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回天訓練場へ続く隧道 山口県周南市

徳山湾沖合に浮かぶ離島、大津島。
徳山港から定期船鼓海Ⅱで約20分のこの島は、戦時中に人間魚雷回天の搭乗員訓練場があった島として有名である。訓練場の遺構は、現在でも観光施設として保存され、誰でも訪ねることができる。
訓練場へ辿り着くルートは、「現在では」強引に磯歩きでもしない限り、今回紹介する隧道しかない。したがって、大津島に観光に行ったことがある人ならほぼ間違いなく通ったことのある隧道なので、このレポートに物珍しさや資料的価値はないと思う。
それでも、全国的にはまだまだマイナーな大津島の隧道の良さを少しでも伝えたいと思った次第である。生雲隧道みたいな大ネタが続くのもしんどいしね。

まずは地理院地図の確認。地図右側のフェリー乗り場があるのが馬島港。ここから西へほぼまっすぐ進めば隧道。きわめて分かりやすい!

大津島の馬島港に上陸。回天の島で売り出し中。島には他にもフェリーが寄港する港があるが、訓練場跡の最寄りはここである。観光センターのような施設もあり、本土の者からすればこの場所が島の玄関口と言える。

港近くから海を見ると何やらたくさん金属製と思しき輪っか付きの支柱が埋め込まれている。何これ?

港近くに公園があり、奥まで進んで西の海の方を見ると、

すでに訓練場跡が見えている。
隧道へはこの写真の右の方にある道から行ける。

1車線幅の舗装された道を進むと隧道坑口。なお、手前に車止めがあるので自動車は来ない。
坑口左に案内の看板がある他は、扁額もなく、装飾性を廃した戦時隧道らしい質実剛健さを感じた。
看板を近くで撮るのを失念していたが、書いてあった知識については適宜紹介する。
まず、隧道の長さは247m、高さは約4mで、訓練基地と回天整備工場、現在の大津島小学校とを結ぶものだったそうだ。訓練場現役時代は軌道(レール)が設置してあり、現在でもその痕跡はあるらしい。

それでは入洞。

明るい!明るいぞ!
廃隧道ファンは隧道と言うと強力な懐中電灯が必要だと錯覚しがちだから、まずこの明るさが新鮮笑。
なるほど、路面には確かにレールの跡が確認できる。
側壁やアーチは戦時中のものらしいが、すごく状態がいい。長方形をたくさん連ねたような模様は、コンクリート場所打ちのための型枠に長方形の木材を使用していた痕跡だろう。
戦時中、そしておそらくは突貫工事という条件から素掘りでもおかしくないと思うが、そこは流石に軍事施設ということで、少々の爆撃にもびくともしない強度を得るためにコンクリート巻き立てを施したのだと思う。

美しい洞内を進んでいくと、やがてゆるやかな右カーブ。そして半分くらい進んだ所で幅員が広がり、外光が差し込んでいる様子が見えた。

まず、この広くなっている部分だが、路面のレール跡を見れば一目瞭然、複線化している。案内板によると、複線部分は整備済みの予備の回天を保管しておく保管所だったらしい。
そして外光が入っている箇所は、

横穴!
10m弱の短い横穴の先に海が見えている。

横穴の先は、このように黒っぽい岩がゴロゴロする磯だ。右を見ると、先ほどより近くに訓練場跡が見える。
案内板によると、この横穴の場所は防空指揮所として利用されたらしい。もっとも、それは隧道完成後の役割が防空指揮所なのであり、横穴が掘られた本来の目的は、隧道の早期完成のためだと思う。
隧道を掘る際は、両端から掘り進めるのが一般的である。これだと2箇所から掘ることになるわけだが、横穴を開けて切羽(きりは。掘り進む工事部分のこと)を増やせば、倍の4箇所から掘り進むことができる。
写真で示せばこういうこと。

私は今回資料館を見れなかったし、想像でしかないのだが、この隧道は戦局の悪化に伴い急遽作られたものだろうから、工事を急ぐために横穴からも掘り進んだのだろうと思っている。

かつての防空指揮所で座っておむすびを食べ、隧道の続きへ。

複線部分は写真が飾られたギャラリーとしても利用されている。


やがて単線にもどると左カーブ。出口の明かり!どんな隧道でも、貫通を感じられる出口間近の雰囲気が大好きだ。

脱出、即海!という潔さ。隧道を一歩出ると、そこは。

回天訓練場のお出まし。
桟橋を進んだ先の、要塞のようなコンクリートの構造物だ。
進む前にこちらの坑口も見ておこう。

扁額はないが、通常扁額がある位置に3つの四角い穴がある。この穴がシミュラクラ現象によって顔に見えるから、なんだか可愛いぞ。

海!空!訓練場!いい!
そしてもっといいのは、ここで振り返ったところ。

多くを語る必要はない。
超カッコいい!!
右の方に横穴の入り口がちらと見えている。
ところで、この写真、隧道と同じ高さの磯に道のような平場が見えないだろうか。この時は平場があるから隧道完成前の旧道かなと想像するだけだった。
帰ってから周南市のサイトを確認すると、この磯の平場は隧道完成前の運搬ルートとして切り開かれたものだと判明した。
詳しい解説と写真があるので、ぜひこちらのサイトを見ていただきたい。むしろこれを見れば私のレポートなど不要である笑。

まあ、観光地だし、と少々斜に構えて臨んだが、結局私は隧道と海が大好きなので、大いに楽しんで歩いた。誰でも気軽に訪ねるのとができるので、ぜひ多くの人に楽しんでほしいと思う。
肝心の訓練場はどうしたと思われるだろうが、これは道路と隧道のレポートなので、割愛する。
ここから先は自分の目で確かめよう!

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