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星色Tickets(ACT2)_SCENE10

※場所選択でヒロイン絞り込み④
星③→校舎裏・星の演劇練習を見守る恭司
瑠奈③→街・疲労の蓄積で本音を包み隠す余裕のない瑠奈(重要①)
あげは③→演劇サークル部室・あげはと演劇鑑賞
アリス③→街・息抜きする恭司とアリス

※以下、瑠奈③シナリオ

//背景:図書館(過去)

恭司『努力家なんだな藤沢って』
瑠奈『……っ!? ストーカーなんて趣味が悪いわね。冷やかしにでもきたの?』
恭司『そんなことしないよ。九教科中八教科が学年一位。けど、家庭科だけが学年二位。むず痒いだろうけど、驕るには十分な結果のはずだ』
瑠奈『……ぐすっ、なにが言いたいの岸本くん』
恭司『あ、俺の名前覚えててくれたんだ。いや~すげぇなって思ってさ』
瑠奈『あっそ』
恭司『だってそうだろ? 仮に生まれ持っての天才なら、高得点を獲ってもなにも感じないのと同様に、二位に甘んじたとしてもこんな風に復習に励んだりはしないはずだ』
瑠奈『っ……!』
恭司『ましてや、あんな風に歯噛みするはずがない』
瑠奈『……どうして』
恭司『だからきっと、誰も知らないところですんげぇ努力してんだろうなぁって』
恭司『……やっぱりそうみたいだな。悪い、邪魔したな。じゃ、また明日』
瑠奈『あっ、待って岸本くんっ』
恭司『ん、どした?』
瑠奈『あ、いや、その……あ、ありがと』
恭司『? どういたしまして。あと俺はなにも見なかった。今日のことは俺たちだけの秘密な?』
瑠奈『……うん』

………。

……。

//背景:演劇サークル部室_夕方
//SE:キーボードを叩く音

恭司「ところで藤沢。駅前にあるこの間オープンしたばかりのスイーツ店って知ってるか?」

自分に厳しく、妥協を許さず。

しかし、適度に息抜きしないと、人間はいとも簡単に壊れてしまう。

そうならないように脚本家の健康管理をするのは、部長兼監督である俺の仕事だ。

瑠奈「いきなりなんの話よ。那須先輩とののろけ話ならまた今度にして頂戴」
恭司「誰も先輩とどうこうとは言ってないけど?」
恭司「でも行ったのは事実でしょ? 隠しても無駄なんだから」

いやいや、なんで当然のように把握してるんだよ。

俺のことを監視……なんてしてるわけないか。

……してないよな?

恭司「ま、行ったけどさ。それでなんだけど、今から一緒にいかないか?」

すもも・星・瑠奈「え?」

藤沢だけ誘ったはずが、返ってきた返事は三人分。驚愕と動揺の眼差しが窓際から向けられているが、俺は構わず続ける。

恭司「ほら、頑張った自分にはご褒美をあげなきゃ。そっちの方が後々効率もいいだろ?」
瑠奈「でもあの店、カップルしか入店できないわよ?」
恭司「なら半日だけ俺と恋人になればいい」

先輩ともそうやって、カップルを装って入店した。

割引がどうこう言ってたけど、そもそもカップルしか入店できないと知ったときは驚いたもんだ。

……まぁ、カップル以外入店禁止と言いつつ、なにか証明する必要もないんだけどな。

すもも「お、おぉ……なんとも大胆な……」
星「せ、せんぱいってやっぱりおおかみ……」

すももと雛鳥は新鮮な反応をしてくれるが、藤沢は疲れ切っているからか、お得意の毒舌を振るってこない。

瑠奈「うんっ。いこ恭司くんっ」

相当疲れてんなぁ……なんて思ってたら、めちゃくちゃ上機嫌に声を弾ませて、にこにこ微笑みながら、藤沢は俺の誘いを快諾した。

……というか、今、『恭司くん』って呼ばなかったか?

恭司「え、えと……じゃあ、一旦作業やめよう?」
瑠奈「するわけないじゃないそんなもったいないこと」

と、さっきまで脚本制作に傾いていた熱意が幻であったかのように、藤沢はノートパソコンを手早く折り畳んで、さっさと鞄にしまってしまう。

……えっと、この子誰?

瑠奈「じゃ、いきましょ」
恭司「あ、あぁ」
すもも「いってら~」
恭司「なにボケっとしてるんだふたりとも。ふたりもいくんだぞ」
すもも「え? これってモモさんと雛ちゃんは部外者の流れでは?」
恭司「部外者なわけないだろ。四人そろってはじめて演劇サークルなんだ」

部の空中分解を避けるためにも、特別扱いはできるだけ避けなくちゃならない。

ここで藤沢だけ連れて行ったら、ただのデートだからな。藤沢も嫌だろそんなの。

星「でもせんぱい、彼女三人持ちって設定は無理があるんじゃない?」
恭司「大丈夫大丈夫。半日だけ雛鳥とすももも俺の恋人に――いたぁ!?」

爪先に激痛が走り何事かと思えば、藤沢がかかとで思いっきり俺の足を踏みつけていた。

瑠奈「一瞬でも期待した私が馬鹿だった。そうね、忸怩くんは忸怩くんだもんねっ」
恭司「な、なに怒ってるんだよ藤沢。……あ、糖分不足か? ならちょうどいいや。俺、あのパフェ全部食べると甘くて辟易しちゃうから、お前が好きなトッピングあげるよ」
瑠奈「そんなことで許すわけ……ん、それって間接……」
瑠奈「……ま、特別に許してあげましょう」
恭司「あ、いいの?」

なら今の間は一体……と気になりはするが、掘り下げるような真似はしない。

藤沢の胸底には地雷しかないからな。追及なんて自殺行為でしかないよ。

………。

……。

//背景:スイーツ店_夕方
 
そして四人で件のスイーツ店に行くと、残念なことに、一日限定二十食のパフェは残りひとつしかなくて、四人でひとつをわけることになった。

星「これくらいのパフェならわたし作れるから、次は部室でゆっくり食べよせんぱい」
恭司「これくらいって……すごいな雛鳥。商品を模倣なんて簡単にできることじゃないだろ」
星「へへ、ずっとお菓子作りに励んできた経験の賜物だよ」
星「……それにさ、四人で入店すると周りからの視線がちくちく痛いから……」

三人とも彼女です。

そう言って入店したはいいけど、ほかの客は当然だけど例外なくふたり一組のカップルで、俺たちはずっと絶対零度と失望と怒りの視線に晒されつづけている。

すもも「おいひ~。きーくん、おかわりっ!」
恭司「お前はどんだけ食べるんだよ……」

雛鳥は委縮し、藤沢もどこか居心地悪そうで、けれどもすももはいつもと変わらない調子で、追加のケーキ(四皿目)を注文している。

お前の腹は異界にでも繋がってるのか?

恭司「にしても雛鳥、逃げ出さないなんて成長したじゃないか」
星「せんぱいが無理難題ばっか押しつけるスパルタ教育を強いてくるから、からだがせんぱいに染まっちゃったんだ」
恭司「そういう誤解を招きそうな言い方はやめような?」

突き刺さる視線がより鋭利になった気がする。

けど、いい兆候だ。少しずつ気弱体質を克服しつつある雛鳥の成長に頬を和らげると、隣の席に座るご機嫌斜めの脚本家が勢いよく爪先を踏みつけてきた。

恭司「いっ!? ……ど、どうかされましたか藤沢せんせ?」
瑠奈「別に。ちょっとイラついただけ」

リア王かお前は。

その後も終始、藤沢は不機嫌で、けれどもいつもより若干砕けた態度なのは、彼女が心を休めている証でもあって……

瑠奈「はぁ……ほんと忸怩くんは忸怩くんなんだから」
恭司「ごめんな甲斐性なしで」
瑠奈「ほんとよ」
瑠奈「……ま、いいけどね。こうして一緒にいられるだけで楽しいし」
瑠奈「楽しい時間をありがとね」
恭司「……」

……と、いけないいけない。つい見惚れてしまった。

……藤沢の満面の笑みなんて、校内の誰も見たことがないんだろうな。

恭司「笑えばこんなに可愛いのにもったいないよ藤沢は」

正面きって伝えるのは恥ずかしすぎるから、心の中でそんな本音をぽつりと漏らす。

瑠奈「え……今、可愛いって……」
恭司「なんか言ったか?」
瑠奈「あ、いや……それってブラフ?」
恭司「それってどれだよ?」
瑠奈「……都合よく解釈しとくか」

その後、何故かはわからないけど藤沢はものすごく上機嫌になった。

女の子ってマジでわかんねぇ……

………。

……。



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