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稲盛和夫さんの経営と、VUCAの時代観。

 最近、経営者さまと話をしていて感じる一つの流れがあります。自社の存在意義や使命を改めて掘り下げられたり、ビジョンを再考されるなど、経営の本質に立ち戻った内省をされる方が多いようです。「自社は、お客さまや社会に何ができるのだろう」「社員と会社はこれからどのような関係性を築くべきだろう」といった問いを自らに投げかけられています。

 こうした動きは、コロナ禍で加速しているように感じます。例えば、休業をするのかどうかの判断や、リモートワーク下でのチームビルディングをデザインする際に、前述のような問いが生まれています。前例に頼れず、状況分析もさして役に立たない課題に対しては、経営や仕事の「目的」や「ビジョン」に照らして意思決定する必要があるのでしょう。

 目的やビジョンを志向する経営は、バズワードとなった感のある「VUCA」時代の1つの潮流ではないかと推測します。Volatility(不安定性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity (曖昧性)の4文字が表すような、将来の予測が困難な状況にあっては、自らがやるべきこと、やりたいことをしっかり見極め、そこに向かっていく強い意志が求められるのでしょう。その上で、変化を乗り越える大胆さやしなやかさを発揮することで、困難にぶつかっても経営を前進させられるのではないでしょうか。

 このような時代観と経営の関係を考えると、稲盛和夫さんの経営思想を連想します。
 稲盛経営12ヵ条の第1条は、

「事業の目的、意義を明確にする」

です。
 稲盛さんは、京セラとKDDIの経営において、またJALの再建において、経営の目的は全従業員の物心両面の幸福の実現にあると明言し、従業員が幸せになることと、顧客や社会へ貢献していくことを同一線上でとらえておられたそうです。この理念を揺るぎない信念にされていたことから、従業員から信頼され共感を得て、また経営判断を誤ることなく、組織の力を最大限に発揮されたのではないでしょうか。

 稲盛さんはまた、ご自身の経営思想を「ミッション」「ビジョン」「フィロソフィ」という3要素で体系づけられています。

 ミッション /経営の目的、使命
 ビジョン  /経営者の夢、願望、目標
 フィロソフィ/仕事や経営のあるべき考え方、
        方法、心構え

 懇親会の席などで稲盛さんは「いつの日にか京セラを日本一、世界一に会社にしよう」というビジョンを従業員に伝えてこられたそうです。このメッセージは、高度経済成長期の日本にあって、高揚感をもって従業員に受け入れられ、心に刺さったのではないかと推測します。

 目的を明確にして、目指す姿を示し、かかわる人の共感を得て前進する力にする。時代は変われど、優れた経営思想に学ぶことは多いと思う次第です。

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