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梨木香歩『炉辺の風おと』読了

(2022年3月の過去記事の再掲です)

 いらしてくださって、ありがとうございます(´ー`)

 先日、書店に行った折、梨木香歩さんの文庫作品をコンプリートしてまいりました。あとは単行本が数冊、未入手なのですが、こちらはゆっくりと揃えていきたいと思っております^^

 現在、3冊の本を並行して読んでいるのですが、今回購入した梨木さんのエッセイをどうしても先に読みたくて、買ってきたその日に読了しました。

 本作『炉辺の風おと』は、2020年に刊行されており、入手したのは2021年2月の第4刷(毎日新聞出版)。初版の発売当時、某誌上で、本文中のある一節がまるっと紹介されていたのですが、その内容が長らく気にかかっていて。ようやく本書を最後まで読んで、経緯が腑に落ちたのでした。

 もともとは2018年4月から2020年6月にかけての、週に一度の誌上連載だったエッセイを一冊にまとめた本作。全五章それぞれのタイトルが、

第一章 山小屋暮らし

第二章 巡りゆくいのち

第三章 鳥の食事箱

第四章 いのちの火を絶やさぬように

第五章 遠い山脈(やまなみ)

 となっているように、八ヶ岳の山小屋での、そこにしつらえられた炉辺を含む、小屋周りの素朴な明け暮れ、鳥や植物、小動物のこと、そして亡くなられた御父上の最期の日々のことなどが、しんとしずかな筆致でつづられています。

 これまで読んできた梨木香歩さんの小説やエッセイからは、深く澄んだ水底の、湧き水の揺らぎのような、美しさと寂しさとを綯い交ぜにしたような響きを感じていたのですけれど。本作『炉辺の風おと』では、その響きがさらに透き通っていて……なんだか遠く遠くへ行ってしまうような切なさも抱きつつ、読み終えたのでした。

 梨木さんの動物や植物たち、いのちあるものへの眼差しは、慈しみにあふれていて。自分もそうした眼差しを持ちたいと、まずは植物や鳥の名を覚えてみようとしたところで、到底、追いつくものでなく。それでも梨木さんがこうしたお作品を生み出してくださるおかげで、この頃はすこしだけ、鳥の姿を見分けられるようになり、土手に揺れる植物の姿にも、ゆっくりと目がいくようになってきました。私の手の届く範囲に息づく「大切にすべきもの」を、見逃さぬようにありたいと思うのです。

 御父上がお亡くなりになる前後のことや、病院の待合室での一節は、読みながら何度も天を仰ぎました。たった一人で逝かせてしまった父のこと、己の病のことが思い出され、深夜に声をださぬよう涙して。

 人の、いえ、人だけでなく、植物も動物もみな、命はなんと儚いものか。

 それでもその儚さのなかを、それぞれが懸命に生きている。

 みんな、生きて──。

 かなうならすべての命が、すこしでも長く、おだやかにありますように。

 等しく尊いこれらの命が、けして理不尽に断ち切られることなく、全うできますように。

 読み終えて、しみじみとそう思ったのでした。

・・・・・

 最後までお読みくださり、ありがとうございます<(_ _)>

 春、三月。小学校の校長先生が毎年仰っていた「一月は行ってしまう、二月は逃げる、三月はさっさと去る。うかうか過ごすでないよ」という言葉を思い出しつつ。

 今日もみなさまにおだやかな佳き日となりますように(´ー`)ノ

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