【創作】土曜日は鬼退治

スヌーピーのキャラ弁なんてもの初めて見た私は、脳が一瞬フリーズした。

おにぎりがスヌーピー……だと？
スヌーピーの頭部、海苔で目鼻や耳がデコられているではないか。やば。

「こんなのどうよ？」

LINEに貼られたお弁当写真に即、桃花ももかとサワタリがサムズアップのリアクションマーク。

8秒くらい遅れて、私も「いいね」する。

「鬼丸おにまるはスヌーピー好きなんでしょ？こういうの、よくない？」

写真を貼ったのは狗巻貴子いぬまきたかこ。
中間も期末も常にオール90点台、めっちゃ頭いい子。

「このお弁当、貴子が作ったの？」

「まさかw  ママが作った莉子りこの塾弁」

「かわいく出来た　見て見て！って、わざわざ写メ送ってきたの　ウザすぎ」

りっちゃん、小学生なのに毎日塾。
勉強ばっかで大変。

貴子の家は、中学と高校の姉妹ダブル受験生。
よくやってると思うよ。
うちなんて私だけなのに放置されてるもん。


「私の中受チュウジュに失敗した反動」
貴子はそう言うけれど、それにしたって偉いよ、貴子のママとパパ。

りっちゃんと貴子の塾の送迎、ふたりで手分けしてしてやってるもんね。

私、木嶋羽美きじまうみ。中3。　　

桃花ももか、貴子たかこ、サワタリと私は、学校では別々の友達といる。

2年の時はみんな同じクラスだったけど、今は違う。
ばらばら。
私たちの中学、1年ごとにクラス替えがあるから。

3年生になって、貴子はA組で、桃花とサワタリはB、私はC組。

新しいクラスになってすぐの球技大会や来月にある修学旅行の班分けとか、またイチから人間関係つくるの、かなり面倒くさいんですけど。　

マジで勘弁、ダルい。

学校って何考えてるんだか、意味分からん。

2年の秋の合唱祭から、桃花は同級生の鬼丸おにまるに恋してる。

鬼丸のピアノ弾く姿に惚れたんだって。
『大地讚領』、確かにあれはよかった。

私たち2-Aが1位だったのは、鬼丸の伴奏があったからだと思ってる。

指揮者をしていた私と、合唱祭実行委員だった貴子が、桃花の気持ちに気づいた。
他の子はしらんけど。

「相談してもいい？」

桃花から話しかけられたのが、私たちの始まり。
グループLINEつくろうか？的な流れ。

相談の報酬は、桃花ママのお店の絶品マフィン。
きび砂糖を使ったマフィン、すっごく美味しい。
チョコやバナナ、いちじく、さつまいも。
私は新作のレモンが好きなんだ。

美味しいマフィン目的もある。
これ、桃花には内緒。

桃花と同じマンションだというサワタリがグループに招待されて、貴子も私も異論なし。
ふたり、よく一緒に帰ってるしね。

桃花と鬼丸。

私から見て、鬼丸も、桃花の気持ちにはなんとなく気づいてるんじゃないかなと思っている。

「来月の修学旅行、ふたりで思い出つくれたら最高だよね！！きっと受験もがんばれるよね」で盛り上がった私たち。


だから桃花から動くことを決めたんだと思う。

「鬼丸くんに告白する」

土曜日、一緒に動物園に行く約束をしたそうだ。
いやそれ完全にデートでしょ。

よかったじゃん。
告ればいいよね、それで決まりだねって話。

それにしても動物園で告白って、やばくないか？昭和なの？と思ってしまう。

まあこれも私が「鬼丸は動物園が好きらしい」、鬼丸の情報、私たちの中での通称"鬼情報"をグループLINEで伝えたからなんだけど。

作っていくお弁当の中身なんて、どうでもよくない？

「こんなクオリティ高いの、作れない」

泣き顔スタンプの桃花。

作れないって、誰も。作らんでいい。
スヌーピー、無理。
目とか耳とか、海苔で作るの無理。

「そんな事より、どんなふうに伝えるかでは？」

サワタリ、ナイスーー！

仲いい子にズバッと言えるサワタリ、よき。

サワタリは、2年の1学期に転校して来た。
すごい美人と朝からみんな大騒ぎ。
ハーフ？どこの国？と女子はひそひそ。
男子はガイジンガイジンうるさい。

転校初日、黒板に"猿渡ローズ"と自分でしっかりと書いて(めっちゃ達筆)大きな声でこう言った。

「猿渡と書いてサワタリです。
サルワタリではありません、
サワタリです」

アホな男子が即、

「サルーーゴリラ、チンパンジーーーッ！！」

と揶揄からかったけど、サワタリはガン無視。

ホント、馬鹿。

やば、LINE進んでる。

「桃花はどんな感じで？？」

貴子が突っ込んで聞いている。

「出来たら鬼丸くんから言ってもらいたい」

「自分から言う勇気が………」

桃花、あんた自分で言い出したんでしょう、今さらなに？

若干イラッときたけど、黙っている。

サワタリも貴子も黙っている。

女子同士ってこういうのある。
仲良くても、あるんだよね。

「鬼丸は唐揚げが好き」

やば。
急に何言い出してるの、私ったら。

でも本当。
このまえ、教室で話していたから。

「唐揚げのプールがあったら、オレは迷わず飛び込む」

馬鹿だね男子は。
気づいてほしいよ、恋とか好きとか。

「羽美ちゃん、ナイス鬼情報！！！」

サワタリ、やさしい。

「スヌーピーのキャラ弁よりは唐揚げがいいね」

貴子もありがとう。

「桃花の言葉で伝えればいいと思うよ」

私の送信と同時に、3人の既読がつく。

「がんばれ」

「応援してる」

「桃花しか勝たん」

「土曜日は鬼退治」

サワタリのひと言の下、「爆笑」スタンプが連投される。

大丈夫、きっとうまくいく。
私たちがついてるよ。

「ありがとう」

「月曜日、マフィン持っていくね」

やっほーい！！！
めっちゃ楽しみ。

「桃花と鬼丸がつき合うことになっても、このグループLINEは続くよね？」

貴子が聞くと、「もちろん」「OK」のスタンプがふたつ。

数秒遅れで私も押した。

桃花。
貴子。
ローズ。
羽美。
グループ名「ももたろう」

超ダサ過ぎてマジで誰にも言えないよ。

［  了  ］

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白鉛筆さんの【白4企画】に参加させていただきました。

note4周年おめでとうございます。

これからも、白鉛筆さんが創り、描く、唯一無二の作品が多く続いていかれることを。

そのひとつ一つを、心より楽しみにしています。

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作中に「きび砂糖」を使ったものを用いたく、あっちんさんを思い出しました。

あっちんさんが、 noteで書かれているマフィンを、創作の中でイメージとして使わせていただきました。

ひそかに、いつか作ってみたいと思っているマフィンです。