見出し画像

「なんだかんだでカップラーメンが至高です」_第2話

〇光の家(リビング)_夜
机の上に雑然と並ぶビール缶。

仁枝「なに!? もう飲めないの!?」
光「いや、飲めないってことはないですけどそろそろ潮時じゃないかなって」

顔を真っ赤にして、缶ビールを勢いよく呷る仁枝。

仁枝「はぁ。忙殺されて恋にうつつを抜かすこともなく、気づけば三十路を割って独り身まっしぐらなんだろうなぁ」
しょんぼりして瞳の端に涙をためる。

光「あはは、編集って大変ですねぇ」
光「(この人酔ったら厄介な類だな)」

光の頬を指でなぞる仁枝。

仁枝「君のこと、先約していい?」
光「っ!?」

仁枝「なぁ~んてね! はは!動揺しちゃってかぁわいいなぁ」
光「(くそっ、一歳年上ってだけでガキ扱いしやがって)」

………。

……。

〇光の家(リビング)_夜

寝室で涎を垂らしながら寝つく仁枝。

水道の水を飲む光。
光「ふぅ。差し飲みは今後願い下げだな」

ちらちらと背後に目を配る光。
食器棚から片手鍋を取り出し、蛇口を捻って水で満たす。
コンロに置いて着火。

光「っし、今日は食えるぞ」

冷暗所から、昨日コンビニで買ったカップ麺を取り出す。

〇過去回想
保管していたカップラーメンをロック付きケースに封印する仁枝。
涙目で正座する光。
仁枝(過去)「これで全部?」
光(過去)「はい」
光「(部屋に荷物といっしょに置いてなければこいつも封印されてたもんなぁ)」

〇現在軸に戻る
水が沸騰する。
光「よし、あとは…」
ルイス「いい匂い」
光「っ!?」

寝惚け眼をこするルイス。
ルイス「それ食べたい」
光「(んなこと言ってる場合か?)」

光「君、名前は?」
ルイス「|東雲(しののめ)ルイス」
光「(髪色からわかっちゃいたけどハーフか。片言だけど日本語は通じるっぽいな)」

光「家はどこだ?」
ルイス「そんなことより、ダシダ多めでちょっと辛めの味噌ラーメンplease」
光「え?」
光「(なんでこれが味噌ラーメンってわかるんだ?)」

味の書かれていないカップ麺のふた。
光「(まだ匂いが立ってるわけでもないのに)」

ルイス「please」
光「あ、うん」

ふたを開ける光。中身を見て驚く。
火薬と、ダシダ粉末と、味噌粉末と、味噌スープが入っている。
光「(…偶然? いや既に食ったことがあるのか?)」

カップラーメンが完成する。
ずるずるすすり、ご満悦のルイス。

ルイス「Delicious」
平らげて、手を合わせる。

水を飲むルイスとジト目を刺す光。
ルイス「どうしたの」
光「いや、なんでもない」
光「(限定品だったのに)」

光「俺は五津光。ゴミ捨て場で倒れている君を見つけて家まで連れてきた」
ルイス「Oh、Thanks。光いいひと」
光「はは、そりゃどうも」
光「(ここは疑うべき場面だと思うんだけど…)」

光「年齢は?」
ルイス「19」
光「日本で家族と暮らしてるの?」
ルイス「Yes。おとさん、たまにしか帰ってこないけど」
光「どうしてゴミ捨て場に?」
ルイス「そういう気分だった?」
光「いやどんな気分だよ」

光「(見た感じ、誘拐されたって通報されることはなさそうだな)」

光「住所わかる?」
ルイス「Yes」
光「じゃあ帰ろう。送り届けるよ」
ルイス「No。ルイス家出してるから帰らない」
光「(まぁそんな気はしてたよ。キャリーケースぱんぱんだったし)」

光「駄目だ。帰りなさい」
ルイス「ルイス、いい子いい子する」
光「そういう問題じゃないんだよ」
光「(フリーターの上、未成年の少女を監禁なんて悪評までついたら人生終わりだ)」

ルイス「じゃあ一日だけ。もう暗いから」

泣きそうな顔をするルイス。
光、悩んだ末に、
光「…わかった。今晩だけな」

ぱーっと顔を輝かせるルイス。
ルイス「Thanks! やっぱり光いいひと!」
光「(ここで彼女を強引に追い返さなかったことを、俺は後に後悔することになる)」

………。

……。

目を覚ます仁枝。寝室を出てリビングに。

〇光の家(リビング)
仁枝「おはよー」
光「おはようございます」
ルイス「good Morning」
仁枝「ん?」

ルイスをじっと見つめる仁枝。
仁枝「…妹?」
光「あんたが拾ったんでしょうが…」

仁枝「あぁ、そうだったそうだった。あたしは榊原仁枝。よろしくね」
ルイス「東雲ルイス。19。Nice to meet you」
仁枝「綺麗な発音。日本とどこのハーフなの?」
光「(この人、すごいフレンドリーだよな)」
ルイス「JapanとFrance」

朝食を終える一同。

光「じゃ、帰るぞ」
ルイス「No」
光「いや一日だけって約束だろ」
仁枝「まぁいいんじゃない? 本人がこう言ってるんだし」
光「だからここは俺の家で…」

俯いて悲しそうな顔をするルイス。

光「…なにか事情があるのか」
ルイス「深くは話せない」
光「そっか」
光「(まぁ19だし、その辺りの決定権は本人に委ねられてるよな)」
光「…わかった。気持ちの整理がついたら帰れよ」

ぱーっと顔を輝かせるルイス。

ルイス「やっぱり光いいひと!」
光「その代わり、なにかしらの形で俺に貢献しろ。どんな形でも構わない。それが出来ないなら追い出す」
仁枝「甘いなぁ。いつか痛い目見そう」
光「手始めにあんたから追い出しますよ?」
仁枝「誰に向かって口を効いているのかな~?」

関節技を決められてタップする光。

光「素人の動きじゃないだろ…」
仁枝「ま、格闘技を嗜んでるからね。週一でフィットネスジムに通っているの。光くんも来る?」
光「気が向いたら」
仁枝「返事は〝はい〟よ?」

にっこり笑顔の仁枝。

光「あなた上司になっちゃいけない人種ですね」

ルイス「OK。じゃあふたりをHelpする」

テレビを指差すルイス。
画面に映るのは、芸能人が「肉まんの中身を当てろ!」という企画に挑戦している場面。

ルイス「左はしらす揚げ、真ん中は黒豚、右はしらこ」

すべてルイスの予言した通りになる。

驚いた顔をする光と仁枝。
光「(偶然だと思っていた)」
光「(けど、昨夜のは偶然なんかじゃなくて…)」

ルイス「ルイス、見たものの味がわかる」
ルイス「Food Commentなら誰にも負けない」

自信満々の顔をするルイス。

―第2話 FIN―










この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?