[Short Story] 待ち人来ず
私は毎晩待っている。
部屋の片隅でじっと。
今夜もあの人は来ないかもしれない。
でもやっぱり待ってしまう。
ため息が糸を揺らす。
やっと誰かが来たみたい。
胸がちくちくする。
けれど、今夜訪れたのは待ち人ではなかった。
もう、耐えられない。
その晩からは毎日違う人が訪れ、私はそのすべてを受け入れた。
でもやっぱりあの人は来ない。
胸のちくちくは増すばかり。
そして今夜は誰も来なかった。
抑えられない情熱がほとばしり、思わず一人で……。
私は蜘蛛。
巣を張った部屋では私と同じように、一人の女が想い人を待ち続けている。
彼女もまた、躰の内なる熱りに堪えられないようだ。
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