したばかりの企業に対して、銀行は融資をしない。中国のスタートアップ企業、イノベーション企業の資金は、主に自己資金あるいは親戚や友人知人からの借金で賄われている。ここに潜むリスクは大きく、血縁、地縁関係がひときわ重要な中国では、ひとたびこれを失うと、生きてはいけるが、糸が切れた凧のようなもので、その後、二度と再び飛び上がれない。

一方、ただ真剣に取り組みさえすれば、投資を手に入れるのはさほど困難ではない。

次のようなデータがある。2000年の人民元発行量は13兆元(約208兆円)、09年60兆、12年97兆、16年151兆に増え、18年は1-6月に既に177兆元(約2800兆円)発行した。十分な通貨供給は、市場の通貨需要を保証している。次のように言うことができる。超過発行された通貨の一部分は不動産に吸収され、さらに多くのスタートアップ企業、イノベーション企業に投入されている。これがスタートアップに通貨の面から与えられている保証である。

政府と企業の手元には大量の資本があり、出口を探し当てる必要がある。北京・中関村には、中関村管理委員会とファンド会社が共同で設立した投資企業—-大河創投公司があり、ここには300億元(約4兆8000億円)の資金がある。

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中関村信用プラットフォーム

パートナーの一人の王童氏とそのチームは毎年4000件前後のプロジェクトを見て、その中から400件程度を選び、王氏がみずから企業側と話し合って、技術的見通し、スタッフの経営的な資質などいくつかの角度から企業に対する考察を行う。その後、投資するか否かを決定する。この2年の間に、大河創投の投資プロジェクトは約40件である。

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大河創投のパートナー。座っているのが王童氏

「多くの場合、その企業の創業者と会って、数分話すだけで、その企業に将来性がどれほどあるか、心の中から、ある種の感覚が沸いてくるものだ」と王氏。それは動物的な勘とも言え、獲物を補殺する猟師のような特殊能力でもある。王氏自身は以前2社を米国に送り込み、上場に成功しているだけに、このような感覚が当たらないとは言えない。

投資の各段階に異なる専門企業

王氏の主な精力は新しい投資対象を探すことに注がれ、取り分け起業したばかりで、特に資金が必要な企業をターゲットにしている。

「この段階の企業は資金需要が特に急迫していますが、需要量はさほど大きくありません。スタートアップ企業は新技術を持っていますが、どのように市場と結びつけるのかを知らず、また、その技術が部分的であり、強力な人物の協力が必要なことも知らないケースが多いですね」と言う。彼は毎日、投資プロジェクトに目を通し、関連スタッフと接触して、技術的な面のみならず、市場開発の専門家もたくさん知っている。企業のために資金を提供すると同時に、技術、市場方面に詳しい人材をタイムリーに紹介する面でも、相談に乗っているが、多くの場合、資金調達と同様の重要性がある。

企業がある程度の成果を上げ、かなり見通しが良くなり、投資拡大が必要になり、早急に市場シェアを拡大したいと思う時期なると、王氏は引き時を考え始めるようだ。企業の拡大、強化、企業の上場戦略は他のパートナーあるいは他社に委ねる。撤退する時、大河創投は投入した資金を回収し、それに見合う見返りを得る。

中関村には、大河創投のみならず、このコラムで紹介したガレージカフェはじめ、スターチアップ企業に資金提供の面で協力する組織は数多くあり、資金を手に入れるチャンスには恵まれている。

スタートアップ企業の信用度とブラックリスト

中関村で、投資する企業、投資を受ける企業は、どちらも中関村企業信用促進会が立ち上げた「企業信用サービスプラットフォーム」を訪れる。2018年12月現在、中関村に入居しているスタートアップ企業は7724社あり、プラットフォームの最重要なミッションは企業の信用調査であり、各種の調査結果を公表している。ある企業が信じられるかどうか知りたければ、このプラットフォームをちょっと見れば、何点程度かを知ることができる。

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大河創投のパートナーたち

信用を失った企業のブラックリストはサービスプラットフォームのトップページに掲げられている。リストを開けば、どの企業が信用を失ったかを知ることができる。ひとたびブラックリストに名前が載ると、中関村でぶらぶら生きていくことは大変難しい。考えられる結果は、企業を閉鎖して、創業者は新たなチャンスを探すしかない。

起業に失敗した人とは付き合わないのか?王氏は筆者のこの質問に、平然と笑いながら次のように答えた。「一度で成功する起業家はいませんよ。普通は2、3回失敗してやっと企業はどうあるべきかを知ります。4、5回の失敗を経た人が成功する確率は始めたばかりの人に比べてずっと高いですよ」。

中関村では信用面のブラックリストに名前が載っても、白い目で見られることはなさそうだ。国家資金に余裕があり、スタートアップ企業に対する人気が高い社会では、企業信用調査は非常に厳格だが、信用を失った企業は、技術が成熟していなかったり、あるいは市場とタイミングが合わなかったりしたことが原因かもしれないが、そのような企業は退場しなければならない。その半面、スタートアップに失敗した創業者に対して、中関村は喜んで受け入れ、新しいチャンスを提供する。中関村はあるいは中国社会全体が起業家に寛容なので、スタートアップ企業が次から次へと出現しているのかも知れない。

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陳言 

ジャーナリスト、日本企業(中国)研究院執行院長

1960年、北京生まれ。1982年、南京大学卒。82-89年『経済日報』に勤務。89-99年、東京大学(ジャーナリズム)、慶応大学(経済学)に留学。99-2003年萩国際大学教授。03-10年経済日報月刊『経済』主筆。10年から日本企業(中国)研究院執行院長。



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