ありのままの君で(創作)vol.2

「あのお客さん、あなたのこと気に入ってくれてるね」
『そうですか?』
 仕事場の先輩にそう言われて真面目にキョトンとしてしまった。良く来てくれるお客さんで私によく世間話をしてくれる。確かにお客さんに気に入ってもらえる様に接客はするけれど、仕事に必死で気にいってもらえてる実感は実はなかった。仕事場の先輩にそう言われて、嬉しさが込み上げてくる。
 私の名前は優です。小学生の2人の子供を育てる主婦です。子供は発達障害を抱えていると思うのですが、まだ私の中で、(そうじゃないといいな)という想いもあり、踏み出せずにいます。

 仕事場は小学校からほど近いコンビニエンスストアです。学校があるお昼の10時〜15時位までの時間だけ、家の人の扶養内で働いていました。お昼時になるとお客さんが来て、慌ただしくなります。でも、お客さんに気に入られたり、仕事をこなしている時は、子供達の事を考えなくて良くて、今の私には無くてはならない居場所でした。
 仕事をしている時の私が1番好き。イキイキしてる私は誰よりも輝いていて、笑顔でなんでもうまくいく。そんな様な気がするんです。

『ありがとうございました。いってらっしゃいませ』
 お決まりの挨拶に笑顔を添えて、少し大げさにお客さんを送り出します。子供を持つのが早かった私にとっては仕事ができる事が本当に幸せでした。普通だったら考えられないかも知れないけど、社会と遮断された様な気持ちで子育てをしていた時期を考えると、家庭とは違うコミュニティを持てる事は私にとっては救いでした。今日も終わりの時間になりました。少し時間が過ぎてしまったけれど、申し訳ないのでゴミの片付けだけして帰り支度をします。
『お疲れ様です。お先に失礼します』
「はい、お疲れ様。今日もありがとう」
仕事が終わると少しため息をして、車に乗り込みます。

 仕事が終わる時間には小学校の下校の時間になります。家の方に帰ってくる我が子を見ようと少し道を迂回して下校途中の我が子を少し見届けます。

 いつも集団の後ろの方か、前の方にいます。今日は後ろの方でしょうか。前の集団の子達は楽しげに話していますが、うちの子は後ろの方からとぼとぼ歩いています。
(あれ?今日は先生も一緒みたい) 
 うちの子の隣には背の高い大人の男性が一緒に歩いていてくれていました。見た事のある姿に担任の先生なのが分かります。
(あ、もしかして、、、)
 嫌な予感が頭をよぎります。私の車の隣を先頭にいた子供達が通り過ぎていきます。それを見届けてから私は車から降りて我が子に近寄って行きました。
『先生、ありがとうございます。付いてきていただいて。何かありましたか?』
 極力、冷静な声が出せるように意識したけれど出てきた声は早口で少し神経質になってしまいます。「T君のお母さん、実は昨日の下校中にT君が「頭をぶつけて死んでやる」って言って、河原の石に頭をぶつけようとしたみたいで、今日は心配で一緒に付いてきたんです。昨日帰りの家では何か変わりは無かったですか?」

 人は耐えられなくなると一瞬思考を停止する機能があるみたいで、私は何も考えられなくなってしばらく先生の言葉の意味を理解するのに時間がかかりました。

『、、いいえ、昨日は普通でした』
「そうですか。分団の同級生の子に道をはみ出したのを注意されたのが気に食わなかったみたいで、衝動的になったみたいです。お母さんもお仕事大変かと思います。T君に色々聞いてあげてください」
『ありがとうございました、、、』

 少し呆然としながら、我が子を慌てて車に乗るよう伝えると家まで車を走らせます。

(どうこの子に声をかけたら良いんだろう)
(どうこの子に接してあげたら、衝動性が治るんだろう)

 昔から衝動性があり、癇癪持ちの子でした。優しい一面もありながら、失敗したりこだわりを遮られると泣き叫んで手がつけられない時がありました。気持ちが落ちると止められなくなるようです。

 家に帰ると、子供に状況を聞く前に、私が正解だと思う言葉をすぐ持ち出してしまいます。

『あなたの気持ちの持ち方の問題よ。注意されても自分のせいなんだから、怒ったりしちゃダメよ。優しい気持ちになりましょう』
『相手の子も危ないと思うから注意するし、ダメな事だから言われるの。我慢しましょう』

 内心は泣き叫びたくて仕方なかった。
(なんで、なんで普通の子と一緒に出来ないの!) 
でも、そんな事言える訳が無い。

 私と、この子の未来は、どうなるんだろう。漠然とした不安はずっと私の隣に居て、早く大きくなって落ち着くと良いな、という思いで毎日過ごしていました、

 いつか良くなると笑顔だけは絶やさずに。
 絶対、上手くいくんだ。
 それだけを信じて明日も生きていく。

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