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「魔剣づくり」_第1鍛

〇魔王城

魔王と対峙する勇者一向(3人いる)。

アーリアス(人間の勇者・男)、額から血を滴らせ肩で息を切らしながら、
アーリアス「信じていいんだな?」

相対するヘリク(魔王・男)は無傷。
ヘリク「あぁ。俺とて魔族の王だ。契約は履行する」

壊れた魔剣。

アーリアス、ジェンド(アーリアスの仲間のエルフ・男)に目をやって、
アーリアス「頼めるか?」

瞬きする勇者一向の3人。
ジェンド「信じるのか。相手は魔族。それも長だぞ」
アーリアス「ジェンド。異種族だからという理由で猜疑のまなざしを向けるのはよくないよ」

アーリアス、ヘリクを見つめて、
アーリアス「僕が欲するのは諍いのない誰しもが平等に平和を享受できる世界だ。人類が頂点に立つ世界じゃない」
アーリアス「ここでヘリクを討てば人の世に平和が訪れるだろう。けれど他の種族はそうはいかない。人類という種族が絶対的な権威を持ち、他の種族は人類に平伏することになる」

サーシャ(アーリアスの仲間のドワーフ・女)「アーリアス。それは空想よ」
アーリアス「わかってる」
アーリアス「けど、それはこれまでの常識に当てはめたらの話だ」

アーリアス「ジェンド、サーシャ」
アーリアス「僕たちはこれまでの常識を壊して新しい常識を作るんだよ」

アーリアス「これはそのための第一歩さ」

〇フォルジェの家_鍛冶工房

金属を叩くフォルジェ(ジェンドの孫のエルフ・女)。
その様子を見守るジェンド(容姿は過去と変わらない)。

叩いて、焼いて、冷やして……

フォルジェ「できました」

完成した包丁を観察するジェンド。
ごくりと喉を鳴らすフォルジェ。

ジェンド、微笑をたたえて、
ジェンド「合格だ」

フォルジェ、ぱぁ~と微笑んで、
フォルジェ「やった~!」
ぴょんぴょんと飛び上がる。
ジェンド「これからも鍛錬を怠らないように」

〇フィナソフィナの街

活気づき栄えた欧米風の街並み。

駆けるフォルジェ。
街の人に何度も声をかけられる。

竹刀を振るサンリー(アーリアスの孫)。
フォルジェ「サンリー!」
サンリー「よ、フォル。どうしたんだそんなに慌てて」
フォルジェ「私、鍛冶職人になったよ!」

ぱちぱち瞬きして、
サンリー「おめでとう」
柔らかく笑む。

フォルジェ「約束通り最初はサンリーの剣をつくってあげるからね」
サンリー「最初の顧客が未来の勇者だなんてツイてるなフォルは」
フォルジェ「勇者なんて言葉はもう死語だよ」

フォルジェ(M)「その昔、人間が魔族をはじめとする異種族と対立する時代があったらしい」
街を行き交う様々な種族。

フォルジェ(M)「その時代に終止符を打った人間を、この街の人たちは〝勇者〟と呼んで讃えている」

サンリー「は~、時代が時代なら俺も勇者になれたのになぁ」
フォルジェ(M)「サンリーは、その勇者様の孫だ」
フォルジェ「いいじゃん。勇者が暇なのは平和の証だよ」

〇フォルジェの家_ジェンドの部屋

血の付着した手。

口から血を垂らすジェンド。
ジェンド「せめて明日まで…」

仲間と撮った写真。
ジェンド「力を貸してくれみんな」

〇フォルジェの家_リビング

机の上には夕食が並んでいる。

にこにこ顔のフォルジェ。
フォルジェ「早く明日にならないかな~」
ジェンド「なにか予定でもあるのか」
フォルジェ「うん、サンリーの剣をつくるの」
ジェンド「そうか。午前中は私が工房を利用する予定があるんだ。サンリーとの約束は午後からでも構わないか」
フォルジェ「うん、いいよ。お依頼?」
ジェンド「あぁ。大切な大切なお客様からのご依頼だ」
首を傾げるフォルジェ。
フォルジェ(M)「誰だろう」

〇フォルジェの家_ジェンドの部屋

血反吐を吐き、朦朧とするジェンド。
その脇に人影(フォルジェの父親)がある。
ジェンド「すまない。アーリアス」
フォルジェの父親「……」

〇フォルジェの家_リビング

朝食を用意し、じっと待つフォルジェ。
フォルジェ「…遅いなおじいちゃん」

ジェンド「いいかフォルジェ。私の部屋には決して近づくな」
フラッシュバック。

フォルジェ(M)「うぅ…おじいちゃん怒ったらこわいもんなぁ」

お腹を鳴らしつつも、律儀にジェンドを待つフォルジェ。
部屋の扉の開く音にハッと顔をあげる。
椅子から飛び降り、リビングの扉を開けるフォルジェ。

フォルジェ「おはようおじいちゃん。今日は随分……」

フォルジェの父親の首を持つヘリク。

硬直するフォルジェ。
すとんと腰を落とす。

ヘリク「末裔か」
フォルジェ「……」
フォルジェ(M)「お父さん…だよね?」

ヘリク「末裔かと聞いている。答えろ」
フォルジェ「……」

腰に携えた剣を目にも止まらぬ速さで抜くヘリク。
不意打ちが防がれたことにサンリーは驚く。

ヘリク「勇者の末裔か」
サンリー「あぁそうだよ。あんた今フォルを傷つけようとしたのか」
ヘリク「していない。問い質していただけだ」

床に転がるフォルジェの父親の首。
ぞっと青ざめた顔をするサンリー。

サンリー「………だ」
ヘリク「ん?」

震えつつも、木刀をヘリクに突き立てるサンリー。
サンリー「俺は勇者だ! だから逃げない!」
ヘリク「勇猛だな。賞賛に値する。しかし争う気はない」
剣を収めるヘリク。

ヘリク「問おう。この女はジェンドの末裔か」
いつの間にか首根っこを掴まれているフォルジェ。

サンリー「フォル!」
ヘリク「ジェンドの末裔かと聞いている。もう一度だけチャンスをやる。答えろ」
サンリー「あぁそうだよ。フォルはジェンドさんの孫だ。それがどうした」

ヘリク、微笑んで、
ヘリク「そうか。答えてくれたことに感謝する」

魔法で突如として姿を消すヘリク。
サンリー「…なんだよこれ」
床に転がるフォルジェの父親の首。
サンリー「…勇者が平和な世をもたらしたんじゃなかったのかよ」

〇フォルジェの家_鍛冶工房

目を覚ますフォルジェ。
フォルジェ「ん…」
ヘリク「目覚めたか」

正面に腰掛けるフォルジェに擬態したヘリク。
ぎょっとするフォルジェ。

フォルジェ「え、わた、私が、ふたり?」
ヘリク「難しいな他種族は。まるで心の動きが理解できん」
指をパチンと鳴らすヘルク。元の姿に戻る。

フォルジェ「あ、あぁ」
ヘリク「恐れるな。俺は客人だ。お前に魔剣作成の依頼をするためにここにいる」
フォルジェ「お、お客さん?」
ヘリク「そうだ。お前の父親の黒魔術に毒されてジェンドが命を落としてしまったからな。であれば、末裔のお前に頼むしかあるまい」
フォルジェ「…なに言ってるんですか?」
フォルジェ(M)「おじいちゃんが、お父さんの黒魔術で命を落とした?」
ヘリク「事実だ。故にお前の父を殺した。勇者との契約だからな。万一僕らの誰かが殺されたらその相手を屠れ、と」
ヘリク「あの男は平和を謳いながら、根はどこまでも人間だった。私利私欲という概念が存在する以上、真の平和を築きあげることはできない」
ヘリク「そもそも平和なんて存在しないんだ。お前もそう思うだろう」
フォルジェ「…いいえ、平和は存在します」

ジェンド「フォルジェ。鍛冶はつながり無くして成立しない。平和の中でつながりという細い糸が紡がれれば紡がれるほど、私たち鍛冶職人は質の高い商品をお客様に提供することができるんだ」
フラッシュバック。

フォルジェ「お父様が五十年前に魔王様に魔剣を提供できたのは、この世界で平和である証に他なりません!」

面食らうヘリク。
ヘリク「ふっ、腐ってもあいつの末裔というわけか」

フォルジェ「…確認です。あなたの言っていることは真実ですか」
ヘリク「あぁ真実だとも。偽る理由がない。疑っているのか」
フォルジェ「いいえ。信じがたい話ですが、あなたからはまるで嘘をついている気配を感じません。魔族だからという理由で疑うのはまちがっていると思うので」
ヘリク「ふっ、なるほど。これがお前の作りたかった時代か」

フォルジェに魔剣の設計図を手渡すヘリク。
ヘリク「一年間だけ待ってやる。完成しなかったら契約破棄だ。俺を失望させるなよ小娘」

フォルジェの返事を待たずにいなくなるヘリク。

フォルジェ「…魔剣の設計図だ。あの人がおじいちゃんの言ってた魔王様だったのか」

ページを開くフォルジェ。難しい顔をする。
フォルジェ(M)「知らない素材だらけ」

ジェンドの部屋に足を運ぶフォルジェ。
ジェンドは事切れている。回復魔法を使っても変わらない。
フォルジェ「おじいちゃん…」
フォルジェ(M)「魔王様が言ったように、お父さんがおじいちゃんを殺害したのだろうか」
フォルジェ(M)「でも、どうして…」

サンリー「フォル!」
部屋の入口にいるサンリー。駆け寄ってフォルジェを抱き締める。
サンリー「よかった。お前だけでも無事で」
フォルジェ「サンリー、私これから旅に出る」
サンリー「は?」
フォルジェ「ついてきてくれる?」

フォルジェ(M)「駆け出しの鍛冶師だからなんて言い訳はできない」
フォルジェ(M)「私がおじいちゃんに代わって魔剣をつくるんだ」
フォルジェ(M)「この世界が平和であることを証明するために――」

第1鍛 了



























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