宝探し-2 プレイヤー弘樹 取扱い説明書
宝探し駅は、思いのほか広々としていた。
駅前の地図を眺めてみると、この辺りの地形が理解できた。
「宝探し駅から別の駅へは通じていないのか。出発も到着も宝探し駅で路線と言うよりもレールのようなものなのだろうか。と言う事は、線路で囲まれた世界……、という事で間違いないだろう。後は、駅から徒歩二分の宝探しデパートか。まずは行ってみないとわからない……、といったところだろうか。ここにいても時間だけが浪費されていくな。……よし」
駅前の異様な掲示板をもう一度確認する様に見た後、次なる目的地へと歩き出す。
まずはデパートの屋上。
取扱い説明書、という名前からもこの世界に関係するものだというのは推察できる。
それを手に入れることが、この不可思議な世界を理解する方法だ。物事を見る時に必要なのは感情ではなく論理的な思考だ。情報を取り入れ、一つずつ咀嚼して思考する。
プロセスをフィルターにしていくつもの情報を一つに束ねていく。それが出来て、初めて正しい選択が出来る。
学生かばんを肩に背負い、左手には九本の青い花を持って、宝探しデパートを探した。
幸い、駅前の地図である程度の地形は把握出来ている。
駅から見て右に曲がればすぐに見えてくるはずだ。
一歩ずつ進んでいくと、記憶が沸々と蘇ってくる。
なぜ、こんな世界にいるのだろう。
確かに、あの少年と出会ったのがきっかけなのだろうけど、一番のきっかけはほんの幾ばくかの勇気だった。
だけど、その勇気も無駄に終わった。
結果、人生を棒に振る出来事になってしまった。
進学も、親からの信用も、友人からの悪罵も、電車の人混みも、全てが鬱陶しく感じるほど摩擦を感じていた。
だから、僕はあの後、マンションの屋上の縁に立っていたのだ。
そして、そこで誰よりも死を望んだ。
結果的には少年と出会い、数奇な世界へと迷い込んでしまったのだが。
「どうせ死ぬのなら、最後に遊ぼうよ」という甘い罠に誘われた。
言われてしまえばそうだ。
僕はちょっとした自暴自棄による暇つぶしのためにこのゲームに参加する事にした。
どうせ僕は死ぬのだ。どうせ、僕は生きる道が無いのだから。
自分の身体でゲームをしている。
ただそれだけだ。
思考していると、デパートが見えた。
丁寧にというのか、堂々と『宝探しデパート』と看板まであった。
「確か、ここの屋上だったよな」
デパートの入り口が開くと、冷たい風が吹き出してきた。
真夏といえるほどの暑さの中にいた身体は、芯から冷えていった。
冷房が効いている。
そんな事実でもこの世界は元々いた世界とリンクして繋がっている事を実感させた。
デパート内にはお客さんがまばらにいた。
買い物をしている女性や、それに付き合わされているのであろう男性や、退屈そうに携帯ゲーム機に向き合っている子供がいた。
こういう部分からも現実の世界とあまり変わらないと再度感じさせた。
おそらく、ここに暮らしている人たちは、ここの暮らしが本物という事なのだろう。
それくらいにこの世界の住人は生活をしている。
案内板を見ると、入り口からほど近い場所にエレベーターがあった。
丁度、エレベーターが上階から降りてきたところだった。
僕の他に乗り込もうとする人は見当たらない。
エレベーターに乗ると、すぐにドアを閉めた。
その後、階数を数える。最上階は七階のようだ。
ボタンを押した。七階のボタンはオレンジに点灯した
わずかな浮遊感があった後、エレベーターは上昇していった。
乗り合わせている人がいなかっからか、思わずあくびが出てしまった。
昨日まで受験生の秋、という事で勉強に身を入れていた。
寝不足になる日々は当然でそれが僕の日常だった。
浮遊感が着地すると、『ポン』という間抜けな音で屋上へ着いた事を通知した。
「ここがスタート地点か……」
屋上には子ども達がごった返していて、遊具や芝生があり、ヒーローショーまでやっている。
子ども達は楽しそうに走り回っている。
パンダの乗り物に乗った少年が僕の前を通り過ぎていく。
小さな船の乗り物に乗ってゆりかごのように揺られている少女の前を通り、辺りを見渡した。
本当にここなのだろうか。
疑問と不安が同居するとろくな事が無いというのは実体験からの答えだ。
どうしようと思っている時は、そこに付け入る隙が必ずあるのだ。
だから僕はいつも考える事を止めない。
言葉にするのが苦手で、行動に移すと空回りしてばかりの日常でも、僕はそういう自分でありたいのだ、
ふらふらと歩いていると、オレンジのジャンパーを着た女性が寄ってきた。
「本日、ヒーローショーをやっています。良ければ、見ていって下さい」
チラシ配りをしている女性は、何やらヒーローショーのチラシを渡しにきた。
渡されたチラシをちらりと見やる。
すると、渡されたチラシは、ただの『ヒーローショーのチラシ』では無かった。
そこに書かれていたのは、取扱い説明書だった。
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