彩度の晩餐【ショートショート#008】
みらいみらい、あるところに明子と正男という二人の老夫婦がいました。ひとり息子のノリオは昨年大学を卒業し今年で社会人二年目。二人は一段落した子育てにホッと一息をついて静かな生活を送っています。
ある日のこと、明子は息子のノリオへメッセージを送りました。
「ノリ元気?ご飯はちゃんと食べてる?たまにはうちでご飯でも。」
便りのないのはよい便り、と明子は思いながらも独り立ちしてしまった息子に少しの寂しさを感じつつ、あまりしつこくなっても良くないと思いながらときどきこんなメッセージを息子に送るのでした。
「うん、じゃあ今度のゴールデンウィークに帰るよ。」
ノリオがそう返信すると、明子は正男に
「今度帰ってくるって、晩ごはんは何にしましょうか?やっぱりノリオの好きなトンカツかな?」
といつもより明るい声で話す明子に正男は
「うん、それにビールでも用意しておくか。体もちょうど新しくなって1年、なれてきたところだから、久々にお酒もいいだろう。」
と乗り気で返しました。
そして迎えたゴールデンウィーク。ノリオは二人の元へ帰省してきました。ノリオは久々の食卓に、戸惑いながらも笑顔になりました。
「久々のご飯にトンカツだよ。ありがとう。いただきます!」
父の正男はビールを注ぎながらノリオにききました。
「まぁまぁビールでも飲みながら食べようじゃないか。それで、どうなんだ?仕事は。」
ノリオはそれに元気よくこたえます。
「仕事は楽しいよ。きつい仕事が多いんだけど、新しい体にアップデートして、それからだいぶ楽になったんだ。荷物を持ち上げるのも楽だし、直接コンピュータに繋いでキーボード無しで入力できるから効率がいいんだ。」
「そうかそうか、新しい体も馴染んだようだな。」
正男は感心したようでした。
「でもね、工業向けだから匂いとか味とか食感がぼやけるんだよな。でもこうしておふくろのトンカツを食べたらなんとなく思い出したよ。」
一家の団らんは続いたのでした。
おしまい。
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