【かもめAI小説塾】コンセプトを作ろう ―「コンセプト」と「テーマ」の違い―
はじめに
小説を書く際に大事な要素の1つに「コンセプト」が挙げられます。
「コンセプト」を直訳すると「概念」という意味になります。派生した言葉である「コンセプチュアル・アート」は、概念を重要視するアートのことです。何度か本塾の記事で触れていますが、マルセル・デュシャンの「泉」は便器にサインをして横に倒しただけの芸術作品です。「もし絵画や彫刻のように手間暇かけて作るのではなく、既製品をそのまま展示したなら?」という「コンセプト」がこの作品の価値となっています。
既成概念を破壊しようと思っているわけではないにしても、小説を書くのであれば「コンセプト」を避けて通ることは難しいでしょう。
例えば、第9回日経「星新一賞」優秀賞に入選した拙作『あなたはそこにいますか?』は、「もし小説を書くAIに意識があるなら?」という「コンセプト」から、小説を書くAIに意識があるかを探ろうとする大学生の物語を描きました。
『あなたはそこにいますか?』は、下記の第九回受賞作品集のリンクから無料で読むことができます。
この記事では、ストーリー・エンジニアリングの考え方を取り入れながら、「コンセプト」の作り方を解説します。
「コンセプト」と「テーマ」の違い
さて、「コンセプト」という言葉が先ほどから何度も登場していますが、みなさんは「コンセプト」とは何か説明できるでしょうか?
テーマみたいな作品の核になっているもの、という感じでなんとなくは説明できるかもしれません。しかし「テーマ」と「コンセプト」は別物です。世の中のクリエイターには、この「テーマ」と「コンセプト」の違いに意識的ではない人が、実は多くいます。違いを理解していないからといって一概にダメだとは言えません。しかし違いが分かるクリエイターは、たいてい実力がある人が多いです。ぜひこの機会に違いを理解して、一歩ステップアップしましょう。
では「コンセプト」とは何でしょうか? 書籍『工学的ストーリー創作入門 売れる物語を書くために必要な6つの要素』[1]ではコンセプトについて以下のように書かれています。
「what if?」は、日本語で「もし~なら?」という意味です。つまりコンセプトは「もし~なら?」という形式で表現するのが良さそうです。
これを参考にして、本記事ではコンセプトを「ストーリーの前提となる『もし~なら?』という問い」と定義します。「アイディア」の次の段階であり、「あらすじ」の前の段階に位置するものです。
冒頭で紹介したように、拙作『あなたはそこにいますか?』であれば、「もし小説を書くAIに意識があるなら?」がコンセプトです。このコンセプトは、「AIが小説を書く」と「AIに意識がある」というアイディアから構成されています。アイディアは点であり、それらを線で結ぶことで浮かび上がってくるものがコンセプトです。コンセプトは、アイディアをつなげることでできた仮定条件、あるいは物語世界を形作るトリガーともいえるでしょう。
「テーマ」については別の記事で解説しようと思いますが、簡単に言えば「ストーリーで伝えたいメッセージ」です。『工学的ストーリー創作入門 売れる物語を書くために必要な6つの要素』では、コンセプトやテーマについてさらに詳しく解説が書かれているのでぜひ参照してみてください。
AIを理解して巧く使おう
ところが、ここで1つ問題があります。
多くの人が「テーマ」と「コンセプト」の違いを理解していないために、その定義がごちゃまぜのデータを学習したChatGPTも「テーマ」と「コンセプト」の違いを正確に判別できないのです。
AIが悪いのではありません。定義があいまいなまま言葉を使っている多くの人間が悪いのです。
でもAIの使い方が下手な人は、何も考えずにChatGPTに小説のテーマを与えて、ただコンセプトを作らせます。これでは理想的な出力は得られません。
それは検索の巧拙と似ています。検索が下手な人は、適当に検索して情報源として怪しい変なサイトの内容を鵜呑みにしますが、検索が上手い人は欲しい情報がどういうキーワードで引っかかるかを知っていますし、OR検索、NOT検索や期間指定を駆使しますし、サイト内の文章の書き方を見て信頼できる情報源かを判断できます。その嗅覚が、AIを使う際にも必要です。
「コンセプト」の作り方
では早速「コンセプト」を作ってみましょう。
「小説のアイディア出しを自動化する方法」ではマインドマップを用いて物語を作成する方法を解説しました。これを応用して「樹木」をキーワードにしてコンセプトを作成してみましょう。
まずは下記のプロンプトを入力します。
出力)
「樹木」から連想される4つの単語と、それぞれの単語から連想される2つの単語を使ってマインドマップを作成します。ここでは、MarkMapのMarkdown記法を使用してマインドマップを表現します。以下がその例です:
# 樹木
## 果物
- りんご
- みかん
## 森林
- 野生動物
- ハイキング
## 木材
- 家具
- 紙
## 環境
- 温暖化防止
- 空気清浄
このマインドマップは、「樹木」を中心に、「果物」、「森林」、「木材」、「環境」という4つのテーマを展開し、各テーマからさらに2つずつ関連する単語を連想しています。これにより、主題に対するさまざまな側面や詳細が視覚的に理解しやすくなります。
次に、ここからコンセプトを作成します。
下手な使い方の例
まずは下手な使い方の例として、何も考えずにただコンセプトを作ってみます。上記の会話に続けて、下記のプロンプトを入力してみましょう。
出力)
以下に、提案したマインドマップからインスピレーションを得た5つの小説のコンセプトを示します。それぞれのコンセプトは、マインドマップ内の単語間のつながりや関連性に基づいています。
森林と野生動物の共生
森林の奥深くで、人間が足を踏み入れていない秘密の場所が存在します。その地には、言葉を話す野生動物たちが住んでおり、彼らは森を守るために集まり、外部の脅威から自然を護るために協力しています。彼らの冒険と試練を描くファンタジー作品。
家具職人としての新たな人生
経済的に困窮した中年の男が、偶然見つけた古い木材を使って家具作りを始めます。彼の手から生まれる家具は、見る者の心を癒し、次第に彼はその技術で名声を得るようになります。彼の成長と再生の物語。
未来都市の環境問題
近未来の都市で、空気が汚染され続ける中、ある科学者が樹木のDNAを改良して超高速で成長し、大量の酸素を放出する木を開発します。この木が人類を救う希望となるか、新たな問題を引き起こすかを探るSFストーリー。
温暖化防止の秘密結社
地球温暖化に立ち向かうため、世界中から集められた環境活動家たちが秘密結社を結成します。彼らは政府や大企業に対抗するため、裏で様々な活動を展開していきます。スリリングで政治的なドラマ。
果物を巡る冒険
果物が魔法の力を持つ世界で、りんごの木が育つ特別な森を探し求める少年の物語。この森は一世紀に一度だけ現れると言われ、その果実を手に入れることができれば、願い事が叶うとされています。マジカルで心温まる冒険物語。
これらのコンセプトは、樹木とその周辺の要素から派生したアイディアに基づいており、ジャンルやテーマが豊富に展開されています。
なんとなくコンセプトっぽいと思う方もいるかもしれませんが、ここで出力されているのはあらすじになってしまっています。少なくともコンセプトの定義である「ストーリーの前提となる『もし~なら?』という問い」にはなっていませんよね?
上手い使い方
ここからが上手いAIの使い方です。出力が欲しい形式になるようにプロンプトを工夫します。
出力)
ここで提案する小説のコンセプトは、先ほど作成したマインドマップの単語を活用して、興味深い「もし~なら?」という問いを設定します。以下に5つのコンセプトを示します:
森の果実
コンセプト: もし果物が特定の森林でのみ育ち、その果物を食べた者だけが超自然的な能力を持つようになるなら?
木材の選択
コンセプト: もし木材が家具を通じて人々の運命を形成する力を持っているとしたら?
最後のハイキング
コンセプト: もし地球温暖化により最後の森林が消失する前の最後のハイキングが、時間を巻き戻す鍵を握っているなら?
紙の記憶
コンセプト: もし紙に書かれたことがすべて現実になる力を持つとしたら、どんな秘密が隠されているだろうか?
空気の守護者
コンセプト: もし人々が環境保護をしなければ、地球自体が自らを守るために反乱を起こすとしたら?
これらのコンセプトは、マインドマップの様々な単語からインスピレーションを得て、異なるジャンルやテーマを探るためのものです。それぞれの設定は、小説の背景やプロットの出発点として機能します。
このように欲しい出力が得られましたね。
プロンプトのポイントは2つです。
コンセプトについて定義すること
出力形式を定義すること
コンセプトの定義は、下記の部分です。この一文を入れるだけで、ちゃんと「もし~なら?」の形式になっています。(一部は語尾が「~としたら?」「~だろうか?」になっていますが、人間が修正できる範囲でしょう)
また出力形式もプロンプトの中で指示することができます。「1. 」「* 」などの書き方はマークダウン形式に則っています。{}で囲った部分が変数であると指示することで、ちゃんとその部分に生成結果を入れてくれていますね。
こうしたテクニックはプロンプトエンジニアリングの基本なので覚えておくと役に立つでしょう。
参考文献
[1] ラリー・ブルックス著. シカ・マッケンジー訳. 2018. 『工学的ストーリー創作入門 売れる物語を書くために必要な6つの要素』 フィルムアート社
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