鬼ごっこ-1 プレイヤー弘樹 指名手配
暗転の後、光が差し込んできた。
まるで目覚めの時のようだった。
光を得た目で周りを見ると、そこにあったのは人通りの激しい交差点だった。
僕は右へ左へ歩く人の中に立ち尽くしていた。
「ここは……」
ビル群の立ち並ぶ街。
ビルの一つには大きなモニターがあり、テレビの放送をしているのがわかった。
バラエティ番組を放送しているようで、どこかで見た事のあるような芸人がテレビの中で笑いを誘っている。
この光景を見ていると、まるで現実の世界に戻ってきたように思えてくる。
気候は穏やかで、空には鱗雲が浮かんでいる。
自分の格好もそれと合わせて変わっていた。こういう点は慣れというものに含まれてしまう。順応とも言うのだろう。
『緊急ニュースが入りました。たった今、緊急ニュースが入りました』
先ほどまでの芸人のコントの映像は途絶え、映ったのは女性のニュースキャスターが物々しい雰囲気で話している姿に切り替わった。
ニュースキャスターの言葉に街を行く人々の足が止まった。
『えー、先ほど入ったニュースです。鬼ごっこ区内に指名手配犯が入りました。鬼の皆様は、指名手配犯を捕まえるため、現在チームを組み捜索に当たっています。指名手配犯はこちらのヨン名です』
ニュースキャスターの声だけが残り、画面に四枚の写真が映った。
『諏訪愛子、宮田弘樹、園田恵美、秋元和志、のヨン名です。繰り返します。指名手配犯は、諏訪愛子、宮田弘樹、園田恵美、秋元和志、のヨン名です。なお、指名手配犯の捜索は危険を伴います。鬼ごっこ警察署で『防弾チョッキ』を受け取ってから捜索に当たって下さい。指名手配犯には最終通告が出されています。また、午後九時には捜索を打ち切りにします。繰り返します……』
周りでニュースを見ていた人達が、視線を僕に向けてきた。
「え……?」
周りから少し距離を置かれ、どこからかひそひそと話しているのも聞こえてくる。
周りにいる人たちは一定の距離を保ったままで、僕はあの日の電車の中の光景がフラッシュバックしてきた。
逃げないと。
でも、どこへ……。
きっとこの人たちもそういう人たちなんだろう。
何の罪も無い人を裁く。
薄汚いものを見るような視線。
嫌な記憶は途絶えず、僕の頭を混乱させていった。
「お、弘樹。こんなとこで突っ立ってたら捕まるぜ」
身体が一気に動いた。腕を引っ張られ走り出した。
僕の手を取り走っているのは和志だった。
「和志。なんでお前が……?」
和志は前回のゲームをクリア出来ないはずだった。走りながらの問いに和志は面倒くさそうに答えた。
「まあ、色々あったんだよ。何にせよ、ここから離れるのが先決だな」
前を駆けていく和志の背中を見ながら、僕は走った。
僕の感じている違和感はどこまでが本物なのか、それとも違和感など最初からないものなのだろうか。
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