読書感想文『はーばーらいと』
つばさとひばり。
幼馴染で、家族のようで、友達で、いとこのような男女。
ひばりの両親は新興宗教の信者で、娘は両親を「こちらの世界」に戻そうと試みる。
中学卒業後に、家族と共に消えたひばり。
ひばりの居ない町に慣れてきた19歳のつばさの元に、彼女からの手紙が届く。
…………………………
宗教二世のひばりと、彼女を助けるつばさの物語である。
助けるという言葉が適切なのか、分からない。
助けられたのかも分からない。
物語は、ふたりの中学卒業の時期から始まる。
つばさに激しく恋するひばりと、愛おしく感じながらも、彼女と同じ気持ちにはなれないつばさ。
この本の装画は、作者吉本ばななさんのお姉さん、ハルノ宵子さん。
この光景がふたりの町。
学校の帰り道に歩き、ひばりは母親との楽しい思い出がたくさんある海岸。
自分の初恋なのかもしれない相手から、突如助けを求められる。
つばさ自身もまた、父親を事故死で失い、家族と共に必死に生きている。
彼は、困っている誰かを全員救いたいわけじゃない。
自分の手が届く範囲内でと思っていて、ひばりはその中に含まれていると話す。
つばさは冷静だ。
感情だけでは行動せず、常に俯瞰しながら、周りの意見も取り入れながら物事を進める。
そんな彼が、ひばりと面会に行った宗教団体の施設で泣いてしまう。あまりに変わってしまったひばりのたたずまいに。
ひばりは両親を連れてこの施設から出ようとするも、施設の暮らしや考え方に慣れていく自分を感じたとつばさに話す。
すごくリアル。
ここを出たい、助けて欲しいと言いながらも、自分の中で芽生えていく思考。
全てが間違いだとは言い切れないものが、日々積み重なっていく。
ひょっとしたら、この生き方のほうが、生きていくのが楽なのでは……?
家族の信仰が、自分にも影響をもたらす。
特にまだ自立していない子どもにとって、降りかかるものが大き過ぎる。
親子という関係が深く、他者の介入を拒む。
それと並行し、ひばりが施設から出るまでのつばさの心情にも胸が苦しくなった。
他者に、どこまで関与していいのか。
この先にある、自分とひばりとの関係に苦悩するつばさ。
ものすごくリアル。
誰かと何かと関わることは、こういうことでもあると突きつけられた気分だ。
それでも彼は助けることを選ぶ。
読んでいて止まらないし、止められない物語は、激しく揺れてラストにたどり着く。
脱会したひばり。
つばさの母が作った大好きなカレー、昔から変わらない心地よいじゅうたん。
安心できる場所に彼女が居られることが嬉しい。
現在進行形で綴られるひばりと、過去の悲しみを抱きながら懸命に生きるつばさ。
真っ暗な海を泳いで、それぞれ港に戻ってきたのだなと思った。
それは、恋でも愛でもないのだろう。
おそらく、生きるってこういうことなのだ。
小さくても力強い灯りを目印に、自力で岸にたどり着く。
その隣りには、あなたが居た。居てくれた。
濡れた身体がじゅうぶん乾いたら、また再び自由に、羽ばたいていくのだろう。
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