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きれいとこわい

清潔とか、除菌とか、
そんなことを気にしすぎないといけない時代が
ここ数年つづいている。

やれ、
咳をすれば苦い顔をされ、
吊り革をさわったら除菌、
帰宅したら洋服も除菌、
じょきじょきじょっきーんである。

面倒だと思う人にとって、
こんな時代早く終わってくれ!だと思う。

けど、私は案外苦ではないのだ。


大学生のとき、病気で長く入院していた。

免疫力が落ちる病気だったため、
感染症対策が徹底された病棟にいた。

病室から出る時は、必ずマスク。
部屋にもどったら、手洗いとイソジンうがい。
床にものを落としたら、自分で拾わずナースコール。

いまのこの時代は、
そのときのルールを、
日本中のみんなで徹底しているようで不思議な感じがする。


いまも、あのときも、
どちらも命を守るためのルール。

病棟にいたときは、わかりやすく
「自分の命のため」に守っていたけれど、
いまの時代は、
「自分とみんなのため」に守っているから、
あんまり長く続くと、ルールの守り方がゆるくなってしまうのも、仕方がないように思う。


徹底的にルールを守るか、
ストレスをためすぎない程度の、ほどほどにするか。

私は、あのときの経験があるから、
あんまりストレスを感じないけど、
入院しはじめのときは、ほんとに窮屈に感じたなぁと思い出す。


病棟でルールに染まり切ったころ、
掃時のおじさんが、看護師さん以外近づいてはいけない
無菌ゾーンに入ってきたことがある。

ルールに慣れ切っていた私は、
びっくりして、こわくて、
思わずナースコールを押してしまった。

飛んできた看護師さんは、
掃除のおじさんにルールを注意してくれた。

だけど、とても後味が悪かった。

私がナースコールを押したのは、
床にものを落としたとき、つまり
「不潔」とされるものを自分から遠ざけるときと
まったく同じ原因・行動だったのだ。

床のゴミと、おじさん。
おじさんが汚いのではない。
むしろきれいにするために働いている人。

「汚い」は「こわい」という感情とひっつくから
ほんとうにやっかいだ。


この時代の、清潔のルール。

結論の出せない問いだけど、
ルールに慣れつつ、染まりすぎず、
「こわい」に支配されない理性をもって
この時代を過ごしていきたいな。


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