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【短編小説】桜の季節の約束#5「約束」

前回のお話はこちら


 カメラアシスタントとして日々の仕事をこなす中、カオリはスポーツイベントの撮影に同行し、ひそかに自分でも写真を撮ってスキルを磨いていった。
 彼女が一番力を入れて撮影したのは、陸上競技のマラソン大会だったが、思ったよりも難しく、走るランナーたちの顔がブレたり、手元が震えているのが分かってしまう。なかなか思うような写真が撮れない日々が続いた。
 カオリは、仕事の合間を練り、何度も現場を訪れては、選手たちの走る姿を、時には誰もいないグラウンドを撮り続けた。
 やがて、ひとつだけ成功した写真を撮ることができた。しかし、周りからは新人だから仕方がない、といった風に言われ、少しだけショックを受けた。

 そして、ある日、編集者から「この写真、載せるから」と言われた。その写真は、ユウが走り抜ける姿を捉えたものだった。雑誌のページに小さく、けれども確かに載っていた。
 カオリは喜びよりも驚きが勝った。自分の撮った写真が掲載されるとは思ってもみなかったからだ。その瞬間、彼女は自分がスポーツカメラマンとしての道を進むことを決めた。

「カオリさん、いい仕事したね」と上司から褒められた。しかし周りの人たちの目は冷ややかだった。


次回、桜の季節の約束 第6話 投稿予定です。

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