コラム 陳言の熱風コラム 中国の「創新経済」 二次元コードスキャナーの「意鋭新創」は無敵! 「鬼に金棒」―アリペイ、ウィーチャットペイが支持

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バーコード、二次元コードの技術自体のハードルは決して高くなく、決済に二次元コードを導入したことは技術革新には数えられていない。しかし、一つの国で、毎日、数億人の消費者が二次元コードで支払い、もしその国で新たに開業するレストラン、小売り店にレジスターがなく、店内には携帯電話より少しだけ厚みがあり、かなり小さい二次元コードのスキャン用端末があるとすれば、この変化は全ビジネスシステム、金融業界に対する一大革新である。

中国の創新経済にはどのような特徴があり、どのような条件下で発揮されるのか?二次元コードのスキャン技術の普及過程を振り返って分析を加えてみたい。

創業者・王越氏、日本で二次元コードを知る

王越氏は1976年生まれで、99年に黒龍江大学を卒業した。

90年代に、彼は日本に行き、ある期間働き、当時の中国の大部分の人が一生かかってやっと手に入れる給料を稼ぎ出すことができた。日本に滞在していた時、倉庫管理の仕事中に、二次元コードに巡り合い、直ぐに使い方を覚えた。

90年代、中国の若者たちが日本へ行ったとすれば、彼らの大部分は日本から中国に慌てて帰ろうとはしなかった。日本の方が仕事は安定しているし、給料は高く、同時に、日本にいれば先端技術を比較的多く知ることができ、これらの技術を習得できたからだ。

王氏は日本で二次元コードに触れたほかに、電子機器の組み立てを担当し、その後、製品の研究開発にも加わった。難しい問題にぶつかり、自分で解決できない時には、中国国内の友人で探し、それで不十分であれば、友人の友人を通じて関連の専門家を探して解決して来た。このようにいろいろやっているうちに、彼の研究開発は企業内で単純に一生懸命に働いていた同僚よりも、成績はかなり良かった。彼が他の中国の若者と違っていたのは、日本である程度の期間働いてから帰国し、しかも故郷の東北地方には戻らず、直接北京にやって来たことだ。

2002年7月、王氏は北京意鋭新創科技有限公司を設立した。彼は日本の倉庫で商品分別時に使用していた二次元コードを決済に使う方法を考えていた。何年も考えた末に、この研究開発に成功し、そのうえ中国の大きな市場が待ち受けていた。

技術開発に没頭し、給料未払いの苦悩も

実は、モバイル決済は2014年になってやっと普及し始めたばかりで、王氏は02年から十数年間、黙々と二次元コード技術の開発に没頭し、スキャン端末を生産していたが、いつも給料未払いに苦悩するばかりで、喜びを感じられる時間は多くはなかった。

二次元コード決済は立ち向かわなければならない強敵が少なくなかった。

先ず、現金決済。何百年もの間に、根強い習慣になっていて、現金を持っていると、気持ちが落ち着くのだ。

次は、クレジットカード。中国で次第に普及し始め、金持ちの一部がクレジットカードを受け取り始めていた。さらに多くの人々が銀聯カードを使い始めた。特に銀聯カードは先に預金し、その後、消費するので債務超過を避けなければならず、銀行と消費者の双方に歓迎された。中国で銀聯カードを使うと、そのたびに直ちに確認のショートメールが送られ、さらに、多額消費の場合は決済前に注意喚起してくれるため、消費者は現金が銀聯カードに入金された段階から、安全保障には特に注意する必要はない。

しかし、王氏は倉庫で働いた経験から、1件の処理(1回の決済)時間をもっとスピードアップしたいと考え、二次元コードは絶対にもっと早く、もっと安全であることを知っていた。

モバイルペイは硬直的需要を生む

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2000年以後、有線電話が普及していなかった中国で、携帯電話がゆっくりと流行し始めた。携帯電話関連サービス、例えば、ショートメール、ウィーチャット、モバイルバンキングなど、さまざまな方式が前後して、大量に出現した。春節(旧正月)の時、ウィ―チャットでお年玉を贈るようになったのは、かつての現金のお年玉に替わるものだ。その後、人々は商店の二次元コードをスキャンして支払うようになった。王氏にとって最大のチャンスがついにやってきた。

テンセント(騰訊)に二次元コードを推薦した時、王氏は決してテンセントのサプライヤーではなく、そのうえ、テンセントには二次元コード決済関連の業務はなく、探し当てることができたのはバーコード決済方式だった。王氏は急いでスキャナーを1本買い、無理やりテンセントのバーコードサービスのサプライヤーになった後、二次元コードサービスを提供するようになった。テンセントは二次元コードを使用する受領あるいは支払いのツールを持っていた。テンセントの主なライバルはアリペイであり、この時、新しい決済サービスが必要とされ始めていて、王氏はその中に飛び込んだ。

「意鋭新創はほとんど自社ブランドを作らず、一心にアリペイ、ウィーチャットペイのために二次元コードサービスを提供しています」――王氏は自社が製造したスキャナーを手にし、ボックスの真ん中にある大きな支付宝(アリペイ)の「支」の字を指しながら話してくれた。すべてのアリペイ、ウィーチャットペイはこのボックスで行うことができ、ソフトウェアサービスは意鋭新創に帰属し、このボックスは意鋭新創が製造していて、王氏はすでにこれで十分満足している。

ソフト開発の蓄積で勝負

深圳に行って、適当に電子製品を製造している町工場を探すと、そこでも意鋭新創製とそっくりの製品を製造できるので、王氏が立ち向かっているのは巨大な模倣能力を持つ数え切れないほどの中国企業だ。「わが社の製品はもっと安く、わが社の金融サービス、アフターサービスはもっと万全で、単に何百、何千個の製品を生産している企業との競争は少しも心配していませんね」と、彼は話していた。昨年、意鋭新創製のスキャナーは百万台以上販売され、その価格は国内外の同業者の製品の半額で、これは普通の企業ではほとんど競争にならない価格だ。商店にこれらの設備を設置するのに、意鋭新創はわずか十数分で設置し、調整も終える。十数年来のソフト開発の蓄積が、同社をここまで到達させ、ベンチャー企業が追い付きたいと思っても、そう簡単なことではない。

筆者は「間もなく顔認証時代に入ると思いますが、懸念はありませんか?」と王氏に訊ねた。「懸念はありませんね。社員食堂などのように多人数でなく、反復率が大変大きい場所では、決して安いとは言えない顔認証システムのセットを買って、社員の情報をインプットするかも知れません。しかし、通常の決済には、ほとんどコストがかからないわが社のスキャナーを使うでしょうね」。スキャナーは中国では1台100元(約1600円)前後で、既存のパソコンとオンラインでつないで、インターネットと電気があれば、決済作業は行えるし、その他のPOS(ポス端末装置)、クレジットカードの読み取り機、将来の顔認証機器などはスキャナーとは比較にならないだろう。

国外普及を確信

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今年、中国モバイル決済のユーザーは6億5000万人に達し、その大部分が決済に使っているのは二次元コードだ。

中国銀聯は今年5月22日、「中国銀行カード産業発展リポート(2018)」を発表した。リポートによると、昨年の銀聯インターネット交換取引額は93兆9000億元(約1600兆円)に達し、世界の銀行カード清算市場でシェア第1位を維持し、そのうえ銀聯カードネットワークは全世界で168カ国・地域で受け入れられている。銀聯カードの関連業務は、その大部分が二次元コード決済に置換され、微博(ウェイボー、中国版ツイッタ―)、微信(ウィ―チャット、中国版ライン)の発展が二次元コード決済の増加をもたらすだけでなく、銀聯の発展も同じ道を歩むだろう。

「二次元コード決済は国外でも普及すると思いますか?」と筆者が質問すると、即座に「もちろんですよ」という答えが返ってきた。二次元コードスキャンサービス方式は、今、すでに国外に進出し、日本、シンガポール、マレーシア、米国、カナダなどで普及し始めている。王氏はこのようなサービスがさらに多くの国々で発展して行く、と堅く信じている。中国の微博、微信はラインやフェイスブックと競争しなければならないが、二次元コード決済はこれらと異なるらしく、中国で素早く普及した後、一歩国境を踏み出すとライバルはいないようだ。


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陳 言
ジャーナリスト、日本企業(中国)研究院執行院長

◎陳言氏 略歴
1960年、北京生まれ。82年、南京大学卒。82~89年『経済日報』に勤務。89~99年、東京大学(ジャーナリズム)、慶応大学(経済学)に留学。99~2003年萩国際大学教授。03~10年経済日報月刊『経済』主筆。10年から日本企業(中国)研究院執行院長。



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