雨と無知 【ショートショート#002】
みらいみらい、あるところに花子という人がいました。花子は今年で110歳。
雨がちらつくある寒い朝のことです。花子は目をさますと、テキパキと家を出る準備をしていました。
「今日は雨だ。出歩くのにこんなにバッチリな日はない。」
花子はそうつぶやきながら、朝食をとることもなく、外に出て散歩を始めました。いつものように、気持ちよく雨模様の空になったときは、決まって花子は外に出て雨のしずくを浴びにいくのです。
外で雨を浴びるために散歩をしているのは花子だけではありません。お隣さんの山岸さんも、お向かいの佐藤さんも、みんな雨の日は気持ちが良いから外に出て散歩をします。
「あら、晴れてしまいそうじゃない。」
せっかく降っていた雨がやんで、晴れてしまっては全てが台無しになってしまいます。なぜなら、雨は人々の元気をつくる源であり、その雨に含まれる特別な薬のおかげで花子の国の人々は病気にかかることがなかったのです。
それからひと月後、冬本番に入った花子の国にある異変がおきました。
来る日も来る日も晴れる日が続いたのです。人々は元気をなくし、毎日空を見ては雨模様になるのを待ちわび、雨にあたることができずに病気になって死んでしまう人が増えてしまいました。
なんと、花子の国で降らせていた薬は尽きてしまっていたのです。
政府の人たちはこの状況をなんとかするために、話し合いました。そして、「尽きてしまった薬はあきらめ、とりあえず雨だけでも降らせることはできないか」と考え、水だけを降らせることに決めました。
長い冬が終わり春が来て、また雨は降り出しました。雨を待ちわびていた人々は雨が降り出すと、大きな喜びの声をあげ一目散に外に出て雨を浴びました。お隣さんも、お向かいさんも、みんながみんな喜びすすんで雨を全身に浴びたのです。
そして、不思議なことにパッタリと病気になる人はいなくなってしまったのでした。
おしまい。
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