アリとキリギリスーこれから
セミの抜け殻が庭に落ちている。
昔はこれを拾っては、佑介に届けると、何とも言えない顔をして、それでも
「ありがとう。」って受け取ってくれたっけ。
佑介が両親のいるアメリカに旅立つ八月最後の日、花火に誘われた。
もう、これでお隣のお姉さんとしての役目が終わる。
さみしさと、安ど感が入り混じる中、最後に線香花火が残って、佑介の幼馴染みの提案で、みんな一斉に火をつけ、最後まで残ったものは願い事を聞こうって言いだした。
一斉にみんなで火をつけるが、幼馴染の母が差しいれてくれたアイスに気を通られて花火の玉は次々落ちていく。みんな目先のものに気を取られ、もう線香花火の願いごとの事なんて眼中にない。
しかし、ただ一人、最後までやり遂げた子がいた。私の隣でじっと息を止めて、終わって、私を見てほほ笑む。暗かったのっで、そう思っただけだったのかもしれないけれど。
「わあー、すごいね!でももうみんな最初言ったこと忘れてるよ」
佑介は平然とした態度装って、私にだけ聞こえる声で囁く。
「いいんだ。僕のお願いを聞いてほしいのは陽子姉ちゃんだけだから。」
「え?」
私は暗闇の中でもじもじする様子の佑介をのぞき込む。
「顔近いよ。でももう見られないかもしれないから、うれしいけどさ。あのね。僕が向こうから手紙を送るから、陽子姉ちゃんの暇な時でいいから、返事送ってくれないかな。」
「文通ってこと?」
「まあそんなとこ。でも、ほんとに気が向いた時でいいの勉強も部活もあるでしょ?」
「佑介の仲良しさんでなくてもいいの?」
「保君?
たくさん友達いるし、きっと、僕の事なんてすぐ忘れちゃうよ。」
少し考えた後、
「わかった。」っと笑顔で答えた。
きっとそう長くは続かいないだろうと。高をくくっていた。
だが、佑介のアメリの生活の様子は小学生とは思えないほど魅力的で楽しく書かれていた。当時中学生の私より、よほど文才がある。
それが、三か月に一度届いた。私は時々返事を書く程度だった
けれど、いつからか、佑介からの手紙を心待ちにするようになった。
そうしてある時期から、半分は日本語で、半分は英文で手紙を書いてくるようになった。
私が進路を悩んでいた高2の夏のころだった.
佑介はいつの間にか手紙に陽子さんと書くようになっていた。
「僕も将来何をするか。悩んでる。夢がないわけではないけど、まだ漠然と思い描くだけで何になりたいとか聞かれても、うーんって思うだけ、とりあえず今は知識を蓄えて、少しでも陽子さんに近づきたいって思ってる。」
佑介は私がすごい秀才だと思ってるらしいが、
私が得意なのは英語だけだった。
それは佑介の手紙のおかげだった。
そして私は本場で英語の勉強をしたいと思うようになった
高3の3者面談は、荒れた。親はいきなり留学せずまず、日本の大学に進学する道を押しまくる。
しかし、そんな余計な学費を使うのは勿体ないと私は言い、
「もしかして、あちらに佑介君がいるから、そんなにこだわってるんではないか!」とまでいった。
「私は、彼の手紙のお陰で英語が 好きになったのは否定しないよ。でも、ただそれだけのこと、ちゃんと話せるようになるために本場でべんきょうしたいだけ。」
親はしぶしっぶ私の意見を、承諾した。
しかし一つ条件を付けた。英検2級に合格すること。
あちらの学校は9月スタート。
それまでに死ぬ気で英検の勉強に取り組んだ。
ある冬の日。佑介から久しぶりに手紙が来た。近況報告、最近ぐんぐん足が大きくなって義足のやり替えが忙しいとあった。来年は高校生になる。真剣に将来を考える時期かもね…・
それから、英語の歌を聞くと発音や聞き取りが上達するとアドバイス。
私は、今佑介に助けられている。しかし、小学生の佑介しか思いうかばず、実際に会って話したいと最近思うようになった。
どんなふうに成長しているんだろう。
思い描くのは美化された佑介だった。
ただ再会できたら、また線香花火を、一本だけで終わらないくらいしようと思った。
やっぱり、私は佑介がアメリカにいるから、留学したいと思ったのだと自分自身の本音に気が付いた。
まあどんな姿になっていようとも、中身は佑介だろう。
利発で生意気な少年が、どんな成長を遂げているか?
私は見事に英検に合格した。
両親たちの心配をよそに、私着々と留学の準備する。
留学先が佑介の住むところに近いことを知った父は、
「佑介君はただの幼馴染だからな。」
うわの空で頷く私は、めいっぱい線香花火を買った。
ロサンゼルスの空港に背の高い日本人がきょろきょろあたりを見い渡していた。6年の月日を経て佑介を見た。
すっかり立派な出で立ちになっていた。
私は彼に近づく。
「佑介君?」
彼は目を丸くして、私を見つめていた。一瞬時が止まった気がした。
「陽子さん?きれいになったね!」
「そんなお世辞言わなくていいよ。それより今晩空いてる?」
鞄から紙袋を出して佑介に渡した。
「明日からいろいろ忙しくなるから、久しぶりに一緒にしよう。願い事たくさんあるんだ。だから。何度もやってたくさん願いを聞いてもらえるといいんだけど。うふっ。」
「いいよ。僕もたくさん願い事あるんだ。」
二人は笑いあって空港の外へ手をつなぎ歩き出す。
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