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【読書感想】三浦しをん「愛なき世界」

三浦しをんの「愛なき世界」を読んだ。

三浦さんの作品は、これまで「風が強く吹いている」と「舟を編む」の2作品を読んだことがあるが、
どちらも専門性に富んでいて(「風が強く吹いている」は大学駅伝、「舟を編む」は国語辞典の編集部)、今回読んだ「愛なき世界」も大学の植物学研究室というニッチな舞台だ。

「愛なき世界」は「愛」という概念なく生殖を続ける植物の世界を指しているが、物語自体は「愛」に満ち溢れている。

その対比に感嘆しながらも、最後まで読むと「好きで始めたはずなのに、止まっていたものを少し進めてみようかな」と気持ちを押してくれる作品でもある。

また、三浦さんの作品のすごいところは圧倒的な取材力だ。
読んでいる時はストーリーにのめり込んでいるので気づかないが、読み終わった後、本当に細かな部分まで描写されていることに気づく。
知らない世界を覗き見るだけでなく、本当に物語の中に入って知らない世界を探検できるのだから、三浦さんの取材力と、手にした情報を物語に落とし込む力は本当にすごいと思う。

2023年のNHK朝ドラ「らんまん」は、植物学の父と言われる牧野富太郎をモデルとした神木隆之介主演のドラマであるが、その中に「藤丸」という登場人物が出てくる。
そう、「愛なき世界」の主人公の名前もまた「藤丸」なのだ。
だから、私の中での「藤丸」は、前原瑞樹さん演じる「藤丸」に変換され、なんだか好感が持てる主人公だった。

そういった(自分の中での)偶然の繋がりはあったものの、もちろん「らんまん」を知らずとも面白く読める作品だ。

「大学の植物学研究」という人生の中で関わりなさそうな世界を、ぜひ藤丸と共に見ていってほしい。
自分の「好き」を応援してくれる、そんな物語だ。

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