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悪い習慣 KARTE1

2023年11月、霞む目でネット記事を読んで衝撃を受けた。
痩せるダイエット薬が世界中で大流行しているようだ。
「将来の俺激ヤセじゃん」と期待に胸が弾み、
すぐに魔法の薬を手に入れる決心をした。


実際に使用した薬

ここ数年の間、100〜120kgを行ったり来たりしていた。
食欲がとまらず、どんどん太っていった。

目が霞み、頭がぼーっとする。
少し動くと、額からすぐに汗が吹き出てきた。
頭の中は真っ白なモヤがかかり集中力が続かない。

何もしてないのに喉が渇く。
寝ていても口の中がパサパサで目が覚める。
乾燥で唇、顔ともに皮膚がカサカサの脱水状態。

こむら返りで深夜に叩き起こされる。
寝ているとふくらはぎの筋肉の痙攣で激痛が走る。
次の日、足を引きずって歩くほどダメージが残っている。

食後はすごく眠くなる。
お腹いっぱいにならないと気がすまない。
食後すぐなのに、お腹が空いてくる。

何もやる気が起きない。体調が悪い。
足先が針でさされたようにチクチクする。
血行が悪く足先は冷えている。

 


2000年代前半。
1日1箱クールのメンソールを吸っていた。
365日で365箱、24本入りなので、8760本吸っていた。
たしか1箱300円ぐらいだったので、年間10万8000円分の煙を吸っていた。


買って、吸って、吸えなきゃイライラして、毎日金を払って、
そしてタバコ休憩があったりして、長年喫煙を繰り返した。

20代前半のころビデオ屋でバイトをしていた。
バイトが終わり、帰宅の途中、急に気持ち悪くなり、
原付きを止めて側溝で吐いた。
ゲロをみると真っ黒で吐血だった。

家に帰りすぐトイレに行き大便をした。
水っぽいものが出たと思ってみたら真っ黒な血便だった。
すぐに病院にいき、検査をしてもらった。
胃カメラの結果、十二指腸潰瘍という病気だと判明した。
ピロリ菌検査の結果は、ばっちり陽性だった。


医者にタバコをやめた方がいいとか、
空腹時はなにかパンとか食べた方がいいといわれた。
この病気をきっかけに太り始めた。
空腹のときは胃がキリキリするのでとにかく空腹を嫌った。
ちょこちょこ食べる習慣が身についてしまった。


検査から数年たって病院に行くと、
ピロリ菌の除菌ができるようになっていた。
除菌をお願いし、複数の薬を一週間ほど飲んだ。
あらためて検査に行くと除菌できてなかった。
まれに除菌に失敗するという説明を聞いた。
耐性ができて菌が強くなるとも聞いた。
長い付き合いになりそうだ。
そしてこのときから5年後、再度除菌し成功した。

ニコチンを求める脳と、煙を吸って体調が悪くなるという、
どっちつかずの拮抗した状態がしばらく続いたが、
最終的にタバコを辞める決心をした。

はじめから自力で辞めようとは思わなかった。
診察を受けニコチンの成分が染み込ませてあるシールをもらった。

円状のシールを腕に貼り、数週間を過ごす治療になる。
皮膚からニコチンが吸収され、タバコを吸いたくなくなるというものだ。


最初の1週間は大きなシールを腕に貼った。
翌週はニコチンシールのサイズがワンサイズ小さくなっていて、
ニコチンシールが小さくなっていくことで、
皮膚からニコチンを吸収する量は減っていく仕組みになっていた。
サイズは3段階あり徐々に少ないニコチンに体を慣らしていく。

姑息な実験をしようと思いついた。
ニコチンシールを腕に貼った状態で、関係なしにタバコを吸ってみた。
その結果、吐き気がしてものすごく気持ちが悪くなった。

タバコを吸うと気持ちが悪くなるというイメージが本格的に確定した。
喫煙というものは落ち着くというイメージで構成されていたが、
気持ちが悪くなる感覚が大きくなった。
このときに気持ちが悪くなるという感覚を使って
悪い習慣を断ち切るのだと知った。
病気になったりして散々な目に遭って来たけれども、
それでも自分の中では、タバコは良いものとしてカテゴライズされていた。
それが今回のニコチンシールのおかげで悪いものとして情報が更新された。

頭の情報更新と、体の情報更新は別のようで、
手は手独自の情報を持っている。
手癖の習慣があるようで、気がついたらタバコに火をつけていたり、
右手が勝手に火のついていないタバコを口に持っていったり、
習慣的だった長年の行動の反復がときどき無意識に出てきたりした。

ニコチンシールは、1ヶ月で禁煙できるようになっていた。
シールの大きさでニコチンの摂取量を変えていく。
最初の2週間は大きいシールを腕に貼る。
3週目に中ぐらいのシールを貼り、
最後の4週目に、小さいシールを貼る。
毎週ニコチンの吸収量を減らしていき、タバコを断つという流れだ。

禁煙は1週目の大きなシールで成功した。
シールを貼った状態で無理やりタバコを吸ったことで、
気持ち悪さと恐怖がしっかり印象に残った。
5日ほどシールを貼ったとこで禁煙が成功したので、
残ったシールを他の同僚に渡して感謝された。


小学3年生のときだった。
ある日、突然父親がタバコを辞めると言い出した。
しかし、3日後には何食わぬ顔でタバコを吸っていた。

「禁煙は嘘だったね」
ごくごく当たり前のことをいった。

すると父親の顔が真っ赤になり、
「親に対してなんて口の聞き方だ」と怒り出した。

鬼の形相のまま、怒りが収まらず、げんこつを食らった。

「なんで叩くの?」
なぜ殴られたのかわからず困惑した。

「親に対しての口の聞き方じゃない」
殴ったにもかかわらず、まだ真っ赤な顔をしていた。

「勝手にタバコをやめると言い出して、勝手に吸い始めるのは嘘つきやん」
当たり前の疑問をぶつけてみた。

「あ?」
さらにげんこつを食らってしまった。

大人が何を考えているのか、
さっぱり理解できずに泣きじゃくった。
急にタバコをやめるといい、
数日後には、いつものようにタバコを吸っていた。
こどもが正直に思ったことをいうと、怒り狂い、殴られる。
大人の考えはさっぱり理解できなかった。

ニコチンシールを使ったとはいえ、
大人になった自分は簡単にタバコをやめることができた。
殴られたのはいったいなんだったのだろうかと悲しい記憶が蘇ってきた。


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