ウェンディ・コップ: アメリカの教育格差を是正する(究極のチェンジメーカー #3)
「究極のチェンジメーカー」シリーズについて
私たちアショカは世界最大の社会起業家ネットワークです。1980年創立以来、アショカ基準の社会起業家を発掘しており、2020年までに世界90カ国以上で約3800人を「アショカ・フェロー」として選出してきました。彼らは、社会にある問題の表面的な応急処置ではなく、それらの歪みを生み出している水面下の仕組みそのものを変えています。この連載では、社会を大きく変えている、「究極のチェンジメーカー」の名にふさわしいアショカ・フェローを一人ずつ紹介していきます!
アメリカの大きな教育格差をどう解決するか?
ウェンディ・コップは、1990年に当時21歳という若さでTeach for America (TFA) を創立しました。きっかけは、彼女がプリンストン大学に在学していた時のこと。ウェンディ自身や彼女と同じようなバックグラウンドの人に比べ、貧しい地域出身のルームメートは授業についていくのにとても苦労しているのに気づきました。出身地域による教育格差が存在することに気づいたことがインスピレーションとなり、彼女はアメリカの教育格差問題を解決すべくTFAを創立しました。
TFAは、全米トップ大学の卒業生を貧困地域の公立学校へ派遣し、彼らが2年間教師として生徒に授業を教えるというプログラムです。国内の最も恵まれていない子ども達は、やる気に溢れた先生のサポートを受けて成績を上げ、人生に前向きなインパクトを受けます。
また、エリート大を卒業し、未来のリーダーとなっていく若者たちは、このプログラムを通して、貧困の現場を目の当たりにすることになります。教育の分野に残る人も、政府やビジネス界へ進んでいく人も、2年間肌で感じた現実を踏まえて活動していくのです。こうして多分野から「教育格差を解消しないと!」と強く感じる人達がそれぞれ行動する、というのがTFAの隠れた仕掛けです。
貧困と教育格差
アメリカにおける経済格差は深刻で、アメリカでは現在約1400万人の子どもたちが貧困状態にあります。人々が貧困から抜け出すためにキーとなる公教育ですが、公立の学校は予算が地域の税金で賄われていることもあり、一番必要な貧困層に質の高い教育が届けられていないのが実情です。
その結果として、9歳児は読解力において、高所得層出身の子どもよりも3学年分遅れていて、算数においては1、2学年分の遅れが見られます。そして、低所得層が多く住む地域の高校3年生の半分が中退をしてしまいます。このような教育格差が生まれると、彼らはより苦しい状況になるだけでなく、社会全体として分断が生まれます。
この様な格差が生まれる理由として3つの構造的な理由が挙げられます。
1つは、低所得層家庭出身の子どもたちは、人生での潜在能力は十分あるのにも関わらず、多くの困難を抱えているということ。例えば、彼らは低所得層家庭出身であるために、十分な医療、栄養などの支援を受けづらいという環境にあります。
2つ目は、学校は彼らが困難を乗り越える事が出来る様なサポートを提供する余裕がありません。
最後に、アメリカ国内で、教育格差を是正するために十分な政策や投資が行われていないという現状があります。
「格差をなくしたい」という情熱のある優秀な若者を派遣
この格差を解決するために、TFAは、情熱があり、多様な背景を持つ人々を学校に派遣して、生徒の人生に前向きな影響を与え、最終的にそのリーダーシップを活かして教育界、社会全体に変革を及ぼすことを目指しています。
TFAは、今までで数百万人の子どもの人生に影響を与えています。TFAは特に科学や算数の分野での貢献が顕著です。教育省が2015年に行った調査によると、TFAの対象校の生徒は、数学において、対象校ではない学校と比べ、1年で2.6か月分進んでいるというデータが証明されました。
更に、今までTFAとして教師になった約65,000人の内なんと85%が現在も教育界、または低所得層のサポート事業に携わっています。この画期的なモデルは世界にも広がり、現在は世界58ヵ国で「Teach For All」というネットワークも形成され、海外の教育界にもインパクトを与えて続けています。
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▼ウェンディ・コップ本人の講演(日本語字幕あり)
もっと詳しく知りたい方へ
アショカによるウェンディ・コップの紹介ページ(英語)
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