大麻の危険性について薬学生の視点から考察する
先日、大学での天然物化学の授業で大麻について言及されたので、ジェンダー界隈でも時々名前が挙がる大麻について、薬学生の観点から簡単にまとめていこうと思う。既にしつこく言及しているが、ご容赦頂きたい。
大麻とは何か
我々が大麻と呼んでいるのはアサ(麻)という植物(大麻草とも呼ぶ)の内のほんの一部で、日本の大麻取締法で規制されているのも、「麻」そのもの全てではない。
つまり、大麻の定義から「成熟した茎及びその製品」は除かれているが、「樹脂」は規制対象であるということだ。樹脂についての定義が曖昧ではあるが、その点については後述する。
なぜこのように「麻」そのものが規制されていないのか。現に麻は布繊維として広く日本でも使われてきたものであるし、規制対象とされている樹脂も様々な製品に加工されている。もちろんそれら全てを規制してしまったら大変な損害になってしまうが、規制対象となっていない部分についての安全性に問題はないのだろうか。それは大麻の持つ性質を化学的観点から考えると明らかになる。
「大麻」の化学的性質
「大麻」の化学的性質について、私が授業で用いている教科書から引用する。
つまり、大麻に含まれるTHCという物質が、幻覚を引き起こすということだ。このTHCが含まれているのが、麻の花穂、葉、未成熟な茎、樹脂、根であり、大麻取締法で規制されている部位である。THC以外にも大麻にはCBDという物質が含まれているが、こちらは幻覚作用が弱いので大麻取締法でも規制はされていない。
つまり、麻そのものが有害なのではなく、そこに含まれる物質が問題であるということだ。
「樹脂」とは何か
ここでは先ほど言及した「樹脂」に焦点を当てていこうと思う。
高分子というのは分子量が1万以上の大きな物質で、樹脂は大きな分子が繋がったものである。そのため一口に「樹脂」といっても必ずしも有害なものであるというわけではない。
ただし、樹脂の定義自体が曖昧であるため、大麻取締法での規制対象も曖昧になっているという指摘がされている。
大麻規制のあり方
現在、大麻取締法では大麻の部位による規制を採用しているが、実際はTHCという物質に注目した規制となっている。そのため、成分に着目した規制にすべきではないかという意見が出ている。
また、そもそも大麻の危険性そのものに疑問を呈しているものもある。
この記事のグラフによると、大麻の危険性はアルコールやタバコより低いという。
このグラフを見ると、単に大麻を解禁するのではなく、アルコールやタバコを規制する方が合理性があるように思われる。だが、酒税やたばこ税が日本の税収の約4%に及ぶことを考えると、日本政府としてもアルコールやタバコの規制に踏み切るのは難しい大人の事情もあるだろう。となるとやはり大麻のみの解禁の方が現実的であるが、「薬物」ということで拒絶反応を示す人がいるのも事実だ。
しかし、「違法ではない」薬物であれば使ったことのない人はほとんどいないだろうし、その「違法ではない」薬物も研究が進んでいって違法となっていくということは十分にあり得る。そもそも大麻はきちんと使えば麻酔としても使われる。もちろん素人が無闇に乱用すると重大な副作用を引き起こす可能性もあるので専門家による厳重な管理が必要であろうが。
従って、単に「薬物である」というだけで拒絶反応を示すのはあまり感心しない。
大麻解禁は可能か?
結論から言うと、化学的に考えれば解禁することは可能だ。しかし、前回取り上げた人工子宮の実現と同じく倫理的な面が争点になるだろう。人工子宮よりはハードルは下がるが、それでも解禁に踏み切るには多くの世論を動かす必要がある。
ジェンダー界隈で時々挙がる女性のみ大麻解禁については私も別noteで述べているように女性の声があまりにも大きいので不可能だし大麻で解決になるとも考えにくい。とはいえこの提案の発案者である鈴木氏のメンタルの強さは皮肉抜きで頭が下がる。
大麻解禁に限らずだが、法遵守の考え方を持っている人や安定を好む人が多い我が国では、法改正というものは非常に難しいと思われる。しかし、世論が動き主流となっていけば良い方にも悪い方にも変わっていくのも我が国の特徴であるので、今はまだ実現不可能なものでも、世論を動かして主流にしていくことは十分可能だろう。
我儘な女の戯れ言として当時は全く見向きもされなかったであろうフェミニズムが現代日本で主流となっているように。
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