繋がりたいけど繋がれない 映画『フラグタイム』評

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 百合が好きです。
 ええ、もちろん。花のことではなく、女性同士のアレのほうです。
 けれど、どうしたことかここ最近、地獄のような百合作品に当たることが多く(そういうの大好物なクセに)、たまには癒されたいな~と思っていたところに飛び込んできたのが本作でした。
 原作はさとのコミック。監督・脚本は『あさがおと加瀬さん。』の佐藤卓哉。
 いや、この前作『あさがおと加瀬さん。』がですね、素晴らしい百合だったもので。それは期待に胸を膨らませて劇場に向かうわけです。

 予告

 結果。

 ぬるくねえ!

 最初は気弱な主人公・森谷さんを、見るからに強キャラな村上さんがグイグイひっぱっていく、悔しいっ、でもドキドキしちゃう!な乙女展開が続くのですが、終わってみれば人と人とのコミュニケーションについてガチで向き合うという、哲学めいたテイストさえある青春映画でした。

 3分間だけ時間を止める能力を持つ森谷さんが、ふとした出来心でベンチに一人座って読書している村上さんのスカートをめくったところ、なぜか彼女にだけは時止めの力が効いておらず――という導入。
 JOJO読者ならば誰しも「DIO様より強い!」と思うところでしょうが、そこはグッとこらえて頂きたい。
 それよりも、森谷さんの弱みをにぎった村上さん。ニンマリと笑いながら「時間を止めて女の子のスカートめくったりしてたんだ」「とんだヘンタイだね」などと言葉攻めをするのがたまりません。この小悪魔!
 完成度がたいへん高く、ツッコミどころの少ない本作ですが、このスカートをめくるくだりに関してはやや唐突な印象。
 おそらくこれは、原作にあったモノローグや、顔をさわったりといった前段階を削ったためでしょう。

 その後も「その力、私のためだけに使ってね」と森谷さんを占有しにかかる村上さん。
 村上さんは私を利用してるだけ? と不安になったり、森谷さんを好きな小林さんの参戦で村上さんが嫉妬したり、時止めが徐々にコントロールできなくなったりといった事件が起こり、「秘密の時間」を共有する二人にすれ違いが生じ始めます。
 この辺の不穏な雰囲気が見事で、いつ決壊するかとハラハラしっぱなし。
 いきなり周囲の人々の動きが止まったので村上さんが振り返ると俯いた森谷さんが立っている、とかどう見てもホラーですし。
 他人との距離を詰めるのって、それが好きな相手であればあるほど怖いものだということが嫌でも実感できます。

 最終的に、二人の抱える問題が露わになり、真正面からぶつかり合うことで解決に向かうわけですが、精神科に通院経験のある友人曰く「どっちも病気」だそうでw(未見の方も、ご覧になればわかると思います)
 ともかくも、本作は「根本的に他者とは分かり合えない」という視点に立っているのが素晴らしい。
 これがホラー方向に振り切れてしまうとデヴィッド・フィンチャー『ゴーン・ガール(名作!)』になってしまうんですけど、その上でなお分かり合いたい、繋がりたいと願うならば、ということを描いていると言えます。
 最初は、クライマックスで気持ちを全部セリフで説明しちゃってもったいないなーと思ったんですが、本作はこの「言葉にすること」こそが重要なんだと、いまは思ってます。
 これも名作『超人機メタルダー』OPの歌詞にはこうあります。

 愛が欲しければ 誤解を恐れずに ありのままの自分を 太陽に晒すのだ

 そうです。誤解は前提なんです。
 この「根本的に分かり合えなえい他者」については、中島梓がBL(当時はまだJUNEと呼ばれていた)論で語っていまして、セックスはその壁を乗り越えようとする行為だとか、そんなことを言ってました。

 セックスといえば、主人公の二人がちょいちょい止まってる最中にエッチなことをしようとするんですけど、3分って絶妙に短いですよね。
 かの手塚治虫は、超多忙な中どうやって何人も子供を作れたか、という質問に、

「あんなもの、5分もあればできますよ」

 と答えたそうですが、それよりも短い!
 ましてや女同士って男女より時間かかりそうだし。よく知らないけど。
 あと映画の内容とは関係ないんですが、私が鑑賞した回に小学生くらいの娘さんを連れたパパが来てました。
「今日は娘連れて映画にいくぞ。なんか女の子が主人公のアニメやってるし、これにするかー」くらいのノリだったとしたらご愁傷様。
 さぞかし気まずかったことでしょう。

                            ★★★★☆

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