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かくれんぼ-2 プレイヤー弘樹 学校内広報新聞

「学校内広報新聞か……。智巳さんはこの学校知っている?」

「知らないです」

 簡潔に言われてしまった。

 しかも、智巳さんは表情を一つも変えない。

 僕が何か悪い事でもしたのだろうか。

 周囲を確認する。廊下の突き当りに来て、右に向かうか左に向かうかを考えていた。

 廊下の先を見ても、どちらも同じような場所に繋がっているように見えた。

「どっちに、行こうか?」

「どっちでもいいですよ。別に」

 今度は不機嫌な表情で返された。僕は何かしたのか。

 この世界に入った時、三年一組の教室の中にいた。

 周囲を確認した後、教室から出ると、智巳さんが立っていた。

 声をかけると「良かった」と言って笑ってくれた。

 その後、和志はどこか、と尋ねられて、知らない、と答えると、急に不機嫌になっていった。

 まあ、理由は明白だけど、僕はこういうのを気にしてしまうタイプだと自覚している。

「和志が見つかると良いけど……。アプリも使えないしね」

「ホントそうですよね。なんでこんな和志君のいないところにいなくちゃいけないんだか……」

 ぶつぶつと文句を言っている。和志の話題を出すと余計に怒られそうなので、この辺りで智巳さんに言う事を止めた。

 突き当りを右に曲がり、進むと平積みされている紙の束があった。

「あ、学校内広報新聞ってあれじゃないかな? そこに重ねてある……」

 振り返ると、智巳さんの影は無かった。

「智巳さん? あれ……?」

 周りを見たけれど、どこにもいなかった。

「どうしよう……」

 僕は一人とり残されてしまった。

 仕方なく手に取った校内新聞に視線を落とした。

 そこには、前回と似たような『ルール』と『攻略法』が書かれていた。

 ルールは前回と同じ内容だった。

『・プレイヤー以外の人間は記憶を無くした状態で始まる』

『・一度でも勝利したプレイヤーは世界から出ることが出来る』

『・勝利したプレイヤーは欲しいものを与えてもらえる』

『・一度でもゲームに敗北するといらないものを取られ、世界へと帰る』

『・取扱説明書のルールは絶対である』

 五つのルールはこのゲームの根幹の部分なのだろうと推察出来る。この五つのルールよりも大切なのは、その下に書かれている攻略法だ。

 今回の攻略法は前回と同じように書かれていた。

『・校内を徘徊している探し人に触れられて「見つけた」と言われない』

『・花を九輪以上残した状態で制限時間を過ぎると勝利者となる』

『・花を五輪以上残した状態で制限時間を過ぎると継続者となる』

『・花が四輪以下で制限時間を過ぎた場合敗北者となる』

『・自分にとっての探し人を見つけ「見つけた」と言えば勝利者となる』

『・探し人はその時々に姿を変える』

『・読書感想文からは逃げられない』

 この文面からすると、今回のゲームは誰にも接触しない道と、積極的に誰かを探す道と二つの道があるようだ。

 とはいえ僕の持ってる花は残り六輪。

 九輪は藍子さんか恵美さんならクリア出来る状態だ。

 僕の場合はこのゲームで二輪を失うと敗北者になってしまう。

 また誰かにコンタクトを取ればリスクも上がる。

 そのため、今回のゲームは隠れて過ごし、継続者になる事に重点を置いた方が良いだろう。

 けれど、一つ懸念があった。

 スマホに入っていた『読書感想文』というアプリだった。

 恐らくあのアプリは、この攻略法に書かれている『探し人』に自分の位置が知らされるというものなのだろう。

 そして、『読書感想文からは逃げられない』という言葉も引っかかる。

 あのカメラが映しているから逃げられない、という意味なのだろうか。

 だとしたら、あのカメラの死角を探し一人で隠れる、というのが得策なのだろう。

 監視カメラを探してみる。

 目に入ってくるだけで四台はある。

 こんな中に死角なんてあるのか……。

「きゃーーーーーーー」

 うなだれていると、遠くから悲鳴が聞こえてきた。

「智巳さん! 行かな……きゃ……」

 これは、罠なのかもしれない。こうやっておびき寄せて、捕まえるのかもしれない。

 僕は頭の中で情報を逡巡させた。

 数秒後、僕は走り出していた。

 これで助けられないのならば、もう二度目の失敗になるだろう。

 僕はそれを許せないだろう。

 罠でも失敗でも、全部受け止めよう。

 僕は自分の気持ちに正直になり、智巳さんの元へと走った。

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