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あるエンジニアがSaaSにハマった理由

はじめまして。フラジェリンという会社でCTOをしている浅野といいます。製薬会社向けのSaaSを開発しています。ソフトウェアエンジニアとしてのキャリアは10年と少しで、前半はtoCサービス、直近5年ほどはSaaS開発してきました。向こう5年も同じようにSaaS開発をしていると思います。

最近採用活動をしていて感じることなのですが、toCをメインでやってきたエンジニアにとってtoBのサービスって少し取っ付きにくいのではないでしょうか?SaaSスタートアップがいっぱい出てきてるし興味はあるけど、何が面白いんだろう?って感じている方もいると思います。

ぼくは今ではもうすっかりSaaS開発にどっぷりなのですが、toCをやってたときはtoBにはあまり興味がありませんでした。そもそも今ほど盛り上がってませんでしたしね。そんなぼくがどういう経緯でSaaSにハマって、やりがいを感じるようになったのか、という話を書こうと思います。

なぜtoCが面白いのか?

これは簡単でtoCは知名度の高いサービスが多いからです。GAFAだってだいたいtoCです。いや彼らは広告やクラウドサービスもやってるじゃないか、という異論はあるかと思いますが、誰でも使えるサービスという点でここではtoCに分類しておきます。

ぼくもWeb業界で働き出した時は多くの人々に楽しんでもらえるサービスを作りたい思いでいっぱいでした。当時はTwitterやFacebookが日本でも普及していった頃です。彼らのおかげでその後ソフトウェアエンジニアの待遇はかなり改善されましたし、生活にインターネットがなくてはならないものになりました。それはすべてtoCサービスのおかげと言っても過言ではありません。

そんな時流の中でtoCサービスの開発をしながら業界を眺めていると、後の筍のようにスマホゲーム、ブログサービス、クラウドファンディング、メッセージングアプリなどが乱立し、激しい競争が繰り広げられていきました。

「今こういうアプリが海外で来てるから日本でも展開したい」
「今若者の間ではXXXが流行ってるから彼らに刺さるものを出したい」
「技術はオープンソース使えばなんとかなるでしょ」

どんどん市場は飽和していき、競争もマーケティング勝負になり、有名IPとコラボしたゲーム、広告を大量にうったアプリなどが知名度の高いサービスの筆頭になっていきます。気がつけばレッドオーシャンです。もはや競争に勝つためだけに開発をしている状況でした。

SaaSとの出会い

日々量産されるtoCアプリに関心を失いつつあったぼくは、ある日、別の会社の友達から「採用管理システムが自社で動いているが手を付けられなくて困っている」という話を聞きました。

「採用管理システム?なにそれ楽しいの?」
はじめ聞いたときにそう思いました。

仕事の昼休みにオフィスにお邪魔してシステムの構成を見させてもらうことになりました。それはAWS上で動いてるAngularベースのSingle Page Application(SPA)でした。オフィスに席は10以上ありましたがなぜかほとんど空席。コードを少し見せてもらって「これは厳しいなぁ」と思ったのを覚えています。紆余曲折を感じる追いづらいコードでした。

人事システムなんてそれまでイメージしたことはありませんでした。しかし企業の人事にはだいたいどこも問題があると感じていましたし、AWSやSPA、数人のスタートアップも面白そうで、直前に資金調達をしたので1-2年は生存できるということでした。自分を試すにはいい機会だなと思った末、その会社に転職することに決めました。

入社後さらに状況が見えてきました。

- 数十の企業が実際に採用業務に利用している
- サービスはβ版で誰も課金していない
- 開発に関わった人は10人くらいいたが離散している

妻子持ちなのにやばいところに就職しちゃったな、と思いながらもやる気は満々でした。

リニューアルして炎上

まずこのシステムをこのまま使い続けるのか、新しく作りなおすかを決めなければなりませんでした。かなり迷ったのですがどちらを選ぼうと開発の責任は自分が負うしかない状況だったので、「今のシステムだとなにか起こっても責任取れないな」と思い、新しく作り直すことに決めました。

決めてからはひたすらリニューアルに向けてコードを書きました。頼れるものは既存のコードと動いているサービスだけで、仕様書はないし、システムに詳しい人はもう退職しています。

「まだ誰も課金していないし、ある程度のリスクを取ろう」

そう思ったぼくはシステムとUIをドラスティックに書き直していきました。後から考えると少し楽観的過ぎたかもしれません。既存ユーザーとイメージのすり合わせを行い、レビューを経てリニューアル版を固めていく方が安全でしたが、時間も既存ユーザーとの関係性も乏しかったため、そういうプロセスをなおざりにしていました。

そこから半年近く経ってリニューアル版が完成に近づいてきました。とりあえずUIは良くなったし移行テストもOK。基本的なワークフローは問題ないことを確認も確認できました。既存ユーザーに事前に通知していたリニューアル日が迫ります。

そしてとうとうリニューアル当日。データベース移行とサーバー切り替えが滞りなく完了しました。ようやくスタート地点に立つことができた!とチームで喜びを分かち合っていました。すると、今までほとんど音沙汰のなかった利用ユーザーから悲鳴、苦情が届き始めました。

「あの機能はどうなった?」
「いきなりこんな大変更するなんて想定してない!」
「御社のHPの利用企業一覧からうちの会社を外してくれ!!!」

特に最後のは強烈でした。大変なことになってしまった!!と今までの進め方を反省すると同時に、ひたすら苦情・要望に機能開発で応えるフェーズに突入しました。

見えてきた採用業務

会社は人手不足だったのでぼくも問い合わせ対応をやりました。慣れない業務でしたが、そのおかげで採用人事が日々何をしているのかが見えてきました。

例えば上場しているIT企業の規模だと選考中の候補者は常時100人を超えます。採用管理システムがなかったらそれだけの候補者とメールしないといけません。面接の日程調整もメールだし、面接のフィードバックを忘れてる面接官がいたらリマインドしないといけない。そもそも候補者の個人情報やその評価って結構デリケートなことが書かれているので扱いが厄介です。それってすごい大変じゃないですか?今まで目を向けてなかった採用プロセスの現場がありありと見えてきました。

視野が広がって採用管理システムへの見方も変わってきました。ソフトウェア開発における自動化がチームのパフォーマンスを劇的に向上させるように、それと同じことを採用や人事評価の現場でも実現できればきっと面白いことが起こるぞ!と思うようになりました。次第に採用管理システムのあるべき姿のようなもののイメージが頭の中で膨らんでいきました。

SaaSが熱い理由

もしあなたが何度か転職した経験があれば、世の中には様々な会社があると実感していると思います。多くの場合入社しないと現場の業務については中々見えてこないものです。ところがSaaSの運営をしているとそういった多く会社で行われている具体的な業務が横断的に、しかも結構な社数において知ることが出来ます。

ぼくがSaaSが面白いと思った理由はまさにこれです。世の中に数ある会社の業務に対して採用という職種軸で関わったり、業界軸で関わることが出来る。業務はしばしば最適化されたものではなく、非合理的に見えることもあります。明確な理由があるケースもあれば、ただの慣習による場合もあります。そういった背景がサービス運営を通じて見えてきます。特に現場から直接来る苦情や要望からは非常に多くことが学べます。

視野も広がります。例えば採用について国の制度にもいろいろな課題があることが分かりました。近接している人材紹介業や副業・転職サービスにも様々な事業者がいて、彼らの事情もあります。例えば人材紹介業は過去は人身売買と近しい業態であったため免許制となっていること、社員紹介の報奨インセンティブ制度はそういった規制に抵触しない迂回策であること、日本では人材紹介業が高すぎること。こんなふうに世界が広がる感覚はtoBの醍醐味です。

更に視野を広げて社会に目を向けると、人は可処分時間以外はほとんど仕事をしているわけで、社会を形作る要素として業務は支配的です。エンジニアとしての仕事を通じて社会を良くしていきたいという思いがあれば、SaaSを作ってそういった業務を改善していく、ひいては社会を改善していくことをきっと楽しめるんじゃないかと思います。

採用現場に限らず多くの業務には問題が山積みなので、SaaSの数だけ課題を抱えた業務が世の中にあるということです。これだけ多くのSaaSが出てきている今、世の中が業界単位での社会実装に向かっているのだと思って見るとワクワクしませんか?

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ざっとぼくがSaaSにハマった経緯をまとめてみましたが、SaaSの面白さについてお伝えできたでしょうか?ちなみにぼくのきっかけになったのはTalentioというサービスです。IT業界では使ったことのある友人もちらほらいるので、たまにそういう声を聞けるのはすごく嬉しいです。個人的に非常にいい機会を得られたサービスですので今でも応援してます。

noteではたまにこんな感じでSaaSとかスタートアップに関する話題を書いていこうと思います。よろしくお願いします。

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