映画『英雄は嘘がお好き』感想

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 他人の意見に左右されるな。自分の頭で考えて行動しろ、とはよく言われますが、私の場合、誰かが「この作品面白いよ!」と言っているのに出くわすと、すぐに「え、そうなの? どれどれ……」となってしまうんですね。
 でも、斜に構えてその作品を観ない、読まない理由をあれこれ並べたてるよりもよほど良いし、多くの作品にふれればそれだけ当たりも引けるわけで、面白いものをたくさん吸収できる。
 最近ヒマをぶっこいてはいても物書きの端くれとして、心は常に柔らかく保っておきたいものです。
 というわけで、今回はマンガ家の速水螺旋人さんの「今年ベスト1かも!」という大絶賛ツイートを見かけて観に行った『英雄は嘘がお好き』です。

 予告

 エリザベットのでっちあげた武勇伝に乗っかって美味しい思いがしたいヌヴィル大尉と、嘘がバレるのを恐れるエリザベット。
 一方エリザベットの妹ポリーヌは、ヌヴィルが死んだと思って別の男性と結婚し子供も生まれたけれど、英雄として凱旋したヌヴィルを前に、当然未練も後悔もある状態。
 これで何か起こらないはずもなく、抱腹絶倒のすったもんだが巻き起こるという次第。
 いやあ、愉しいです。
 ついつい筆が乗って作り話が大げさになったり、妹に不貞を働かせまいと今まさにコトに及ぼうとしている現場に凸したり、凡庸を絵に描いたようなポリーヌの旦那が実は……だったり。
 特にエリザベットとヌヴィルが互いの作り話にダメ出ししあうくだりはまるで作家と編集者のようなやりとりでおかしい。「え、ワシ子供助けられないの?」「そのほうが泣けるでしょ」「安直だろ……」「はぁ!?」みたいな感じ。
 とにかく頭を空っぽにしてゲラゲラ笑える映画なので疲れてるときでもオススメです。
 けれど、ついにブチ切れたエリザベットがなにもかもを台無しにするために、ヌヴィルのかつての上官(直接面識はなく、ずっと上の人だが)をパーティーに招待してからの顛末は、ちょっと考えさせられると同時にホロリと泣ける。
 誰も彼もが、自分の見たいものしか見ていなかった。
 真実は得てして残酷で、嘘が誰かを救うこともある。
 両者は対立するものではなく、それぞれに異なった価値や有用性があるのです。

                             ★★★★☆

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