会計帳簿記帳代行はどういうところに依頼するのが一番いいの?

 以前に書きました「税理士と行政書士のイメージの違い」の部分から、会計帳簿記帳業務(以後記帳代行:いわゆる毎日の仕訳入力作業→総勘定元帳→期末の貸借対照表・損益計算書までの作成)に関して少し掘り下げたいと思います。

 主に中~小規模の事業主さんに向けての内容になると思います。

 おさらいになりますが、昭和55年4月1日参議院大蔵委員会にて「財務諸表・帳簿記帳代行は自由業務」との発言があることが、税務申告「より前の」財務諸表に至るまでの業務受託に資格は不要、ということの根拠になっています。

 私も知り合いに記帳代行会社を経営されている方がいらっしゃいますから、一概に非難することはできません。ある意味ライバル関係とも言えるでしょう。なので客観的に委託先それぞれのメリット・デメリットをまとめてみようと思います。

1:記帳専門会社の場合

 士業ではない記帳代行会社に委託する場合、おおまかなメリットとしては、

 ① 税理士先生に依頼するより安価であることが多い
 ② 税務申告まで任せているわけではないので、業務の質や対応で不満なときに、委託先を乗り換えやすい

 個人的にはこのあたりなのかと思います。

 そして記帳代行会社に委託する場合に、(比較論として)考えられるデメリットは、

 ① 損益を合わせることが主眼であり、税理士のような知識はないケースも想定されるため、適正な税区分に基づいた処理がされるとは限らず、税務署からの指摘で後に修正申告が発生しないとも限らない。
(ただし、税理士先生が別法人として株式会社を作って代表を兼務し、ここで記帳代行を隣接ビジネスとしてやっているためこのデメリットがないという、特殊なケースもあります)
 ② 守秘義務が職として法定されているわけではないので、機密漏洩の事故が発生してしまった場合の損害賠償条項は、契約前によくよく検討しておく必要がある。

 行政書士の立場としては、特に「②に関してはしっかり業務委託契約書を確認してください」と申し上げておきます。このあたりがうやむやですと、万が一の事故の場合に余計な訴訟で手間取らないとも限りませんから、自信がない方はそれこそ行政書士や弁護士などに、先方から出された契約書のフォームを見てもらったほうが(いわゆるリーガルチェック)良いかもしれません。(有料でしょうが)

2:税理士の場合

 一方で、税理士先生に委託する場合のおおまかなメリットは、

 ① 税法に則った仕訳を行ってくれる
 ② 守秘義務が税理士法で法定されているので、非士業業者よりは漏洩事故が起きにくいと期待できる

 デメリットとしては、

 ① 単純作業ということもあり、そもそもやってくださらない先生も結構いらっしゃるので、その場合はその税理士先生が納得する委託先を探すか、他に丸抱えでやってくださる税理士先生を探し回るか、あきらめて自分たちで仕訳をしなければならなくなる。
 ② 無資格業者よりは、業務委託コストが高いケースもあり得る。
 ③ 税務申告も一緒に任せるケースも多いため、将来記帳業務だけを社内で行うように切り替えることが付き合い的に難しいかもしれない。
(このケースは最近では少ないでしょうか……)

 対比的にこうなるでしょうか。

3:行政書士等他士業の場合

 行政書士などの他士業に委託する場合のメリットは、この2者の中間的イメージになります。

 ① 引き受ける業務として掲げている士業なら、多忙でない限り当然引き受ける。
 ② 税理士と連携が取れている士業なら、税法に則った仕訳を行ってくれる可能性が高い。
 ③ 守秘義務が税理士同様、各士業法で法定されている。例えば行政書士の場合は、行政書士法第12条と第22条に定められており、違反した行政書士は1年以下の懲役か100万円以下の罰金が科される。
 ④ 財務内容によって、例えば助成金や公的融資の申請などそれぞれの得意分野に応じたコンサルティング提案をしてくれる可能性がある。

 デメリットもやはり中間的で、

 ① 知り合った士業が、会計記帳業務を受託してくれるとは限らない。
 ② 税理士と連携が取れていないなら、税法に則った仕訳をしない可能性がある。
 ③ 記帳代行以外の、例えば建設業などで業務を恒常的に委託しているなどの場合は、記帳代行委託だけを断るというのは、場合によってはやりにくい。

 委託コストに関しても、やはり2者の中間程度が多いかもしれません。
 こうして比較して、どこを重視するかによって業務委託先を考えるべきでしょう。

4:まとめと注意点

 私が書くのもなんですが、「税理士先生が代表を務めている」記帳代行子会社への委託が、メリットデメリットのまとめだけ見ると最高かもしれません。
(あなたの近くにそういう会社があればですが)

 ただビジネスというのは効率重視はもちろんですが、業務が全て文字だけ・ネットだけのやりとりでミスなく進むわけとも限りませんから、いざという時の担当者との人間的相性という点も、みなさんご存じの通り重要です。

 あと、代行業者や税理士以外の士業に委託する場合で重要なのは、やはり「税務申告は」税理士でなければ行ってはいけないということです。

 代行せず仕訳入力から全部あなたが行っていれば、納税者本人で申告も行って構いませんが、そういった方はそもそもこの文章にはマッチしない方です。

 税理士以外の代行先(=受託者)が仕訳入力してまとまった税務申告書に、納税者本人で署名捺印して申告した場合、税理士法第52条違反で「受託者が」2年以下の懲役・または100万円以下の罰金を受けて、かつ社会的信用を失います。

 委託者のあなたには直接罰則はありませんが、まともな受託者なら必ず「申告税理士が存在すること」が受託契約にあたっての条件でしょうから、「会計帳簿記帳を誰かに代行するなら、税務申告は税理士先生に委託する」と覚えてください。

 記帳代行の具体的な作業イメージに関しては、請求書・領収証や通帳のコピーなどを月に一度代行者に渡し、まとめて代行先が所有するパソコンで入力してもらう、という感じです。

 社外にコピーを出したくないという場合は、あなたの事業所に出張滞在して入力してもらえるところもあるはずから、尋ねてみるといいでしょう。

 気になるコストの話ですが、行政書士ならばおおむね月1万円程度から引き受けるところが多いようです。これは毎月の仕訳の数によって変動するはずです。
 社内で経理担当を抱えた場合と記帳代行を比べると、毎月の仕訳の数によってコストの損益分岐が変わりますから、このあたりでメリットが出るかどうかで考えると良いかと思います。

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