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【小説】怪獣専門誌の編集部が巨翼と邂逅する話/エピローグ

ラドンを追うことに情熱を燃やす女性ライターと、出版社のお荷物・怪獣専門誌編集部によるドタバタお仕事物語

最初(プロローグ)から読みたい人はこちら

エピローグ:ここに残ったもの

『怪獣公論』が社の期待ほど売れていない。

 それに加え、無理のある取材経費の申請も付け入る隙を与えた。

 さらに不味いことも起きた。怪獣シェルター紹介記事のなかで、間接的とは言えラドンによる経済効果にも言及していた。それをラドン擁護と捉えた一部の読者から、クライアントである帝洋丸友不動産へクレームが複数入れられる事態に発展したのだ。 

 上層部がこれを問題視しないはずがなかった。


 その辞令が発表されたのは、『怪獣公論』発売からしばらく経ってのことである。

 飛倉は編集長としての任を解かれ、一編集者として書籍第一部への勤務を命じられた。

 千若も他部署へ異動となった。

 そして、書籍第二部の廃止が決定された。

「そんな会社、辞めちゃえばいいじゃないですかッ!」

 書籍第一部の片隅。新たに当てがわれた机で飛倉がパソコンのセットアップを進めていると、隣の空き机に腰掛けた●●が話しかけてきた。

「辞めて何しろっての? 今さらフリーでやっていけるほど俺にはバイタリティも人望もないよ」
「そんなことないと思いますけどね!」
「それに、辞めるのはいつでもできる。俺はまだこの会社でやり残したことがあるような気がしていてね」
「ふーん。まぁそれも良いかもしれないですけどね……」
「●●さん!」

 振り向くと、千若が事務用品と編集資料をまとめた段ボールを抱えて立っている。

「ちょっとそこ退いてくれます? 僕の机ですんで!」

 飛倉は目を丸くした。

「あれ? 君のことは雑誌編集部へ推薦しといたんだがね。なんでこっちに来たの?」
「なんでだって良いじゃないですか。ねラドン先生!」
「ふふ、良いんじゃないの? あッ! もう時間だ!私、今日、熊本大に用事があるんでこの辺でッ!」
「えぇ⁉︎ 今から熊本⁉︎」
「じゃねッ!」

 ●●はそう言い残すと編集部の階段を駆け降りていった。

「ラドン先生っていつもあんな調子で疲れないんですかね……?」
「さぁね」
「それはそうと編集長! 総務のアライって奴から会社に届いてた編集長宛のお手紙預かってきましたよ」
「千若くん、編集長って呼ぶのはやめないか。もうそんな肩書きじゃないんだから」
「だってお手紙にも書いてありますよ、編集長様、って」
「うん?」

 封筒を受け取って宛先を確認する。半年前に編集したあの復興旅行ムックの編集長宛てだ。差出人の住所は熊本県芦北。

 飛倉はピンときた。急いで封筒を開くと、中から便箋とともに一枚の写真が出てきた。

 ふたりで覗き込む。

 写っているのは、バスで出会った女性とその息子、そして彼女の父親。再建が進む海鮮料理店のオープンテラスで、仲良く食事を囲んでいる。カメラを向けられた父親の表情が若干こわばっているのが少し面白い。

「良い写真じゃないか。誰が撮ったの?」
「さぁ、僕は知りませんけど。おおかた、編集作業の真っ最中に熊本まで飛んで行っちゃった誰かさんの仕業じゃないですか?」




おわり


※この物語はフィクションです。登場する人物・企業・出来事は、実在する如何なるものとも無関係です。




◆執筆の参考にした文献リスト
樋田敦子・著『女性と子どもの貧困』(2015)大和書房
矢守克也・編著『被災地デイズ』(2014)弘文堂
毎日新聞「震災検証」取材班『検証「大震災」伝えなければならないこと』(2013)毎日新聞出版
関礼子・編著『被災と避難の社会学』(2018)

◆ ◆ ◆

特撮怪獣映画『ゴジラ』(1954)でヒットを飛ばした東宝が、1956年に公開した『空の大怪獣ラドン』。いいですよね『空の大怪獣ラドン』。2年後、2026年には70周年です。

先日、調布シネマフェスティバルの『空の大怪獣ラドン<4Kデジタルリマスター版>』上映イベントに行ってきたのでレポも書きました。

★この小説は、本作のファンサークル「ラドン温泉」が2022年冬のコミックマーケットC101で頒布した合同誌に収録されたものです。ラドン70周年を盛り上げるべく、修正して公開します。

元ネタは友人のキミコさんによる短編の世界観です↓

元ネタ(聖典)↓

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